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静かな鍛錬と紅玉の視線[ケイタパート]

鍛冶場の昼下がり。


焔月の調整を頼みに来た俺に、ブラッドは腕を組んで言った。




「リシアのことか? ……あいつは今、魔術師としての訓練中だ。ヴァルターの元で地獄を味わってる最中だ。お前は邪魔すんな」



「おいちょっと待て。魔術師?ヴェルター?地獄?なんだそれは」



「そうか、なんも聞いてねぇのか」



ブラッドはケイタに簡単に事の経緯を説明した。



「なるほどな……。しかし言うに事欠いて邪魔ってのはねぇだろう」



「女はな、芯食った時は他人の手なんざいらねぇんだよ。口を出しゃ、かえって折れる」




ニヤリと笑うブラッドの言葉に、俺は口をつぐんだ。


(……わかってる。リシアは俺の隣に立つために必死に足掻いてる。だったら俺も――)







街外れの岩場。


人気のない場所で、俺は今回の報酬で買った安物の鉄剣を抜き放った。




「はあぁっ!」




振り下ろした刃は、岩に浅い傷を刻むだけ。


クロノシフトを使えばこの剣ですら容易く断ち切れる。だが、それでは意味がない。




「……速さに頼るだけじゃ、また守れねぇ」




荒い息を吐きながら、脳裏を過ぎる光景。


あのとき、手を伸ばせなかった少女。


“また明日でもいい”と先延ばしにした言葉を、結局伝えられなかった両親。




取り返しのつかない後悔は、もう二度とごめんだ。


時間は戻らない。だからこそ、いま、この瞬間を削るしかない。




俺は握った焔月を見下ろし、強く呟いた。


「……やるべきことは、後回しにしない。二度と」







「……ずいぶん熱心ね」




背後から声。振り返ると、白銀の髪が風に揺れていた。


セレイナが細剣を携え、腕を組んでこちらを見下ろしている。




「一人で岩と格闘なんて、あなたらしいわ」




「……見られてたか」




「ええ。街に噂はすぐ広まるもの。――“岩殺しのケイタ”が、また岩を相手にしてるって」




「……やめてくれ、その呼び名」




思わず額を押さえる俺を見て、彼女は小さく笑った。







「模擬戦をしましょう」




突然の提案に、俺は目を瞬いた。




「は?」




「あなたの動きを、もう一度この目で確かめたいの」




紅玉の瞳が真っ直ぐ射抜いてくる。


俺は少し迷い、やがて頷いた。


「いいぜ、やろう!」







鋭い突きが迫る。俺は刃を受け流し、踏み込んで斬り返す。


だが、セレイナは冷たい舞踏のようにかわし、再び鋭い軌跡を描く。




「……っ、速ぇ!」




力任せの剣じゃ通じない。だが退く気もなかった。




金属の衝突音が続き、やがてセレイナが問う。


「どうして……そこまで必死になれるの?」




咄嗟に答えられず、俺は刃を押し返しながら黙り込む。


頭をよぎるのは、守れなかった人たちの顔。


そして、言えなかった言葉。




「……他人任せはもう嫌なんだ」


短く、吐き出すように言った。




「誰かがやってくれる、なんて思ったら……後悔する。そして時間は戻せない。だから、やるべき時にやる。守れるなら、絶対に守るっ!」




それはケイタにとっては過去への贖罪でもあり、現在を蝕む呪いでもあった。


救えなかった命。自分自身に心底嫌気がさしたあの日。



この世界に転移してきて、今度こそ判断を間違えないと誓ったのだ。




セレイナの動きが一瞬止まる。


その瞳に、驚きと……ほんのわずかな共鳴の色が宿っていた。




(……“後悔しないために守る”。そんな言葉、私には――)


脳裏をかすめるのは、裏切った父の背中。


誰より強いと信じていたのに、最後に自分を見捨てたあの瞬間。


だから、誰も信じないと決めたのに――。




目の前の青年の剣には、欺瞞の影がなかった。


ただ必死で、不器用に、前へ進もうとしている。




胸の奥に、言葉にできないざわめきが広がっていく。







模擬戦は、互いに剣を引いて終わった。


荒い息を整えながら、彼女は横目で俺を見た。




「……なるほど。噂だけの男じゃないのね」




「噂ほどじゃないさ」




そう答えると、彼女はふっと笑みを浮かべた。


紅玉の瞳は、まだ何かを問いかけるように揺れていた。



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