奔流の試練[リシアパート]
翌朝。
丘の上に立つ小屋の裏手。
そこには不自然に広い空き地があった。地面は黒ずみ、幾度も爆ぜた跡が残っている。
「……ここは?」
リシアが目を瞬かせると、ヴァルターは当然のように答えた。
「訓練場だ。昔、俺が“失敗した残骸”だな」
言葉の軽さに反して、焦げ跡は大地を抉り取っていた。
リシアはごくりと唾を飲む。
「昨日の蝋燭は小手先の確認だ。お前の器は――もっとデカい。だったら基礎に時間をかけるのは無駄だ」
「……え?」
ヴァルターは不意に懐から古びた水晶玉を取り出し、リシアの手に押し付けた。
「魔力を注げ。限界まで、だ」
「か、限界まで!? そんなことしたら……!」
「安心しろ。死にゃしねぇ。……多分な」
「た、多分!?」
リシアは思わず声を裏返したが、ヴァルターの片眼鏡の奥には揺るぎない光があった。
(信じるしか……ない!)
彼女は水晶玉を胸の前に構え、深く息を吸う。
体内を巡る川を――解き放つ。
――ゴォォッ!
次の瞬間、空気が震えた。
透明なはずの水晶玉が、内部から赤い光を帯びて脈動を始める。
地面に亀裂が走り、周囲の草木が風圧に煽られた。
「な……っ!?」
リシア自身も驚愕する。まだ全力を出していない。だが、流した分だけ水晶玉は唸り声を上げるように光を吐き出す。
「やっぱりな……!」
ヴァルターの口元が歪む。
「この魔力量、常人の十倍はくだらねぇ!」
リシアの視界が赤く染まり、手が痺れる。
暴走しかけた魔力が四散し、爆ぜる寸前――。
「止めろッ!」
ヴァルターが手を翳し、制御の符を叩き込む。
刹那、光が収束し、水晶玉は鈍い音を立ててひび割れ、砕け散った。
リシアはその場に崩れ落ちる。肩で息をし、汗が頬を伝う。
「……ご、ごめんなさい……っ!」
「謝るな」
ヴァルターは口の端を吊り上げた。
「今の一瞬で十分だ。お前は“化け物”の器を持ってる」
リシアの胸が高鳴る。
(私に……こんな力が……!)
だが同時に、手の震えが止まらなかった。
この力を扱いきれなければ、仲間を巻き込む危険がある。
「いい顔になったじゃねぇか」
ヴァルターはニヤリと笑い、背を向けた。
「地獄はこれからだぞ、嬢ちゃん」
リシアはぎゅっと拳を握りしめた。
――村を守るために。
――ケイタと並び立つために。
この力を、必ず自分のものにする。
◇
丘の上に朝日が昇り、彼女の決意を赤々と照らしていた。




