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噂と波紋

翌朝、街の大通りに出ると、妙に周囲の視線を感じた。


露店の店主がひそひそ話をしている。行商人が俺の顔をちらちら見ては首を傾げていた。




「……なんか、俺、見られてねぇか?」




隣を歩くリシアが首をかしげる。


「気のせいじゃないですか?」




いや、気のせいじゃなかった。


耳に入る会話の断片が、俺を確信へと導く。




「ほら、あいつだよ! 街外れで岩を両断したっていう……」


「いや、岩どころか地面を爆破したんだろ? 見てた奴がそう言ってたぜ」


「しかも素手でやったって噂もあるぞ」




「……いやいやいや! 俺、素手じゃねぇから!」




思わず振り返って否定したが、誰も聞いていない。


尾ひれがつきすぎて、もはや別人の武勇伝になっていた。






その日の午後、ギルドに顔を出すと――


「おーい、“岩殺し”が来たぞ!」


と誰かが叫んだ。




「岩殺しって誰だよ!」


「お前だよ!」




酒場スペースは大爆笑に包まれる。


俺は額を押さえ、ため息をついた。




カウンターでは、昨日の受付嬢が淡々と書類を整理していた。


俺の顔を見るなり、すっと目を細める。




「ケイタさん」


「……はい」


「今日は岩を斬る予定はありますか?」


「ありません!!!」




即答すると、ギルド全体がまた笑いに包まれた。






その夜。宿の一室で。


リシアはまだ体調が万全ではないのか、ベッドに腰を下ろしたまま両手を組み、ぽつりと口を開いた。




「……あの、私が森にいた理由、ちゃんと話しておきます」




俺は椅子に腰をかけ、真剣にうなずく。


「聞かせてくれ」




「私の村……フェンデル村は、最近モンスターの被害が増えてきているんです。父さんや村の人たちが必死に守ってますけど、このままじゃいつか村が壊される……」




リシアの声は震えていたが、その瞳はまっすぐだった。




「だから……私も強くならなきゃって思ったんです。レベルを上げれば、少しは戦えるようになるかもしれないって。だから、森に入って……」




「……あのイフリートに、か」




俺が言うと、リシアは小さく頷いた。




「本当は……あんな魔物、あの場所に出るはずがないんです。討伐記録だって奥地ばかりなのに……なのに、どうして……」




小さな手が膝の上で震えている。


俺は少し考え込み、低くつぶやいた。




「……偶然じゃない、かもな」




「え?」




「いや、まだ分からねぇ。ただ……妙に引っかかる」




そう言いながら、俺は腰の《焔月》に視線を落とした。


イフリートの角から生まれた刀が、薄暗い部屋の中でかすかに赤く揺らめいたように見えた。

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