変人魔術師との邂逅[リシアパート]
鍛冶場の夜。
炉の火が静まり、鉄槌の音も止んだころ。
ブラッドは腕を組みながら、ひとしきり黙り込んでいた。
「……嬢ちゃん、明日ついて来い」
不意にそう告げられ、リシアは瞬きをした。
「どこへ……?」
「街外れだ。お前を鍛えられる奴のとこに行く」
翌日。
街の外縁、畑や牧草地を抜けた先。
小高い丘の上に、ひときわ古びた小屋が建っていた。
壁はつぎはぎだらけ、煙突は斜めに傾き、屋根には意味不明な呪符やら骨やらが吊るされている。
「……なに、この……」
「心配すんな。見た目通り、イカれてる。だが腕は確かだ」
ブラッドが扉を拳で叩く。
ガチャリ、と音を立てて扉が開いた。
中から現れたのは、やせ細った長身の男。
癖の強い白髪に、無精髭、片眼鏡。
ローブの袖にはインクの染み、腰のベルトには薬瓶やら羊皮紙がぐちゃぐちゃに差し込まれている。
「……ブラッドか。珍しいな。鉄の亡霊が弟子でも連れてきたのか?」
「弟子じゃねぇ。けど――才能はある」
ブラッドが顎でリシアを指す。
男の鋭い目が、まるで透かすようにリシアを見据えた。
「……ふむ」
次の瞬間、リシアは肩をびくりと震わせた。
視線が、皮膚の下の血の流れや魔力の脈動までを覗き込んでくるようだったからだ。
「ひゃっ……!」
「へぇ……こりゃすげぇな。お前の中、川みたいに魔力が流れてやがる」
にやり、と口元が歪む。
「名は?」
「リ、リシア……です」
「リシアか。よし、決まりだ。今日から俺がぶっ壊してやる」
「ぶ、ぶっ壊す!?」
「魔力の型をな。お前みてぇに“剣を握る体”で生きてきた奴は、無駄な筋肉と癖が邪魔する。だから一度壊して、魔術師の体に作り直す。泣くなよ」
リシアは思わずブラッドを振り返った。
鍛冶師はニヤリと笑い、太い腕を組んだ。
「安心しろ。泣いても、あいつは止まらねぇ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に大丈夫なんですか!?」
「心配すんな。強くなりたいんだろ? だったら――飛び込め」
ブラッドの真剣な声に、リシアは息を呑んだ。
村を守るため。仲間を守るため。
そして、ケイタと並び立つため。
リシアは拳を握り、真っ直ぐに前を見た。
「お願いします! 私を、魔術師にしてください!」
男の口元が、愉快そうに歪んだ。
「いい顔だ。――なら地獄を見せてやろう。俺はヴァルター。変人で結構。だが必ず、お前を本物にしてやる」
リシアは大きくうなずいた。
心臓は早鐘を打っていたが、不思議と恐怖はなかった。
むしろ胸の奥に、強烈な熱が灯っていた。




