揺らぐ影 ― 試される者と託される者
街へ戻った俺たちは、真っ直ぐギルド本部へ向かった。
応接室にはギルドマスターと数名の幹部が待ち構えていて、机の上には俺たちが見た焼け跡や紋様の写し絵が広げられていた。
「……そうか。森の中で“召喚の紋”を見たと」
マスターの低い声に、俺とリシアは頷いた。セレイナも横で静かに腕を組み、肯定の視線を送っている。
「紋の詳細は術士に解析させる。だが……問題は“なぜ”この近辺に現れたかだ」
マスターは腕を組み、険しい目をした。
その場にいる誰もが息を呑む。イフリートが浅い森に出現したことと、今回の紋――偶然では片付けられない。
やがてマスターの視線が俺に突き刺さった。
「……小僧。お前には“何か”があるな。戦いで一撃を刻んだことは、周りも見ている。だが、得体は知れん。下手をすれば自分をも焼き尽くす類の力だ」
背筋が固くなる。
だが続いた言葉は、俺ではなく隣に向けられた。
「そして――リシア」
「……っ!」
リシアが肩を震わせる。
「薬草採取、オーク戦、そして今回。お前の献身は否定せん。だが“仲間”として前に立てる実力は、まだ足りん。正直、この先の任務に連れて行けば足手纏いになりかねん」
冷徹な言葉が落ちる。リシアの唇がかすかに噛みしめられ、目が揺れた。
「ま、待ってください! リシアは――」
俺が口を開きかけると、マスターが手を上げて制した。
「小僧、お前が庇うのは分かる。だが仲間を守るだけじゃ意味がない。“背を預けられる存在”でなければ、戦場ではただの負債だ」
そしてマスターは机上の地図に目を落とし、声を低めた。
「近いうちに、本格的な調査隊を編成する。深部まで踏み込み、召喚の痕跡を洗い出す大掛かりな任務だ。――小僧、お前は参加してもらう」
「……っ!」
胸の奥が揺れた。だが、その直後。
「リシア。お前は今回は外れる」
短い言葉。だが、雷のように響いた。
リシアの顔が青ざめ、拳が小さく震える。
「……私、は……」
「実力が足りん。それだけだ」
マスターは冷徹に断じた。
重苦しい沈黙。
だがリシアはやがて、唇を噛みながらも顔を上げた。
「……分かりました」
その声は震えていたが、確かな芯を宿していた。
「必ず強くなります。次は足手纏いなんて言わせません。だから……待っててください」
マスターの鋭い目が、一瞬だけ和らいだ。
「……その言葉を忘れるな。強くなった者だけが、先へ進める」
会議は解散となり、俺とリシアは重い空気を抱えたままギルドを出た。
石畳を歩く彼女の横顔は、悔しさと決意が入り混じっていた。
「……リシア」
「大丈夫です。ケイタさん」
彼女は振り返らずに言った。
「悔しいけど……でも、私も変わりたい。だから、鍛えてください。一緒に」
俺は立ち止まり、そして笑った。
「言われなくても。――俺たちは、もう仲間だろ?」
リシアが小さく笑った。
その笑顔に、不思議と胸の奥が熱くなる。
こうして俺たちは、それぞれの誓いを胸に歩き出した。
“試される者”として――そして“託される者”として。




