森の奥で ― 本格調査・第Ⅰ段階[ケイタパート]
しばらくケイタパートとリシアパートを交互に更新します
夜明け前。
街門の前に、主力パーティー五組と斥候二名、術士班二名、そしてセレイナと俺が並んだ。
現場指揮を執るのは、赤茶の外套を翻す遠征隊長ハルド。ギルドマスターは本部に残り、全体管制に回っている。
「第Ⅰ段階の目的は“位置特定と初期記録”。第二樹帯の内側を越えるな。交戦は回避最優先だ」
短く端的な声に、全員が頷く。城門が開き、朝靄の森へ踏み入った。
◇
外縁を抜け、第二樹帯の手前で空気が変わる。
鳥の声が薄く、湿った風が重い。
「……嫌な揺らぎね」
セレイナが細剣の柄に指を添え、紅玉の瞳を細める。
後方の術士が囁く。「魔力残滓、右前方。数日以内だ」
「右外周、第二班。左外周、第四班。中央線は俺が率いる」
ハルド隊長の指示で、五組が扇状に開く。俺はセレイナと中央に付いた。
◇
やがて、樹皮がガラス化した焼痕に出る。
地表が黒く溶け、波紋のように広がっていた。
「イフリート級の熱量痕……だが散っている」
術士がしゃがみ込み、符で測定する。
俺は指先で触れ、ぞくりとした。ざらつきの中に、不自然な“撫で跡”のような流れ。
(……見覚えのない、見覚え――)
「ケイタ」
セレイナが横目で問う。「思い当たることがあるなら、後で全部話しなさい」
「はっきりしたらな」
◇
「前方、紋章痕!」
斥候の合図。全員が集束すると、そこに黒い円環が刻まれていた。
歪んだ輪に、爪痕のような切り欠きが連なる――召喚系の陣だ。
「記録班、展開。座標マーキング、採取は三点。痕跡深度は――」
ハルド隊長が淡々と段取りを飛ばす。
セレイナは黙って陣の縁をなぞり、低く呟いた。「……“呼ばれた”痕。自然発生じゃない」
採取が終わると、隊長は手を上げた。
「第Ⅰ段階の目的は達した。撤収する。第二段階は帰投後に増援を編成して実施だ」
セレイナがわずかに眉を寄せる。「まだ浅いわ。奥へ行けば――」
「規定通りだ、セレイナ。ここで引くから次に繋がる」
隊長の声は冷静だった。無用な消耗はしない――それが“本格調査”の運用だ。
俺は頷き、最後に黒い紋へ一寸だけ《焔月》を抜いて光を落とす。
歪んだ輪が、じっとこちらを見返している気がした。
胸の奥で、微かな軋み。
(まだ始まりだ。次は、もっと近くまで行く)
隊は静かに森を離れた。
背後で朝靄が閉じ、紋様の闇が薄く笑ったように見えた。




