神殿の光と沈黙
気まずいような張り詰めた沈黙を破ったのは、意外にも原因を作ったセレイナだった。
「……そういえば、二人の加護ってなんなの?」
「……加護?なんだそれは……?」
「は?知らないの?」
白銀の髪を揺らし、彼女は紅玉の瞳で俺を射抜く。
隣でリシアも意外そうな顔でケイタの顔を見つめている。
「この世界に生まれた者は、誰もが神から加護を受けているの。力を振るう術、適性、時には運命そのものをも決めるものよ」
「……そんな話、聞いたこともなかった」
「冒険者なら誰もが神殿で一度は“判定”を受ける。あなたもしたはずでしょ?」
俺は首を振った。
「いや……俺は、したことがない」
一瞬、場が静まる。
セレイナは息を呑み、すぐに小さく笑った。
「なるほど。だからあなたは“戦闘に向かない加護の持ち主”って思われてきたのね。判定を受けていなければ、誰だって憶測で話すしかないわ」
そうだったのか……。
周囲の視線や冷たい嘲笑。その根はここにあったのだ。
「じゃあ、確かめに行くか」
俺は意気揚々と立ち上がった。
――時間を操るこの力。その正体を、少しでも掴むために。
だが。
「もう神殿は閉まってるわ。明日にしましょ」
続いたセレイナの言葉にカクンと膝が折れるのだった。
◇
翌日。
神殿は街の中央にそびえる白亜の建造物だった。
荘厳な石柱の列を抜けると、空気がひんやりと変わる。
高窓から差し込む光が、中央の祭壇を照らしていた。
「加護の判定は、水晶を媒介にして神意を映します」
神官の落ち着いた声に従い、俺は水晶へ手を置いた。
……静寂。
「……え?」
光は灯らない。
脈動もない。
「判定……不可?」
神官が眉をひそめる。周囲にざわめきが広がった。
「稀にあることです。魔力が微弱すぎる場合、水晶が反応しないことも」
神官は言葉を選んでいたが、声には困惑が混じっていた。
「ですが……完全な沈黙は、ほとんど例がありません。弱すぎる者であっても、薄い光は残すものです。これは――異質です」
俺は唇を噛んだ。
(弱すぎる? それだけじゃない……これは、何か違う)
◇
次にリシアが前へ出る。
「私は……子供の頃にもう判定を受けています」
神官が書物を開き、記録を確かめた。
「確かに……〈護りの加護〉。防御や結界に優れる安定した加護、とあります」
「……だから私は戦いで役に立たないんです」
リシアが小さく俯いた。
だが神官は首をかしげた。
「ただ、この記録……異例の注釈がある。“揺らぎが大きい”と」
「揺らぎ……?」
「光は確かに護りを示した。しかし同時に、奔流のような魔力が観測された。……暴走すれば精霊を害しかねない、と」
リシアが目を見開く。
「そんな……聞かされてません」
「子供に伝えるには重すぎると判断されたのでしょう」
リシアは拳を握りしめた。
胸の奥に、確かに響いているものがあるのだろう。
◇
「加護は、時を経て姿を変えることがあります」
神官は静かに告げた。
「あなた方の場合――いずれ真実の姿が現れるやもしれません」
リシアは強く頷いた。
俺は判定不可の結果に苛立ちながらも、どこかで確信していた。
この力は――ただの“無”じゃない。
◇
神殿を出ると、陽光が石畳を照らしていた。
リシアが俺を見上げる。
「……ケイタさんの加護、きっと特別なんだと思います」
俺は小さく笑って答えた。
「だったら、信じるしかねぇな」
胸の奥で、白い世界の気配がかすかに揺らめいた気がした。




