雨中
雨の日は外出しないという私の中でのルールを守り、布団にくるまり無意義な時間を過ごしていたところ、暇してるようなら散歩にでも行かないかという旨のメールが新宮から届いた。カーテンを開ければ外は朝から変わらず大雨であり、窓に吹き付ける大量の雨粒は誘いを断るのに充分であった。
「いやあ、悪いね。お詫びにおいしい甘味を奢ってあげよう」
断りのメールを送った瞬間に鳴り響く来客を告げるチャイムの音に私は思わず悲鳴を上げ、当然ながら居留守を使えるわけもなく、私は結局、雨の日に新宮と散歩に行くことになってしまった。けれどどうやら彼女は何やら奢ってくれるらしい。生活も困窮していたところだ、これは素直にありがたい。
「それで、今日はどこへ」
「お墓」
こうして連れられてきた墓場であるが、天気があまりよろしくないというのに、そこかしこに人集りができていた。よくよく見ればそれらは人でないものだったが、新宮が言うには特に実害があるわけでもないから極力目を合わせないようにするだけで構わないということだった。だからといって覗きこもうと近くに来たそれらを払いのけたり蹴飛ばしたり、場合によっては自ら進んで排除しに向かうのもどうかと思うが。
「さ、ここだよ」
着いた先には半壊した小さな祠があった。片側の扉はどこかへ消え、屋根はもはやあってないようなものであり、本来であれば中に収められているべきであるものが外へ投げ出されているという有り様だった。恐らくは、ここ数日の荒れた天気で崩れてしまったのだろう。
「それじゃあ、泉くんにも手伝ってもらおうかな。ボクが祠に応急処置を施すから、その間はボクだけを見ていてね。もし少しでも横や後ろ、上や下を見たらどこかへ連れて行かれちゃうかもしれないから気をつけてね」
その後、私が新宮を見ている間ずっと、私を誰かがじっ、と見ていた。見張っているのか、見張られているのか、どちらであるのか分からなくなってきた頃、処置を終えた新宮が声を掛けてきて、私の呪縛はようやく解けた。視線の件について声を震わせながら話すと、みんな寂しいだけだからと笑われた。どうやら騙されていただけらしい。
もう二度と散歩になど付き合うものか、と思いながらも奢りの誘惑には勝てず、私は新宮の後をとぼとぼついていくのであった。




