実力証明 ― ギルドマスター戦
「ならば、証明してみせろ」
ギルドマスターの低い声が響いた瞬間、ギルド全体がざわつきに包まれた。
「出たぞ、実力試験だ!」
「いいぞマスター! こいつのハッタリを暴いてやれ!」
「賭けだ、どっちが勝つか決めようぜ!」
俺は唾を飲み込み、剣の柄を強く握った。
ここで退いたら、今までと何も変わらない。
訓練用の広場に冒険者たちがひしめき合う。観客席代わりの柵には笑顔と期待、そして嘲りが入り混じっていた。
「試験だ。死にはせん。だが全力で来い」
ギルドマスターが腕を組んで言う。その一挙一動が重圧となってのしかかり、息が苦しい。
「……やるしかねぇ」
呼吸を整え、剣を構える。
「始めッ!」
合図と同時に、巨体が地を蹴った。
ドッと風が押し寄せ、俺の視界が揺れる。
「っ……!」
拳が迫る。反射的に剣を構えた――
ガァンッ!
火花が散り、剣ごと弾き飛ばされた。背中を土に叩きつけられ、肺から息が漏れる。
「ぐっ……かはっ!」
観客席が笑い声で沸いた。
「ほら見ろ! 瞬殺だ!」
「イフリート? 冗談も大概にしろ!」
俺は歯を食いしばり、土を蹴って立ち上がる。手は震えている。だが――まだ終わってない。
「どうした。もう終わりか?」
ギルドマスターの挑発に、胸の奥が熱を帯びる。
「……まだ、終わっちゃいねぇ!」
叫んで踏み込んだ瞬間――視界からマスターの姿が消えた。
「なっ……!」
真横。拳が迫る。避けられない――
その時、世界が軋んだ。
音が消え、色が剥がれる。
空気が泥のように重く、拳の動きが緩慢になる。
(……まただ!)
俺の身体だけが速い。心臓が鮮烈に響く。
「うおおおおっ!」
身を沈め、拳をかすめながら剣を振り抜いた。
布を裂く乾いた衝撃。
マントが裂け、赤い切れ端が舞った。
色と音が戻った瞬間、観客がどよめく。
「当てやがった!」「今、何が起きた!? 速すぎて見えなかった!」
ギルドマスターは裂けたマントを見下ろし、低く笑った。
「……なるほどな」
俺は荒い息を吐きながら剣を構え直した。
「俺は……まだ……!」
「いや、もう十分だ」
ギルドマスターが静かに手を上げた。
審判役が戸惑いの声を上げる。
「えっ……えっと、勝敗は……?」
観客席からも怒号が飛んだ。
「おい! 決着はどうすんだよ!」
「賭けはどうなるんだ!」
ギルドマスターは裂けたマントを払いながら冷然と告げる。
「勝敗を問うなら、俺の勝ちだ。小僧の身体はもう限界だろう」
歓声と安堵の声が広がる。賭けはこれで決着した。
だが、その後に続いた言葉が全員を黙らせた。
「……だが、この場にいた全員が見たはずだ。俺に、一撃を通した瞬間を」
沈黙が走る。誰も否定できなかった。
ギルドマスターの眼光が俺を射抜く。
「こいつはまだ未熟だ。だが確かに“何か”を持っている。笑い飛ばすだけの存在ではない」
観客の空気が変わった。嘲笑だけだった視線が、疑念と畏怖に揺れている。
俺は膝をつき、荒い呼吸のまま剣を収めた。
ギルドマスターに敗北した。それでも――
“俺の力は確かに存在する”と示せたのだ。




