表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/36

焔月誕生

ギルドでの実力証明を終えた翌日。


俺は受付嬢に呼び止められた。




「ケイタさん、イフリートの角についてですが……ギルドで保管することもできますし、買取もできますし、個人で使用する権利も認められています。どうなさいますか?」




「決まってる。俺の武器にする」




迷いはなかった。


あの戦いで嫌というほど思い知った。凡庸な鉄の剣じゃ、命を賭ける戦いに耐えられない。俺の“力”に応えられる武器が、どうしても必要だった。




受付嬢は頷き、紙片を差し出す。


「それなら……この街で一番の鍛冶師を紹介します。腕は確かですが、かなり気難しい方ですので」




鍛冶場は街外れにあった。


近づくだけで鉄と油の匂いが鼻を刺し、打ち鉄の音が響く。




扉を開けると、煙の中に一人の男がいた。


大柄で背中は岩のように分厚い。煤と火傷跡で覆われた腕、白い髭。




「……なんだ、ひよっこか。鉄屑でも打ち直しに来たのか?」




「いや。これを武器にしてほしい」




俺は布袋を差し出した。


男が受け取り、中身を覗いた瞬間――




「っ……!」




空気が変わった。


角を掲げた男の目がぎらりと光る。




それは艶やかな黒の中に、揺らぐような赤い光を閉じ込めた不思議な質感をしていた。


まるで炎の残滓が素材の奥底で脈打っているかのように。




「イフリートの角……それも完全な形で残ってやがるとはな」




鍛冶師は低く唸る。


「並の炉じゃ焼きも打ちも効かねぇ。普通なら加工は不可能だ」




「できないのか?」




「誰ができねぇと言った。俺を誰だと思ってやがる」




男は鼻で笑い、角を台に叩きつけた。




「だがな、小僧。これをどう仕上げたい?」




「……刀だ」




「刀?」




「俺の国にあった武器だ。剣のように叩き斬るんじゃない。斬撃に特化した形状だ。薄く、軽く、だが折れにくい」




鍛冶師は怪訝そうに眉をひそめた。


「薄くして折れない? そんな都合のいい話があるか」




「あるんだ」




俺は必死に記憶を掘り起こした。


演武で見た居合い、ドキュメンタリーで見た刀鍛冶。


断片的な知識を言葉に変える。




「柔らかい地金と硬い鋼を合わせて、何度も折り返して鍛える。粘りと硬さを同時に持たせるんだ。刃先は硬く、背は柔らかくする。熱して一気に冷やすと刃文が浮かぶ」




「馬鹿を言え。硬さと柔らかさを同時に……? 片方を立てりゃもう片方は失われる。それが鉄だ」




「だから刀は特別なんだ!」




俺は声を張り上げていた。


少女と自分を守るため――どうしても、この角を武器に変えなければならない。




「……やれやれ」




鍛冶師は大きくため息をつき、炉に角を放り込んだ。


「面白ぇ。聞いたこともねぇ理屈だが……やってみる価値はありそうだ」




灼熱の炉が吼える。


イフリートの角が赤熱し、ようやく打てる硬度にまで軟化していく。




ガァンッ!




ブラッドの大槌が振り下ろされ、火花が散った。




「ぐっ……! くそ、硬すぎる……! これじゃあ俺の腕が折れる!」




ブラッドは歯を食いしばり、作業台の脇に立てかけてあった小槌を俺に投げた。


「おい小僧! それを持て!」




「えっ、俺が!?」




「叩け! 素人でも構わねぇ! とにかく力を重ねろ!」




言われるままに小槌を握る。ずしりと重い。


「タイミングを合わせろ! 俺の大槌の後だ!」




「わ、わかった!」




再びブラッドの大槌が唸る。




ガァンッ!




すぐさま俺も小槌を振り下ろす。




カンッ!




頼りない音に、ブラッドが苛立ったように舌打ちした。


「もっと力を込めろ! 遊びじゃねぇんだぞ!」




「うっ……」




必死に腕に力を込めるが、非力さは隠せない。


だが次の瞬間――胸が灼けるように熱を帯び、世界が軋んだ。




――音が遠のく。火花がゆっくりと揺れる。




(また……来た!)




時間が鈍り、俺だけが速い。


小槌を握る手に異様な力が宿る。




「うおおおおおっ!」




全力で振り下ろす。




カァァンッッッ!!




小槌とは思えぬ轟音。


赤黒い角の表面が、まるで悲鳴を上げるように潰れ、圧縮されて平らに延びていく。




内部に閉じ込められていた赤い光が火花と混ざり、炎のように揺らめいた。




「なっ……角が潰れて、形を変えやがった……!?」




ブラッドが目を見開く。


俺の加速が、一撃の破壊力を常識外れに引き上げていた。




「これなら……鍛えられる……!」




二人で全身を使い、槌を振り続けた。




幾度もの折り返しを経て、角は細身の刀身へと姿を変えていった。




「――焼き入れだ」




灼熱の刀身を水に沈める瞬間、蒸気が爆ぜ、視界が真っ白に包まれる。


刃が砕けかけたその時、胸の奥の熱が弾けた。




「折れるなぁぁぁッ!」




世界が遅れ、ひび割れかけた刀身が光に包まれる。


蒸気の中、赤黒い刃が悲鳴を上げながらも耐え、形を保った。




やがて――蒸気が晴れた。


そこにあったのは、炎のように揺らめく刃文を宿した一振りの刀。




鍛冶師は絶句する。


「馬鹿な……魔物の素材でここまで均整のとれた刃が……」




俺は震える手で柄を握った。驚くほど自然に、手に収まる。




「……これが、俺の……」




「小僧。この刀に名を付けろ」




俺は刃を見つめ、口にした。




「――《焔月えんげつ》」




炎のように力強く、月のように静かで冷たい。


そう在ってほしいと願いを込めて。




鍛冶師は腕を組み、頷いた。


「いい名だ。今日からそいつは、お前の命を預ける相棒だ」




俺は刀を掲げた。


赤い刃文が光を反射し、まるで炎と月光が交わったかのように煌めいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ