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神殿の光と沈黙

気まずいような張り詰めた沈黙を破ったのは、意外にも原因を作ったセレイナだった。




「……そういえば、二人の加護ってなんなの?」




「……加護?なんだそれは……?」




「は?知らないの?」




白銀の髪を揺らし、彼女は紅玉の瞳で俺を射抜く。




隣でリシアも意外そうな顔でケイタの顔を見つめている。




「この世界に生まれた者は、誰もが神から加護を受けているの。力を振るう術、適性、時には運命そのものをも決めるものよ」




「……そんな話、聞いたこともなかった」




「冒険者なら誰もが神殿で一度は“判定”を受ける。あなたもしたはずでしょ?」




俺は首を振った。


「いや……俺は、したことがない」




一瞬、場が静まる。


セレイナは息を呑み、すぐに小さく笑った。


「なるほど。だからあなたは“戦闘に向かない加護の持ち主”って思われてきたのね。判定を受けていなければ、誰だって憶測で話すしかないわ」




そうだったのか……。


周囲の視線や冷たい嘲笑。その根はここにあったのだ。




「じゃあ、確かめに行くか」


俺は意気揚々と立ち上がった。


――時間を操るこの力。その正体を、少しでも掴むために。




だが。




「もう神殿は閉まってるわ。明日にしましょ」




続いたセレイナの言葉にカクンと膝が折れるのだった。







翌日。


神殿は街の中央にそびえる白亜の建造物だった。


荘厳な石柱の列を抜けると、空気がひんやりと変わる。


高窓から差し込む光が、中央の祭壇を照らしていた。




「加護の判定は、水晶を媒介にして神意を映します」


神官の落ち着いた声に従い、俺は水晶へ手を置いた。




……静寂。




「……え?」




光は灯らない。


脈動もない。




「判定……不可?」


神官が眉をひそめる。周囲にざわめきが広がった。




「稀にあることです。魔力が微弱すぎる場合、水晶が反応しないことも」


神官は言葉を選んでいたが、声には困惑が混じっていた。




「ですが……完全な沈黙は、ほとんど例がありません。弱すぎる者であっても、薄い光は残すものです。これは――異質です」




俺は唇を噛んだ。


(弱すぎる? それだけじゃない……これは、何か違う)







次にリシアが前へ出る。


「私は……子供の頃にもう判定を受けています」




神官が書物を開き、記録を確かめた。


「確かに……〈護りの加護〉。防御や結界に優れる安定した加護、とあります」




「……だから私は戦いで役に立たないんです」


リシアが小さく俯いた。




だが神官は首をかしげた。


「ただ、この記録……異例の注釈がある。“揺らぎが大きい”と」




「揺らぎ……?」




「光は確かに護りを示した。しかし同時に、奔流のような魔力が観測された。……暴走すれば精霊を害しかねない、と」




リシアが目を見開く。


「そんな……聞かされてません」




「子供に伝えるには重すぎると判断されたのでしょう」




リシアは拳を握りしめた。


胸の奥に、確かに響いているものがあるのだろう。







「加護は、時を経て姿を変えることがあります」


神官は静かに告げた。


「あなた方の場合――いずれ真実の姿が現れるやもしれません」




リシアは強く頷いた。


俺は判定不可の結果に苛立ちながらも、どこかで確信していた。




この力は――ただの“無”じゃない。







神殿を出ると、陽光が石畳を照らしていた。


リシアが俺を見上げる。




「……ケイタさんの加護、きっと特別なんだと思います」




俺は小さく笑って答えた。


「だったら、信じるしかねぇな」




胸の奥で、白い世界の気配がかすかに揺らめいた気がした。

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