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森の奥で ― 本格調査・第Ⅰ段階[ケイタパート]

しばらくケイタパートとリシアパートを交互に更新します

夜明け前。


街門の前に、主力パーティー五組と斥候二名、術士班二名、そしてセレイナと俺が並んだ。


現場指揮を執るのは、赤茶の外套を翻す遠征隊長ハルド。ギルドマスターは本部に残り、全体管制に回っている。




「第Ⅰ段階の目的は“位置特定と初期記録”。第二樹帯の内側を越えるな。交戦は回避最優先だ」




短く端的な声に、全員が頷く。城門が開き、朝靄の森へ踏み入った。







外縁を抜け、第二樹帯の手前で空気が変わる。


鳥の声が薄く、湿った風が重い。




「……嫌な揺らぎね」


セレイナが細剣の柄に指を添え、紅玉の瞳を細める。




後方の術士が囁く。「魔力残滓、右前方。数日以内だ」




「右外周、第二班。左外周、第四班。中央線は俺が率いる」


ハルド隊長の指示で、五組が扇状に開く。俺はセレイナと中央に付いた。







やがて、樹皮がガラス化した焼痕に出る。


地表が黒く溶け、波紋のように広がっていた。




「イフリート級の熱量痕……だが散っている」


術士がしゃがみ込み、符で測定する。




俺は指先で触れ、ぞくりとした。ざらつきの中に、不自然な“撫で跡”のような流れ。


(……見覚えのない、見覚え――)




「ケイタ」


セレイナが横目で問う。「思い当たることがあるなら、後で全部話しなさい」




「はっきりしたらな」







「前方、紋章痕!」


斥候の合図。全員が集束すると、そこに黒い円環が刻まれていた。


歪んだ輪に、爪痕のような切り欠きが連なる――召喚系の陣だ。




「記録班、展開。座標マーキング、採取は三点。痕跡深度は――」


ハルド隊長が淡々と段取りを飛ばす。


セレイナは黙って陣の縁をなぞり、低く呟いた。「……“呼ばれた”痕。自然発生じゃない」




採取が終わると、隊長は手を上げた。




「第Ⅰ段階の目的は達した。撤収する。第二段階は帰投後に増援を編成して実施だ」




セレイナがわずかに眉を寄せる。「まだ浅いわ。奥へ行けば――」




「規定通りだ、セレイナ。ここで引くから次に繋がる」


隊長の声は冷静だった。無用な消耗はしない――それが“本格調査”の運用だ。




俺は頷き、最後に黒い紋へ一寸だけ《焔月》を抜いて光を落とす。


歪んだ輪が、じっとこちらを見返している気がした。




胸の奥で、微かな軋み。


(まだ始まりだ。次は、もっと近くまで行く)




隊は静かに森を離れた。


背後で朝靄が閉じ、紋様の闇が薄く笑ったように見えた。

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