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雨宿り

 突然の豪雨に溜息を吐き、家路へ向かう足を急がせる。入っていないと分かっていながら鞄を漁り、折り畳み傘の感触を掴めないまま再び長い溜息を吐き出しては鞄を閉じる。天気予報くらいは確認しておくべきだった。これではわざわざ外へ出てまで購入した本が濡れてしまうではないか。私は私を呪いつつ、水溜りを蹴って先へと進んだ。


「や、そこ行く人は泉くんじゃないか」


 雨の音の中でもよく通る声が私の足を止め、視線を向ければ新宮宮古が立っていた。雨宿りの最中なのだろう、開いた文庫本を片手に持った彼女は、もう片方の手で私を廃屋の軒下へと手招いていた。


「急いでいるところを呼び止めてすまないね」

「いや」


 二言三言、取り留めのない会話を続けて無言の時間が数分続いた。時折彼女は何かを私に告げようとして口を開くが、それ以上は流れ出てこない。痺れを切らして何か言いたいことでもあるのかと先手を打てば、新宮は、大したことではないのだけども、と、ぽつりぽつりと話し始めた。


「キミ、その本、どこで買った?」

「駅前の古本屋」

「値段を聞いても?」

「百円と少しくらいだったか。希少なもの、ってわけでもないから安いのを探してたんだ」

「それ、今すぐにでも手放したほうがいい。何ならボクが買い取って、同じものを買い直しても構わない」


 真に迫る新宮の表情を見て、そこまで言うのなら、と私は彼女に本を渡した。すると彼女は受け取ってすぐ、本を目の前の水溜りに放り、私の動揺を少なからず誘った。基本的に彼女は物を大事にする人間である。その本がよほど嫌いだったのだろうか、と思う間もなく、彼女が放った本は発火して、数秒の後、煙も残さず雨に流され消え失せた。


「あの本の元の持ち主、理由があって手放したんだろうが――ああもう、手がベタベタだ」


 見れば、新宮の手には粘り気のある黒い液体が付着していた。彼女に促されて確認してみれば、私の手にも同様のものが付いていた。服で拭おうとしたが新宮に止められ、少し濡れるが、このままでいるよりは、と、近くの甘味処に誘われた。珍しく、好きなものを奢ってくれるという。

 気がつけば、雨は上がって日が水滴を照らしていた。

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