第一章 後編
最近は電気屋に行ってパソコンのパーツを眺めることが趣味のDragoonです。 『CHAOS break』第一章 後編 お楽しみ頂けると幸いです。
真琴と一人の女、それを取り囲むように積み上げられた無数の人間の死体だった。
真琴は、地面に仰向けとなって倒れ、服と地面を縫うように巨大な杭が刺さっている。
体には――刺さっていない。
それはまるで手術台の上で拘束された実験体の様だ。
「な……なっ……!」
どうなってんだ……?!
死骸をよく見ると全て腹を切り開かれている。周りには肉片が散乱しており、血の海ができている。
あまりにも残酷な光景と立ち込める死臭で襲ってくる吐き気を必死に堪える。
ま、まさか……。この女が猟奇殺人事件の犯人か?!
俺は恐怖のあまり一歩後ずさった。
その時不覚にも置いてあったバケツを蹴ってしまう。
しまった! 何やってんだよ俺!
そのとき、
「……誰かしら?」
と、謎の女が振り向き目が合った。
俺はその冷徹な瞳に見つめられて、金縛りにあったかのように硬直してしまう。
逃げなきゃ、と頭では分かっていても足が竦んで動かない。
少しでも気を抜けば膝が笑って地面にへたりこんでしまうだろう。
「……ただの人間のようね」
女が意味不明なことを口にした。
な、なんだよただの人間って……。まるで他に人外がいるような言い方じゃねぇか。
こ、こいつデンパか?
「だ、誰なんだお前は……?」
震える声で訊ねた。他に聞きたいことが山ほどあったが、今の俺にはこの一言を絞り出すだけで精一杯だった。
すると女は「フフッ」と笑った。
「いい質問ね。」
なにがいい質問だよ……。
「別に全部話してもいいわよね、どうせあなたはここで――」
すると女は楽しそうに妖艶な笑みを浮かべてこう言った。
「死ぬんだから」
――?!
わかっていた事だったが、いざ言われると波のような恐怖感が押し寄せてきた。
やばい! 逃げなきゃ駄目だ!
何者かなんて聞いている場合じゃない! ここにいたら絶対に殺される!
そう思って俺は来た道を戻って逃げようとした、が、
「――うわっ!」
見えない壁に弾かれた!
な、なんだこれは?! 一体どうなってる?!
戸惑う俺に対して女は然も当然のように、
「そこ、結界張ってあるわよ?」
「な、なっ……?!」
け、結界?! こいつはやっぱりデンパ野郎だ! しかもかなり重度の!
「け、結界だと? なな、何の話だ? ゲームか? それともアニメか? ハハッ、よくいるよな、アニメやらゲームやらの影響で人を殺す狂った野郎どもがよぉ! お前もそいつらの一員か? なぁ、どんなゲームの影響だ? 俺も知ってるやつか?」
「んー……。あなた大丈夫?」
殺人鬼に心配された。
確かに俺も狂っていた。
相手はこの死体の山を築いた凶悪殺人犯だぞ?! そんなやつを相手に何淡々と喋ってるんだよ!「……こ、殺される!」
悲鳴のように叫んだ。
「大丈夫よ、まだ殺さないから。 あなたはあの貧相な胸の可愛い娘の後」
?!
何故だかそれが真琴のことを指しているのがすぐにわかってしまった。
驚くことがありすぎて真琴のことをすっかり忘れていた。
「ま、真琴!」
返事はない、だが外傷は見当たらないから殺されてはいないだろう。
「あなた、私が何者か知りたいんでしょ?」
誘うように言ってくる。
どうせ殺すんなら言っても意味無いだろ……。
まぁ、いろいろ話させて死期が延びるなら聞くに越したことはないだろう。
冥土の土産ってやつだ、嫌な土産だがな。
コクリ、と頷く。
「いいわ、私の名前は『シェオル』。『サタニズム騎士教団』の精鋭よ」
サタ……なんだって?
「さ、さっきお前、自分が人間じゃないみたいな言い方していたが?」
「ええ、『悪魔』よ」
はい出た、厨二発言。
本当なのか? こいつがただのデンパ女という可能性もある。「なんでこんなことしてる?」「こんなこと? あぁ、人間の臓器を奪って回っていることね」
奪う……?
「それは、総督を復活させるため。その為には人間の臓器を捧げなくてはならないの」
「その総督とやらは何のために復活させるんだ? ここまでしているってことはそれ相応の理由があるんたろ?」
「それは私にも分からないわ。ただ上の命令に従ってやっているだけ。でも一つだけ分かるのは――――戦いを終わらせる為」
戦い? 駄目だ、このデンパ話にはついて行けない。
そのとき――
「そういうことかよ!」
「?!」
「誰?!」
突然後ろから男の声がした。俺とシェオルは同時に後ろを見る。
「いやいや、ご丁寧な説明ご苦労さん」
男がパチパチと拍手をしながら近づいてくる。
男の年は見たところ俺と同じかそれ以上だ、夏には似つかわしくない膝まである長く、黒いコートを羽織っていてその中に赤いパーカーのようなものまで着て袖をまくっている。
見るからに暑そうだ。
背中には特殊な形状をした大剣を背負っている。
「どうやってここに?! ここまでの道には結界を張ってあったはずよ?!」
ありえない、とばかりにシェオルが驚愕する。
「私は精鋭部隊の中でも術式を編むのは上位クラスレベルの実力よ?! それを音もたてずに破壊するなんて……」
「破壊だぁ?」
やれやれ、と男が嘆息する。
「確かにテメェの結界は堅く、キツく式が編んである。だがな、術式が単純過ぎるんだよ」
「なっ……! でもそれと何の関係があるって言うの?」
「はぁ……。お前、よくそんなんで精鋭とやらに選ばれたな」
「馬鹿にしてるの? 私は――」
そういいかけたところで、
「――上書き」
男が一言。
その一言だけでシェオルは何かに気がついたのかハッとする。
「……まさか?」
「ああ、そのまさかだ」
シェオルが息を呑む。
「結界の術式を読み取り『俺専用の結界』として術式を上書きした。これによって結界は俺の物となり思うがままに出来るってことだよ。魔術のハッキングみたいなもんだ」
なるほど、そう言われると俺でもなんとなくは理解できる。
「そ、そんな……。他人の術に干渉したっていうの……? あんな無数の文字の羅列を一瞬で全て解読出来るわけが無い!」
すると男は自分のこめかみ辺りをトントンと人差し指で突きながら、
「テメェら下級悪魔とはココの出来が違うんだよ」
「くそっ! このガキがぁ!」
シェオルの表情と態度が一変した。
すると何もない空間にビシッとヒビが入り、シェオルが空間を叩き割った!
なにが起きたんだ……?
そして中から歪な形をした大きな鎌を取り出した。
その鎌はまるで『混沌』を具現化したように禍々しく、黒い刃は鋭く光っている。
あれで何人もの人を葬ってきたのか……。
「お、やるか?」
実に楽しそうにそう言うと、男は背負っていた大剣を構えた。
シェオルも大鎌を構えて、
「ムカツクガキだ、殺してやる!」
そういって鬼の形相のシェオルは男の首をめがけて横薙ぎに鎌を振るう。
男はそれを難なく避けるが、続けざまに鎌が振り下ろされる。
男はそれを片手で持った大剣で弾く、そのまま剣を翻しシェオルに斬りかかる。
「――くっ!」
シェオルはバックステップをとってそれを避ける。
空を斬った剣がコンクリートの地面を抉り取り、散った破片が散弾の如く俺に襲いかかる。
「――ッ!」
俺は顔の前で腕をクロスして顔面に当たるのは防げたが、他の部位にもろに当たる。
激痛を堪えて倒れまいと地面に足を踏ん張った。
男は懐から大型の拳銃を取り出しシェオルめがけて銃弾を放つ。
バックステップをとったばかりで体勢の崩れたシェオルの肩に、銃弾が直撃した。
血飛沫がコンクリートの壁と地面を鮮やかな紅色に染めていく。
「ッ! くぅ……」
シェオルが苦悶の声を上げ、血が止めどなく溢れる右肩肩を押さえながらしゃがみこんだ。
男は大剣を肩に掛け、
「なんだ、大したことねぇじゃねえか。『サタニズム騎士教団』の精鋭……。こんなもんじゃねぇだろ? 聞いた話によるともうちょっと骨があるはずなんだが」
「黙れっ! 私もこんなところで死にたくはない、また出直すわ。」
するとシェオルは真琴を担いでもう一度空間を割った。
「真琴! 真琴を何処に連れていく気だ?!」
シェオルは俺の質問には答えず、
「フフッ、また会いましょう。」
と言って空間の裂け目の中へ消えて行った。
俺は呆然と立ち尽くすしか無かった。
To be a continue
『CHAOS break』第一章 後編。いかがだったでしょうか!
今回苦戦したのが戦闘シーンです。
自分はド素人なので短く済ませましたがw
それと前編で書き忘れていたことがあったので、
追記:織坂 白焔と言う名前はダンボールに入って捨てられていた捨てられていた頃ダンボールに書いてあった。
白焔の髪色は生まれつき白髪。
以上です。
白焔と言うのは名前としてちょっとどうかと思ったんですがその方がインパクトがあっていいな、と思ったんですよ。
さて、第一章 後編を読んでくれた方々本当にありがとうございました!
よろしければ次も読んでいただけると幸いです。
それでは ノシ