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棺の中の独白

「私は J

若年性の癌を患って

長いこと入院していたけど

どうやら

40歳の誕生日を迎えてすぐに

死んでしまったらしい。


だから、今、

こうして棺桶の中に横たわり

上から蓋をされている


今日、葬式が行われることは

高校時代の親友が

みんなに連絡してくれているはず


病気を患い

医師に死期を告げられてから

ずっと気になってたこと

Kはどうしているんだろう?

1年B組のクラスメイト

春の学校行事の

出し物の打ち合わせに託けて

生徒名簿のKの家の番号に

私から電話したのがきっかけで

彼と付き合うようになった

私が塾や部活が忙しく

親も厳しかったから

なかなか会えなくて

最後は気持ちもすれ違って

ケンカ別れみたいになったまま

あの後、Kは

私と同じ吹奏楽部の後輩と

仲良さそうに付き合ってた…。

都会のほうに進学したって聞いたけど

卒業後はお互い一度も会ってない。

病状が深刻だったから、

同窓会にも1度も行けなかったし…。


みんなが次々に参列して来た。

棺の中の私は声も出せないし、

動けもしないけど

喪服の皆が泣きながら手を合わせているのがわかる。

だけど、そこにKはいない。…。

やっぱり来てくれなかったんだ…。


私は感情表現が苦手。

そんな自分が嫌で嫌でたまらなかったから、

クラスのみんなとワイワイやるのが大好きだった。

だけど、付き合ってたK にだけは、

あんまりはっきり“好き”って言っちゃうと

なんか“負け、”みたいな気がして、

あんまり言いたくなかった。

だから、付き合ってる間も

なかなか言葉にしてはっきり言えなかった。


今ならはっきり

何度でも言えるのに。


K があの時後輩と付き合い始めた時も、

悔しくて悔しくて仕方がなかったのに、

ずっと自分の感情に蓋をして

ただ周りのクラスメイトとワイワイやってた。


小さい頃からバレエやピアノ習わされて、

塾にも行かされて、

勉強を急かされて

いつも息苦しさを感じていた。

Kの存在はそんな私の救いだった。


だけど私は変なところで負けん気ばかりが強くて

K に電話で一方的に別れを告げた…と言うより、怒鳴って別れた。


私は結局、

第一志望の国立、岡山大学に落ちて

県立の短大に進学することになった。

辛くて、惨めで、

その上もう疲れ果ててた。


もう私

頑張らなくていいんだ

意地を張らなくていいんだ

好きなだけ眠れるんだ

本当に、好きな人に

大声で好きって言っていいんだ


だけど、もう届かない…」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


年月は流れ

Kは慎ましくて優しく

淑やかなTと結婚し

仲睦まじい結婚生活を送っていた。

Kはそれまでの経験から

自分とJのような勝ち気なタイプが相性が悪いことに気付き

正反対のタイプを選んだ。


一方、Jは霊魂となって空中を漂う今もなお

Kのことが気になって仕方がない

それを“負け”だと思って蓋をしようにも、

よりによって自分の後輩と付き合いだしたKに対する悔しさと怒り、

それと同時にやはり自分はKが好きなのだという感情に抑えが効かないようだった。


地元を離れ上京し職を得たKの元気な姿を

Jはドローンから見下ろすように眺め

毎晩自分の業の深さに悶えて狂いそうになっていた。

悔しい

憎い

なのに

大好き


こうした業に苦しみながら

Jの霊魂は哀れにも

いまだに成仏が出来ず

低空に引き摺られたまま

行き場のないJは堪らず

三途の川の門番を訪ね

成仏出来るまでの間

誰か生きている女の肉体に仮住まいさせてもらいたいと請うた。


すると門番は

「あなたに近いカルマを持った女性の肉体ならば

成仏までの間なら仮住まいにしてよい」

と許しを与えた。



東京の都心部にある雑誌社の

Kが勤める部署に

他部署から人事異動で

30代の女性社員Cが新しく入って来た。

人目を引く可愛い顔立ちで

キーキーと甲高く大きな声で気さくに喋るCは

すぐに部署内の人気者となった。


KはCと仕事を共にするうちに

あることに気づいた。

彼女はいつも美しく着飾っているが

女性にしてはかなりのガニ股で

ラメのヒールのつま先がいつも

互いにそっぽを向くほどだった。

この歩き方、そしてこのキーキー声…

間違いなく、あの頃のJの面影だった。

Jは小さな頃から習っていたバレエの影響なのか

可愛い顔に似つかわしくない

豪快なガニ股歩きだった。

Kがはじめて付き合った女性

それがJであり

キーキー声のガニ股歩きは

Kの恋愛の原体験そのものだったのだ。


似ている。


こうしてCをよく見てみると

CとJにはたくさんの共通点がある…。


青春時代の甘酸っぱい感覚が

Kの中に鮮やかに呼び起こされた。


(“ちょっと老けたかな、だけどやっぱりKだ…ふふふ、頑張ってるね”)


JがCの目を通して見るKは

学生時代に文化祭などで中心的な役割を担っていた

あの頃のバイタリティを多分に感じさせた。


(しめしめ、この娘に乗り移って

Kにちょっかいを出してやろうっと!)


職場でのCは毎朝

Kに対する挨拶だけは

過剰なまでに丁寧だった。

それはJとCの類似性が気になっていた事と相俟って

Kの中でCの存在が殊更に大きくなっていった。


最愛の妻Tから、

家庭でこれ以上無いほどの愛情を注がれながらも

KはCの存在を徐々に異性として意識し始めていた。



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