精霊を殺す少女[リシアパート]
鍛冶場の裏庭。
月が昇り、赤銅色の光が炉の残り火を映していた。
リシアは膝をつき、掌に炎を灯そうと必死に魔力を巡らせていた。
「……はぁ、はぁ……っ!」
蝋燭を守る訓練から一歩進み、自分の魔力で直接火を起こす段階。
しかし、集めた瞬間に炎は暴走し、破裂するように霧散する。
「な、なんで……!」
悔しさに肩を震わせた時、ヴァルターが片眼鏡を押し上げ、愉快そうに口を開いた。
「ようやくか。気づいたか?」
「……え?」
「お前、魔法を使えなかったんじゃない。――精霊を殺してたんだよ」
「……っ!?」
リシアは血の気が引いた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私、そんな……!」
「本当さ。火を起こすにも風を呼ぶにも、魔術は精霊から力を借りて発現する。普通の魔術師は懇願して、少しずつ分けてもらうんだ。だが――お前の中の魔力は桁違いだ。小精霊どもが力を与えた瞬間、過負荷で焼き切れる」
「……そんな……私が……殺してた……?」
リシアの瞳に涙が滲んだ。
知らなかったとはいえ、命を奪っていた事実に胸が押し潰されそうになる。
ヴァルターは鼻を鳴らし、手をひらひらと振った。
「気に病むな。小精霊は消滅してもすぐに別の存在で生まれ変わる。だが――お前に小物は釣り合わねぇ。むしろ、大精霊以上でなきゃ相棒になれん」
「……大精霊……?」
「そうだ。普通の魔術師が一生かけても契約できるかどうかって代物だ。だが、お前なら――“餌”を撒けば呼び寄せられる」
リシアは拳を握りしめた。
(……怖い。けど……)
胸に浮かんだのは、村の人々の顔。
ケイタが必死に立ち向かう背中。
(守りたい。あの人と並び立ちたい。なら――)
「……やります」
震える声で、しかし迷いなく言った。
「精霊を殺すくらいなら、ちゃんと向き合います。私にしかできないなら……大精霊でも、何でも」
ヴァルターの口元がにやりと歪んだ。
「いい顔だ。なら、地獄を覗け。お前の魔力で釣り上げるんだ――精霊どもの王をな」




