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出発 ― 森へと続く道

朝靄に包まれた街門の前。


巨大な扉の下には、すでに十数名の冒険者たちが集結していた。


鎧の軋む音、武器を整える金属の擦過音、低い声で交わされる作戦の最終確認。


普段の喧噪とは違う、張り詰めた空気がそこにはあった。




「主力パーティー五組、斥候班、術士班……全員揃ってるな」




ギルドマスターの声が響く。


その隣でセレイナが凛とした立ち姿を見せ、白銀の髪を朝日が照らしている。


彼女の存在だけで、空気が一層引き締まったように感じた。




「ケイタ」


マスターが俺の名を呼ぶ。


「お前の役割は現場での“案内”だ。痕跡を見つけたとき、どの程度の異常かを即座に伝えろ。それだけで十分な働きになる」




「了解しました」




短く答え、腰の《焔月》に触れる。


柄は熱を帯びず、ただ静かにそこにあった。




「出発!」




号令と共に、重い街門が開かれた。


きしむ音とともに広がるのは、朝日に濡れた緑の森。


一行は地を蹴り、慎重にその中へと足を踏み入れていった。







数日前のことだ。




鍛冶場で《焔月》の調整を頼んだとき、俺はふとした拍子にそれまで感じていた疑問を投げかけた。




「ブラッド。……お前、ただの鍛冶屋じゃないよな?」




「ほぉ?」


煤けた顔に刻まれた皺が深くなる。




「槌を振るうときの足運び……あれ、剣士の踏み込みだ。それも並じゃない」




一瞬、沈黙。


だが次に返ってきたのは、乾いた笑い声だった。




「……見抜くか、小僧。まあ昔の話だ。若い頃は冒険者やってた。パーティーも組んでな。だが仲間が一人、二人と欠けていって……気づきゃ槌しか握れなくなってた」




低く吐き出された声は、火床の熱に混じってどこか苦かった。




「今はただの鍛冶屋だよ。――だが、腕は錆びちゃいねぇ」




その会話を、リシアは隣で黙って聞いていた。







そして今。




街の片隅、鍛冶場の裏手にある小さな広場で、リシアは木剣を握りしめていた。


その前に立つのは、例のブラッドだ。




「……どうかお願いします。私を、鍛えてください」




リシアは深く頭を下げた。


ブラッドは片眉をつり上げ、大槌を肩に担いだ。




「馬鹿か嬢ちゃん。昨日まで戦場で倒れてた奴が今日から鍛錬? 骨が折れるどころか砕けるぞ」




「……それでも、やります。やらなきゃいけないんです」




リシアの瞳には迷いがなかった。


「ケイタさんは……もう前に進んでます。だったら、私も」




しばし睨み合い――やがて、ブラッドは鼻を鳴らした。


「……チッ。あの時の話を聞いてたか」




不器用に笑い、足元の予備槌を放り投げる。




「いいだろう。泣き言は一切なしだ。地獄に片足突っ込むってんなら、最後まで叩き込んでやる」




「はい!」




リシアは大きく頷き、再び木剣を構えた。







街を出る一行と、街に残り特訓を始める少女。


二つの影は離れながらも、同じ一点――「未来」へ向かっていた。

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