婚約者が健康な幼馴染を優先します
「クラウディア、すまない、行かなければならない」
伝令の書状を見て、婚約者であるアラン様がそう言った。
「どちらへ?」
「幼馴染のシャーロッテが、私を呼んでいるのだ」
「シャーロッテ様が…お体の具合でも?」
「いや、いつも通りピンピンしている」
「ピンピン…なのになぜ行かなければならないのです? ご病気で、危篤状態とかなら駆けつけるのもわかりますが、そうでないなら、日を改めてもらうわけにはいかないのですか?」
アラン様はしばらく黙ったあと、
「だめなんだ…呼ばれたら駆けつけずにはいられないんだ…」
と言う。
「アラン様、今日は、アラン様が騎士団で活躍をして、王様の褒章を賜ったことのお祝いです。王都で評判の、このレストランを貸し切りにしてもらって、2人で食事を楽しもうという約束だったはずです。それを足蹴にしてまでも、行かなければならないのですか?」
アラン様は苦悩に満ちた顔になって、黙った。
しかし、きっと顔をあげると、
「君には申し訳ないと思ってる。でも、でもだめなんだ。いくらののしってくれてもいい。私は行かねばならぬのだ!」
アラン様とのデートを邪魔されるのは、これで何度目だろう。
狙ったように呼び出してくるので、故意なのはわかっている。
私はため息をつくと、目の前のスープをスプーンですくって言った。
「じゃあここのお食事は私が全部いただきますわ。王都一おいしいと評判なのに、食べられないなんて可哀そうにね。給仕のかた、こっちに2人分、どんどん運んできてちょうだい」
「ああ、もちろんだ。私が悪いのはわかっている。本当にすまない」
私はこれみよがしに
「スープおいしい! 魚介のだしがしみわたる!」
「サラダしゃきしゃき! パンも香り高くふっくら!」
「メインはビーフなのね? うわっ柔らかい!」
とおおげさに喜びながら、次々と食べ進んだ。
ぐーーーーーーーーー
アラン様のおなかが鳴った。
「あらまだいらしたの。どうぞ、私のことなど放っておいて、大事な大事な幼馴染のシャーロッテ様のところに行ってきてくださいな、私など、親が決めただけの婚約者に過ぎないのですし」
「そんな風には思っていない。君のこともシャーロッテのことも大事に思っている! だからこそ、君のそしりを正面から受けたいのだ! 怒ってくれ! ののしってくれ! 私は全力で謝る!」
私は(めんどくさいなあ)と思いながらも、ご希望通りに
「ほんと最低よね! 幼馴染に呼び出されたからって、デートの最中に婚約者を置いて帰るなんて、失礼にもほどがあるわよ! こんなに女性を傷つけて、よくもまあ『騎士でござい』って顔をしてられるわ! 恥を知りなさいよ!」
と思いつくままののしった。
アラン様は羞恥で顔を真っ赤にさせながら、
「その通り…その通りだ、本当にすまない…」
と謝っていた。
小1時間ほどののしって、
「じゃあ、そろそろ行きなさい。シャーロッテ様をお待たせしてもなんだし」
と言うと、
「ああ、そうするよ、ありがとうクラウディア」
と言って、顔ツヤッツヤにしたアラン様は去っていった。
このあと、シャーロッテ様には
「ほんとに来たの!? 婚約者とのデートなのに!? 婚約者より幼馴染を優先する男なんて、最低最悪! バカなんじゃないの? 騎士の風上にもおけないわ!」
と、これまた1時間はののしられることだろう。
そういう性癖のアラン様だから、今日の説教は何よりのご褒美になるに違いない。まあたまにはね、騎士団でがんばったんだもんね。
シャーロッテ様、いつもご協力ありがとうね。私の大事なお友達。
アランの性癖について補足を。
アランは両親にあまり関心を持たれてなくて、侍女に育てられたけど「それはおやめくださいまし」のようにお願いされるだけで、誰かに叱られたことがなかったんです。
平民がげんこつで叩かれて「かあちゃんはね、あんたが憎くて怒ってるんじゃないんだよ! あんたを愛してるからあんたのために怒るんだよ! 怒るのは愛情なんだよ! このバカがー!」と泣きながら怒って、「かあちゃんごめんなさーい」と泣きながら謝ってるのを見て、うらやましいなーと、自分には、愛情をこめて怒ってくれる人はいないんだなーと、思って生きてきたんです。
それがある日、シャーロッテに「アラン様! ピーマン残しちゃだめです! ピーマン育てた人も料理を作ってくれた人も悲しむでしょ!」と怒ってくれたのが嬉しくて嬉しくて、「もっと怒って…」と頼んだことが始まりで、シャーロッテはアランをびしばし怒るようになった、という経歴があるのです。
…と思うと、少しは気持ち悪さがやわらぎませんか? だめですか?(;'∀')




