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14.娘は言葉を贈る幸福を知った。




 なぜ、レオンセルクはエレオリアを見下ろしているのだろう。


 隣に横たわっていたはずではなかったか。隣にいるのは変わらなかったが、エレオリアの頭の両脇に手をついて、覗き込むようにして覆い被さっている状態に、いつかの出来事がリフレインする。身体がすくんで動かなかった。


「ごめんね」


 その謝罪も、いつか聞いたことがある気がした。


 怖くない

 傷ついてなんかない

 これは幸いであったはずだ

 そう言った

 だから

 だからそれを嘘にしてはけない

 あたしは



「エリ」


 やさしい声に、ハッと我に返る。呼吸が乱れていた。胸が上下する。エレオリアを変わらず見下ろしているレオンセルクの表情は暗く、瞳はかなしげで、それでも、とその唇が囁く。


「エレオリア。僕だって、言葉が欲しい」


 何が、と狼狽えながら、頭の中がめまぐるしく回転する。

 そして思い当たったそれに、全身から力が抜けた。再度顔を覆う。


「……一瞬で恐慌状態に陥ったあたしに、謝る気はあるのか」


「それは、君があの件に関する僕の謝罪を受けてくれる気があるのかどうかによるんじゃない」


 あぁそうだった、まったく、とエレオリアはため息を吐く。

 少し腹を立ていている、という風な振りをしながら、泣きそうになるのをこらえた。

 言うつもりなど、なかったのに。

 エレオリアは、いずれレオンセルクをおいていくというのに。

 なのに、この人は、取り返しのつかない言葉を求めるというのか。


「エレオリア」


 歌うような、待てができない子犬のような声に、再度ため息をついてみせる。吐く息が震えないようにするのに精一杯だった。


「泣いているのはばれているから、隠さないでほしいな」


「泣いてない」


 こらえているのだから。と頑なに顔を覆っていたけれど、柔らかな沈黙がなぜだか非常に重たかった。その圧力に負けるようにして、手を外す。けれどせめてもの抵抗に身体を反転させて、寝台にうつぶせた。


「うん、泣いてないね」


 でもねー、と暢気な声とともに、耳の後ろにレオンセルクの口が寄せられた。


「一生懸命こらえてるのも、それはそれで」


「……」


(忘れていた)


 呆れ返って非難の意を隠そうともせず、エレオリアはレオンセルクを振り返った。

 にこにことした男の表情に、肩を落とす。


(……この男、へんたいなのだった)


 あの時の文言を、正確に思い出す。思い出すのではなかったと後悔するだけだったけれど。


『感情を剥き出しにした時、どんな表情をするんだろうって想像したら、』



 ぷ、と口からこぼれた。うん? とレオンセルクが首を傾げるのを見ながら、あはは、とエレオリアは笑った。


「エーリー?」


 耳元からはなれて、顔を覗き込もうとしながら「何か言ってよ」と頬を撫でるレオンセルク。その手にすり寄りながら、エレオリアは腕を伸ばして肩にそっとかけた。


「レオン」


 レオン、レオン、と何度も呼ぶ。レオンセルクと同じであるなら、きっと、甘く聞こえているだろうことを願って。


「レオンセルク」


 伸ばした腕に力を込めたかったけれど、エレオリアには自分の身体を浮かしてレオンセルクにしがみつくだけの力もない。けれど良いのだ。レオンセルクが察して抱きしめてくれるのだから。


「レオン」


 くるりと居場所が入れ替わる。うわ、と声を上げるけれど、レオンセルクはなんて事無いと笑った。

 だから、あのね、とエレオリアはレオンセルクの身体の上で、優しく抱きしめられながら彼の耳元に顔を寄せる。



「あいしている」



 あぁ。


 言うつもりなど、なかったのに。


 だってそこに、神様がいるから。

 絶えず感じられる気配で。

 身替わりになれと、見えずとも確かに佇む神様がいるから。



「連れて行かないでくれ」



 レオンセルクに寄り添いながら、囁くように祈ることしかできなかった。

 神様に願うことしかできなかった。

 だってエレオリアは、レオンセルクのものなのだから。




「エレオリア」


 優しい声に、なあに、と内心を押し隠して答える。


「君の身体は、僕が治す。死なせない」


 見透かしたような声に、次いで下腹を意識する。この人は、すくうというのだろうか。エレオリアがかつて諦めたすべてを。

 十五の春に、エレオリアはあの庭でエリオローウェンに婚約解消を申し出た。

 そうして、二年経った、夏。今、この瞬間に、レオンセルクは言い聞かせるようにしてエレオリアに囁いてくる。

 子どもが産めないから。産んだとしても育てられないから。そうしてエレオリア自身、二十まで生きられないと告げられたから。だから、エレオリアはエリオローウェンにさよならを告げたのに。

 そのすべてを、すくってみせると、エレオリアの愛するこの人は告げるのだ。


「望めというのか」


「嬉しかったんだ。お願いだ。絶対に死なせない。僕をどうか、信じてほしい」


 父が嫌いなんだ。

 その血を継いだ自分自身ろくでもないと思ってる。

 それでも、君に宿った命に相応しくありたいと思えた。



「そう思えた自分を、知ることができたんだよ」


 泣き出しそうな瞳に、エレオリアは笑った。


 ずるいと分かっていながら、エレオリアにはこう言うことしかできなかった。



「あなたが、そう望んでくれるなら」





 読んでいただきありがとうございました!


 だいぶ短くてごめんなさい。前回に引き続き、きゃっきゃうふふパートです。

 キリがいいところで、とやると、話ごとの文章量にすごい差ができてしまって、精進せねばなーと思う今日この頃。

 そのうち1話5000字越えとかやらかしそうで怖いです。というか既に予定として4500字程度が待ってます。よろしくお願いします><


 拍手、お気に入り登録、ありがとうございます!

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