判定の余波
神殿を出た途端、石畳の上に冷たい風が吹き抜けた。
ケイタは肩で息をしながら拳を握りしめる。
――判定不可。
誰もが驚き、誰もが黙り込んだ。
ギルドに戻ると、応接室にはマスターや幹部たちが集まっていた。
机上に置かれた報告書には、神官が震える字で書いた一行がある。
――加護、判別不可。
「……普通ならな、力が弱すぎて反応を拾えないって意味だ」
幹部のひとりが腕を組んで吐き捨てる。
「だが、あの戦いぶりを見りゃそれはねぇ。報告にどう書けってんだ」
「“不可解”とでもしておけ」
マスターが短く言い捨てる。
その声には苛立ちではなく、むしろ妙な慎重さが混じっていた。
横でリシアが口を開く。
「私の加護も……本当は“護り”って言われてました。でも、神官様は“揺らぎが大きすぎる、珍しい例だ”とも……」
不安げな声。だがその奥には、決意が滲んでいた。
幹部たちの視線が揺れる。
「護り、か。だが魔力の出力は異常に高いと聞く」
「なら、未熟な判定が誤った可能性もあるな」
そのとき、セレイナが一歩前へ出た。
紅玉の瞳がケイタを見据える。
「不可解。……ええ、確かに。けれど――無ではないわ。むしろ、“隠されている”のではなくて?」
「……っ」
ケイタは答えられなかった。
彼自身、何が自分の中に眠っているのか分からない。
「ギルドとしてはどうする?」
別の幹部が問うと、マスターは顎を撫でて言った。
「結論は急がん。だが“力を持たぬ無能”と切り捨てるのは早計だ。……様子を見ろ」
短くそれだけを告げ、席を立つ。
応接室に残ったのは、言葉にしきれぬざわめきと、
ケイタの胸奥で燻る焦燥感だった。
(……判定不可。俺は一体、何なんだ?)
◇
廊下を歩くとき、セレイナが隣に並んだ。
「ねぇ、ケイタ。――もし本当に“隠されている”のだとしたら」
紅玉の瞳が、彼の横顔を覗き込む。
「その力をどう使うつもり?」
一瞬、返事に詰まる。
けれど思い出す。二度と後悔しないと、胸に刻んだあの日を。
「……守る。俺は、そう決めてる」
セレイナは何も言わず、ただ小さく笑った。
それは挑むようにも、試すようにも見える笑みだった。




