呼ばれる
中学時代の私は特に親しい友人もおらず、授業中に限らず学校生活の殆どを俯いて過ごし、休憩時間になると図書館へ逃げこむような、陰気で、根暗と呼ばれるような少年だった。実際話してみれば決してそんなことはなかったと自分自身では思うのだが、私に話しかけてくるような奇特な同級生はイタズラ目的であるとかの理由を除けばほとんどいなかったと言っても良いだろう。私の中学時代は、一人ぼっちそのものだった。
そんな中学時代の同級生から、飲み会があるから参加しないかと電話があった。どこから私の連絡先を知ったのかを問うと、なぜだかはぐらかされて、絶対に来いとだけ言い残して通話は一方的に切られてしまった。結局最後まで電話の相手が誰だったのかは分からなかったが、私の話した相手が人ではないのだということは、私の目の前で甘味を食んでいる新宮の睨めつけるような視線から察することができた。
「どうしたらいい?」
「行ったほうがいいか、ってことなら、ボクは止めるよ。けど、行かないと来るかもねえ」
悪戯な笑みを浮かべて白玉ぜんざいを口へと運ぶ新宮である。行きたくはない。しかし行かなければ向こうがこちらへ来るという。それならば私はここに留まる。寒くなってきたところをわざわざ厚着してまで出かける必要はあるまい。
「決まりだね。さ、泉くん。もっと食べなよ」
賞味期限が今日までのぜんざいをただ無心で口へ運んでいると、私の背後、窓の外から、私を呼ぶ声が聞こえた。泉、泉と呼ぶその声は、ノイズ混じりの男の声で、どこかで聞いたことがあるがしかし、幼少時までを遡っていっても思い出せないであろう、記憶の彼方へ飛んでいる、ぼんやりとした声であった。私が無視して振り向かずにいてもその声はなおも私の名を呼び続けていたが、ふと新宮が、私の名が何だったかと尋ねてきた。今の今まで知らなかったのかと呆れながらも×××だと答えると、瞬間、私を呼ぶ声は消え失せた。
「勘違いだったみたいだね」
「……前にも何度か同じようなことがあったから、また、あるかもな」
こうして再びぜんざいを食べる作業に戻り、日は暮れていく。
ぜんざいはまだ、山のように積み上がっていた。




