噂と波紋
翌朝、街の大通りに出ると、妙に周囲の視線を感じた。
露店の店主がひそひそ話をしている。行商人が俺の顔をちらちら見ては首を傾げていた。
「……なんか、俺、見られてねぇか?」
隣を歩くリシアが首をかしげる。
「気のせいじゃないですか?」
いや、気のせいじゃなかった。
耳に入る会話の断片が、俺を確信へと導く。
「ほら、あいつだよ! 街外れで岩を両断したっていう……」
「いや、岩どころか地面を爆破したんだろ? 見てた奴がそう言ってたぜ」
「しかも素手でやったって噂もあるぞ」
「……いやいやいや! 俺、素手じゃねぇから!」
思わず振り返って否定したが、誰も聞いていない。
尾ひれがつきすぎて、もはや別人の武勇伝になっていた。
◇
その日の午後、ギルドに顔を出すと――
「おーい、“岩殺し”が来たぞ!」
と誰かが叫んだ。
「岩殺しって誰だよ!」
「お前だよ!」
酒場スペースは大爆笑に包まれる。
俺は額を押さえ、ため息をついた。
カウンターでは、昨日の受付嬢が淡々と書類を整理していた。
俺の顔を見るなり、すっと目を細める。
「ケイタさん」
「……はい」
「今日は岩を斬る予定はありますか?」
「ありません!!!」
即答すると、ギルド全体がまた笑いに包まれた。
◇
その夜。宿の一室で。
リシアはまだ体調が万全ではないのか、ベッドに腰を下ろしたまま両手を組み、ぽつりと口を開いた。
「……あの、私が森にいた理由、ちゃんと話しておきます」
俺は椅子に腰をかけ、真剣にうなずく。
「聞かせてくれ」
「私の村……フェンデル村は、最近モンスターの被害が増えてきているんです。父さんや村の人たちが必死に守ってますけど、このままじゃいつか村が壊される……」
リシアの声は震えていたが、その瞳はまっすぐだった。
「だから……私も強くならなきゃって思ったんです。レベルを上げれば、少しは戦えるようになるかもしれないって。だから、森に入って……」
「……あのイフリートに、か」
俺が言うと、リシアは小さく頷いた。
「本当は……あんな魔物、あの場所に出るはずがないんです。討伐記録だって奥地ばかりなのに……なのに、どうして……」
小さな手が膝の上で震えている。
俺は少し考え込み、低くつぶやいた。
「……偶然じゃない、かもな」
「え?」
「いや、まだ分からねぇ。ただ……妙に引っかかる」
そう言いながら、俺は腰の《焔月》に視線を落とした。
イフリートの角から生まれた刀が、薄暗い部屋の中でかすかに赤く揺らめいたように見えた。




