第1話〜桜華〜
親友
それは字の如く親のような友達なのか? それとも親しい友達なのか? どういった相手を『親友』と呼ぶのか?
それを決めるのは当の本人である。
「あー生き返りてぇー」
仕事が終わって職場の最寄り駅から数駅、地元に近づいた駅直結のテーマパーク型スーパー銭湯『箱庭銭湯』に向かって歩いていた。
もちろん、何かを考えながらだ。テーマは……そうだな。
『親友』だ。
俺には親友がいる。男の俺が親友と言えば同性の男性であると考えるだろう。しかし、実際はその反対で女性の親友だ。名を笹倉 桜華という。
俺にはできすぎな親友だ。俺同様にアラサーである。学生時代からの友達だ。しかし、親友と言えるようになったのは大人になってからだ。
「笹倉と恋愛……か」
考えてみれば出会った頃は恋愛感情に近しいものはあった。ただ、あの頃は恋愛を知らなかった。そもそも、その頃の笹倉はクラスの人気者でただの憧れを恋愛と感じたのかもしれない。
ビコンとwireが届いた。ちょうど考えていた笹倉からだ。推しのラグビー選手が不祥事を起こして引退で凹んでいるとのことだ。
「もう時期、箱庭銭湯だし、未読無視でいっか」
笹倉からの追いwireが来た。
『飲み放題予約したから、うちの旦那と3人で飲むぞ』
通知を見て確認した。これは未読スルーはできない。
「店名と時間教えろよ」
口と手を動かしてチャットを送ると、すぐ予約受付メールのスクリーンショットが送られてきた。
時間は2時間後、地元の駅で笹倉の友達の親御さんの親族が経営している地域密着型個人経営の居酒屋だ。その割には地域ではかなり有名な居酒屋だ。
「繁盛してるんだ、笹倉の友達の親族の店……。というか、それはもう笹倉とは他人では?」
チャットに『わかった、1時間、箱庭銭湯で時間つぶしてから行く』と送った。そのチャットが既読されたのを確認してから箱庭銭湯の受付を済ませた。
箱庭銭湯はこの時期らしく桜フェアを開催している。
「桜か」
笹倉の名前にも桜がはいっている。そもそも、あの漢字では普通は『おうか』と読みそうなのにな……。箱庭銭湯で洗髪などすべてを済ませた。今日は元々箱庭銭湯に行くつもりだったのでバスアイテムを職場に持参していた。このシャンプーも新商品の桜の香りがする期間限定製品だ。
さて、最初はいつも人気の壺風呂に30分浸かろう。
「そういえば、大人になって笹倉と久々に再会したときに名前の漢字を理由聞いたな」
確か、俺の父の姉の子どものお葬式で遠出してた日の帰り道の帰宅中の運転中だ。その親族とはほぼ会ったことがなかったのでなんの感情もなく、ご飯が肉々しくて予想よりも美味しかったくらいしか考えていなかったはすだろう。
夜道に急に影が現れ一瞬で見えなくなった。その時、両親は小動物が横切っただけだろうからそのまま行こうと言っていたが、嫌な胸騒ぎを感じて車を降りた。
そこにいたのは長年連絡が途絶えていた笹倉だった。本人の希望で救急車ではなく、車の助手席に乗せた。
両親は笹倉のことを知っている。しかし、学生の頃、俺の告白を断った笹倉をずっと毛嫌いしている。事情を説明したあと、両親の許可を得ず、俺の住んでいる実家にそのまま連れて行った。
事情を聞いたら、当時5年近く同棲していた彼氏がモラハラをはじめとするやってはいけないことをしてきたのだという。そのままスマートフォンだけ持ってきて逃げてきたという。
俺にはその話が到底ウソとは思えなかった。
帰宅後、布団を客間に敷いてとりあえず寝かせた。
翌日、笹倉は俺たちに謝罪をしてそのまま警察に向かった。
警察が終わったらビジネスホテルに泊まると宣言していたが、お金がなく俺の実家に戻ってきた。被害届は受理され、すぐに、元カレには接近禁止命令が出た。
なお、後々になって知った話だが、その元カレは俺とも知り合いだった。
両親も渋々、しばらく笹倉がいることを認めてくれた。元々学生時代仲良かった関係か、久々に会ったあの時も家でフランクに話をしていた。
「私のお母さんは『おうか』で出したつもりだったけど、文字を書いたお父さんの字が汚くて『さくらはな』の読みになったんだよねぇ」
そうだ、笹倉は親の字が汚くて変な読みになったのだ。
次回
第2話〜奈緒〜




