目
「泉くん。キミ、両目をどこへ置いてきたんだい?」
目の前から聞こえる、僅かな嘲りを含んだ声。問いに答えず黙っていると、声の主、新宮宮古は一息をつき「目、盗まれたんだね」と呟いた。
彼女の言う通り、今現在、私の両目は繰り抜かれて穴がぽっかりと開いている。奪われたのだ。それもたまたま、突然の雨に降られて駆け込んだ廃屋の軒下で、これまた偶然そこに住み着いていた、人間に似た人間でないものによって。うかつであった。普段であれば目を背けて通り過ぎるような捨てられたあばら家に、自ら足を踏み入れてしまうなど、気が抜けているとしか思えない。新宮の「馬鹿なことをしたものだね」という哀れみ混じりの声に返す言葉もない。
「それで、どうするんだい? ボクがキミの目になってあげようか」
「誰が望んでそんな生き地獄を」
「ひどいなあ。まあいいや。目、そろそろ戻ってくるだろうし」
どういうことかと聞き返そうとして、眼窩に鈍い痛みを感じ、思わず呻く。眼球の周りを小さな虫が蠢いているような薄気味の悪い感覚がしばらく続き、気づいた時には私の両目は戻ってきていた。
差し込む光に目を細め、徐々に視界を開けていくと、ビニール傘をくるりと回す新宮が立っていた。彼女は私に傘を差し出し、大学へ行こうか、と微笑んだ。ああ、そうだった。こんな雨の中をわざわざ出かけたくはないと逃げていたのだった。今日の私は、どうしようもない。




