こうして歌劇は世に成った
拍手の再録です。
いずれ、世界に融けたとしても。
あなたを感じられないのであれば、意味がない。
喪失を恐れて何が悪い。それを拒んで何が悪い。再びこの手にと、望むことの、何が。
ただ、あなたを失いたくなかっただけなのに。
その願いが、この災厄を引き起こしたというだけで。
それは、 うた だった。
嘆きのうた。高らかに、世界に響いた悲嘆の声。
詩人は空を仰ぎ、ひとしずく涙をこぼした。
傍らに座る幼い歌姫が、そっと手を伸ばしそのしずくを拭う。歌姫の目にも浮かぶ涙に、詩人はクシャリと顔を歪めた。
神が一人、また一人と、天へ帰っていく、この時代。世界は神の加護を失いつつあった。
天なる母から与えられた土地を、彼らは肥やし、育て、糧を実らせ、そうして、手が離れたと判断し、土地に未練が無くなれば天へ帰っていく。
一度無に帰したこの世界を、彼らはここまで育ててくれた。
それでも、彼らの故郷は天なのだ。
彼らは帰っていく。
もといた世界へと。
振り返ることもなく。
詩人と歌姫は、そうして神が去っていたいくつもの国を見てきた。
けれど去り際、ここまで悲嘆にくれた神様はいなかった。
いずれ世界に、融けたとしても……か。
「つくって」
袖を引かれ、詩人は歌姫を振り返り、見下ろした。
「つくって、長いうた」
あんなにも世界に響いた悲しいうた、ぼくの他にも長いうたを創る人は沢山いるよ。と、詩人は言ったのに。
幼い歌姫は首を振る。
「あんなにもかなしいうた、かなしくてかなしくて、だれもことばにできないよ」
あなたの他には、だれひとりとして。
妙な断言に詩人は困った顔をして、幼い歌姫の頭を撫でる。
「真実ではないよ。偽物の、ただ、聞こえたあのかなしいうたを歌うだけの、物語になるよ」
「いいの」
歌姫は歌う。
「あのうたが、のこるならそれでいいの」
創ったところで残るかどうかは分からないよ、と苦笑すれば、歌姫は自信たっぷりに微笑んだ。
「わたしがうたうのだから、のこるにきまっているのよ」
この娘、何でもない顔をしているようで、この歳にして手に負えぬ自信家であって。
相応の才に恵まれていることで、余計に始末がわるい。
ため息を吐いて、思いを馳せる。
どこか遠い国からやってきたのか、季節外れのひとひらの白い花が風に舞っていた。
13.03.08 拍手にて初出




