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冬の帝国 黎明期 ③


 王子、様?


 私は呆然とロルフと姫様を見比べる。

 まぁ、と姫様は目を輝かせて、嬉しそうに表情を綻ばせる。その満面の喜色を見て、息を飲み込んだ。

 エレオラウファンの子孫ということは、そういうことなのか。


 この人は、エレオラウファンの意思を抱えて生まれたその人だというのだろうか。


 姫様が、ただひたすらに待っていた、たった一人。


 置いてけぼりにされたような気持ちで、しかし何も言えず、誰かが何か言い出すのを、待っていた。


「ではその黒髪は、初代国王の漆黒を受け継いだのですね。言われてみれば、少し雰囲気が似ているかしら」

 懐かしそうに、姫様はロルフを見つめて、笑った。

 でも、とおっとりと首をかしげる。

「どうして、私に会いたかったの?」

 そんな問いかけに、ロルフが表情を硬くする。その瞳いっぱいに戸惑いと疑問符を浮かべて、次の瞬間かき消すように笑った。

「神殿に長くとどまる、最後の女神にお会いしたく。ずっと、子供の頃から。一目……」

 その瞳には熱がこもっていた。姫様を求める人が持つ、特有の温度。なぜだか私がどきりとする。ずっと待っていた人に、そんな目で見つめられてしまったなら、どんなに。

 まぁ、と姫様が嬉しそうな声を上げた。ハッと、私の意識がそれる。視線を向けると、姫さまは口元を抑えながら驚いた顔をして、ころころと笑った。

「とても光栄です。良ければ、お城に伝わるエレオラウファンのお話を聞かせてくださる? わたくしが待ち焦がれる、最愛のお話」

 奇妙な間があった気がした。ロルフは一度口を引き結んで、そして、何事もなかったかのように笑顔で頷く。その笑顔は、なんだかとても傷ついているように見えた。姫様はそれに気づいた様子はなく、ひき結んだ笑みを浮かべるロルフに、子どものようにお話をねだる。

「エレオラウファン様の伝説は、数多く残っていますよ」

 嬉しそうに聞き入る姫君を見つめながら、私はホッと肩の力をぬいた。ベルギウスが神殿にいない今、息をつけるほんのわずかな時間だった。


 楽しげに話す二人の傍らでただ控えていると、視界の端でハガテから手招きをされ、不思議に思いながら側に寄る。予備動作なくひたいに手を当てられたのも束の間、身をよじる暇もなく担がれた。

「今、姫様のそばにいるのは、あなただけなんだろう」

 それがなんだというのだ。私に何をするつもりだろう。信じていたのに、敵にまわられていたというのだろうか混乱する頭で状況を好転する手立てを探す。

 絶望的だった。

「っ、」

「こらこら、暴れるな」

 破れかぶれに出ようとする前に、ハガテに留められた。押さえに来た手が予想外に優しくて、私は対応を見失う。なんなのだと目の前にある肩口に噛みつこうとして、優しく頭を撫でられた。

「一人で気を張っていたんだろう。少し休んだほうがいい。姫様には、私たちがついているから」

 次の間の長椅子に横たえられ、外套をかけられる。ついさっきまでハガテが身につけていたものは暖かく、牙を抜かれるような妙な焦燥感がある。

 いいえ。

 そう、起き上がろうとしたのに、温かい手に目元を覆われた。ずん、と頭の奥が重くなる。意識が遠く、泥か何かに飲み込まれる感覚があった。



 眠りに落ちたこどもを眺めながら、ハガテはため息をついた。

 私の姫様は世界で一番なのだと、主人を敬愛してやまない、盲目的な女神信仰者。

 なぜ、いつから、このこどもがこの神殿で女神のそばに侍っているのか。それを知る者は少なく、ハガテ自身、真偽のほどの定かでない噂でしか知らない。

 もうしばし待てば適齢期と言われる頃に差し掛かるとはいえ、外を知らず、女神に心酔するその様は、あどけないこどもそのままだった。

 眠りに落ちたその顔を眺めながら、ハガテはそっと目を伏せ、息を吐く。こんなこどもを神殿に引き止めたまま、閉じ込める女神を非難すべきば、作り出したその境遇を分かち合う様子に理解を示すべきか。女神がどこまで人間に寄り添ってくれるものなのか。

 わからないことは、それ以上考えるだけ無駄だった。全てが仮定の憶測になるために。

 ふと、ころころと笑い声が聞こえて、開け放ったままの扉の向こう、女神と王子殿下の方を見やる。女神は楽しげに笑い、対する王子は寂しげだった。寂しげに、けれど、熱を持って、女神を見ている。


 王子殿下がなぜ女神に会いに来たのか、案内をしたハガテ自身はよく知らなかった。筆頭護衛がそんなあやふやな理由で、こんなところまで貴人を案内したのかと人は思うだろうが、ハガテはこの王子のことを詳しく知らない。

 ハガテの敬愛する主人が、ロルフを女神の元に案内せよと命じたのだ。城から動けぬハガテの主。自分の代わりとして、ロルフを神殿の女神に合わせて欲しい。自分のことと思い、守って欲しい、と。

 数日かけての渾身の願いに、そばを離れることに抵抗していたハガテは、とうとう折れた。


 ハガテの主人は、ロルフの願いを知っているのだろうか。それとも主人の願いを、ロルフが叶えるためにやって来たのだろうか。


 少なくともロルフの願いを、ハガテは知らない。


 女神の元にやって来た、その、目的を。



短めです。

加筆するかもです。


この子超過勤務甚だしそうだなって思ったら寝かしつけたくなって、寝かしつけたらハガテさん視点になって、なったらそのまま締めてしまわれたので、短くなってしまいましたとさ。。。

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