白薔薇の貴族令嬢
昼下がりのギルド。
俺とリシアは薬草採取の依頼を受けるため、カウンター前に立っていた。
「ではこちら、Eランク依頼の薬草採取ですね」
受付嬢が手際よく用紙を差し出す。
リシアが小さく「はい」と答え、用紙に手を伸ばした――そのとき。
「まぁ……こんな所で会うなんて」
鈴のように澄んだ声が背後から響いた。
振り向くと、陽光を受けて白銀に輝く髪。背筋を伸ばし、優雅な仕草で歩いてくる少女。
純白のドレス風の冒険者装備に身を包み、腰には装飾の施された細剣。
その姿は、まさに「貴族の令嬢」という言葉が似合っていた。
「セレイナ様……!」
受付嬢が思わず姿勢を正す。
周囲の冒険者たちまでもがざわめき、道を開けた。
「……誰だ?」
俺がぽつりと呟くと、隣のリシアが顔を引きつらせた。
「セレイナ=フォン=アルディナス……領主家のご令嬢です。剣も魔法も優れてて……ギルドじゃ既に有名な冒険者で……」
「あぁ、そういうことか」
セレイナは俺たちの目の前で立ち止まると、細剣の柄に手を添え、軽く顎を上げた。
「ふぅん……あなたが《岩殺し》のケイタ?」
その声音は明らかに見下すものだったが、紅玉のような瞳は真っ直ぐ俺を射抜いていた。
「……そうだけど」
「思ったより冴えない顔ね」
「……悪かったな」
「でも、あのギルドマスターに一撃入れたのは本当なんでしょ?」
俺は無言で頷いた。
その瞬間、セレイナの瞳が一瞬だけ揺れる。だがすぐに微笑に変わった。
「――面白い人ね」
その一言に、リシアが眉を寄せる。
セレイナはちらりとリシアを見やり、わざとらしく肩をすくめた。
「それにしても、あなたが彼の“パートナー”なの? ……村娘が随分なことね」
「……っ」
リシアが悔しそうに唇を噛む。
俺は思わず前に出て、低く言った。
「相棒を馬鹿にするのはやめてくれ」
一瞬、周囲の空気が張り詰めた。
だがセレイナは逆にくすりと笑った。
「……ますます面白い。自分より弱い仲間を庇うなんて、普通はできないわよ」
「普通かどうかは知らねぇよ。俺はそうするって決めてるだけだ」
「……そう」
その返答に、セレイナの頬がわずかに紅潮した。
すぐに彼女は視線を逸らし、細剣の柄を軽く撫でた。
「せいぜい頑張ることね。あなたの力……いつか、この目で確かめてみたいわ」
白薔薇のように気高く微笑むと、セレイナは踵を返した。
背筋を伸ばしたまま歩き去っていくその姿に、ギルド中の冒険者たちが息を呑む。
――ただ一人、リシアを除いて。
「……あの人」
リシアは小さく呟いた。
ケイタには気づかれなかっただろう。
さっきセレイナの目に宿ったのは――ただの興味なんかじゃない。
まるで“惹かれている”ような色だった。
(……なんで?)
リシアは胸の奥に小さなざらつきを覚えた。
ケイタが優しくて、誰かを見捨てない人だってことは、私が一番知ってる。
でも……誇り高いあの人が、どうしてこんなふうにケイタを見たのか。
わからない。
理解できない。
それでも胸の奥に、小さな不安が芽吹くのを止められなかった。




