ギルドでの証明
数日後。リシアの傷も癒え、ようやくまともに歩けるようになった頃。
俺たちは街の冒険者ギルドを訪れていた。
昼間のギルドはいつもながら騒がしい。
テーブルで酒をあおる者、依頼票を漁る者、受付嬢を口説いて追い払われる者……その雑多な喧騒の中、俺が足を踏み入れた瞬間――場が一瞬だけ静まり返った。
そしてすぐに、笑い声が広がった。
「おい見ろよ、また“無能”が来たぞ!」
「Eランクのままのくせに、まだ諦めてねぇのかよ」
「ははっ、今日もゴブリンに負けて逃げ帰ったんじゃねぇのか?」
俺は無言で歩くしかなかった。リシアを連れていたせいか、余計に視線が突き刺さる。
「今度は女を盾にする気か?」なんて声まで聞こえ、奥歯を噛みしめた。
カウンターに近づくと、受付嬢が顔を上げた。
彼女は栗色の髪を後ろで束ね、いつも笑顔を浮かべている――ただし、俺に対しては例外だ。
「……ケイタさんですか」
その声色には明らかに疲れが混じっていた。
「ご依頼のご報告、ですか? また“未達成”なら書類を出していただければ結構ですが」
完全に“期待ゼロ”の口調。
俺は黙って布袋をカウンターに置いた。
「……報告したい」
「ええ。では討伐証明部位を――」
「ある」
袋の口を開いた。
ゴトリ、と黒光りする巨大な角が転がり出る。
艶やかな黒の奥で、赤い光がちらちらと揺らめく。まるで炎が封じ込められた宝石のように、角そのものが生きているかのようだった。
受付嬢の表情が固まった。
「……これは……?」
周囲の冒険者たちも気づき、嘲笑が止まる。
沈黙のあと、ざわつきが広がった。
「お、おい……まさか、イフリートの角か?」
「は? バカ言え。そんなもん、拾ってきたに決まってるだろ」
「そうだそうだ! こいつがイフリート倒せるわけねぇ!」
俺は何も言わなかった。ただ黙って立っている。
受付嬢は角を手に取り、硬い声で呟いた。
「……間違いありません。本物です。イフリートの角に偽りはありません」
その瞬間、ギルド全体がざわめきに包まれた。
「嘘だろ……」
「イフリートなんざ、Bランク以上のパーティじゃなきゃ討伐できねぇ化け物だぞ」
「無能の万年Eランクが……?」
視線が突き刺さる。
今までの嘲笑が、一転して“疑い”に変わった。
信じられていない。むしろ「どうせ嘘だろう」と確信している目だった。
受付嬢は困惑の表情で俺を見た。
「……ですが、やはり信じがたい話です。証人は?」
俺は隣にいるリシアを見た。だが彼女は申し訳なさそうに俯き、首を横に振った。
「……気絶してました。戦いは見てません」
場が一層ざわめく。
「だよな! 証人なし! つまり拾い物!」
「やっぱりな、こいつの妄想だ!」
「無能が夢見てるだけだ!」
笑い声と罵声が再び広がる。
そのとき――。
「……随分と騒がしいな」
低く響く声が、喧騒を一瞬で鎮めた。
奥の階段から、一人の男が姿を現す。
分厚い胸板、獅子のような髪。纏うだけで空気が重くなるような威圧感。
誰もが息を呑む中、彼はゆっくりとカウンターに歩み寄った。
「ギ、ギルドマスター……!」
ざわめきが畏怖に変わる。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「小僧。お前がイフリートを倒したと言うのか?」
「……ああ」
「ほう」
男――ギルドマスターは無表情のまま、机に置かれた角を手に取った。
艶めく黒の奥に、炎のような赤がゆらりと瞬く。
「間違いなく本物だ。……だがな」
ギルドマスターの視線が俺を射抜いた。その眼光に背筋が凍る。
「Bランク以上の冒険者パーティーでなければ討伐不可能な相手を、Eランクのひよっこが仕留めた? 誰がそんな与太話を信じる」




