032 VSデッドリィファミリー5
ロック兄弟より逃げ出したヘレンはデッドリィファミリーのボスまでたどり着いていた。
「……大きくなったな。」
「……。」
「こんな日が来ると思っていたよ。あの子は元気かな?」
ボスの部屋にヘレンが入室すると黒い椅子に座った男が椅子を回転させて、ヘレンへと顔を向けた。
あまりにも平凡なその顔はトップとしての威厳などないようだ。しかし、このデッドリィファミリーをここまで強大にしたのはこの男の功績に他ならない。
ボスがヘレンに懐かし気な目を向けると、ヘレンはぐちゃりと顔を歪めてボスと目を合わせる。
「……何故、このような選択をしたのですか?」
「ふっ、愚問だよ。デッドリィファミリーを存続させるためだ。分かっているだろうに。」
「他にも方法があったはずです。」
「……方法ね。私の首でも捧げればよかったかな?」
ヘレンはボスの感情が全く読めない顔をどうしても懐かしく思ってしまう。いつも何を考えているか分からず、その指示に従っていた。懐かしい日々。
ボスが首を斬る仕草を手で表現すると、ヘレンは目線を厳しくしてボスを見つめるが、ボスは飄々としたもの。
「それはっ……!!そうは、言いません。」
「そう言ってしまえば、私とやっていることが変わらないからね。少し意地悪だったかな。」
「……。」
ボスが笑いを堪えながら言葉を口にすると、ヘレンはぎりっと部屋に大きく響きそうなほど強く、歯を噛みしめた。
そんなヘレンの様子にボスはおかしそうに笑い始める。
「はっはっはっ。そう睨まないでくれ。久しぶりの再会ではないか。」
「……そうですね。元気ですよ。」
「ん?ああ、やっぱりあの子は君の所に。」
あの子とは当然ライネのことであり、このボスの娘である。
ヘレンの言葉を聞き多少とも安心した表情を伺わせるのは、この男ボスにも人としての、親としての感情というのが残っているからか。
「ええ、まぁ。うるさいくらいに元気ですので安心してください。」
「そうか。……そうか。あの子は笑っているのかい?」
ボスは感情を抑えるように言葉を溜める。口元に手を置きヘレンからかくしており、ヘレンからはボスがいかなる感情を抱いているのか、見当もつかない。
「ええ、毎日のように笑っています。」
「はっはっはっ。そうかそうか。それは安心だ。君がいなくなってからあの子は笑わなくなってしまってな。ついにはここを飛び出てしまった。」
だが、次のヘレンによる回答に大声で笑い声をあげているくらいだ。おそらく、ライネの無事を喜んでいるのだろうのは分かる。
「……。」
「さて、もう話はいいかな?」
「あなたはいつも自分勝手な人です。」
ボスにとってはライネの無事が優先するべきことで、ヘレンとの問答など大した価値などないものだ。
だからこそ、ライネの無事が確認できてしまった今ではヘレンと問答する意味もなく、話をする必要がないのであった。
「トップにもなると我儘が通ってしまうからな。つい私の都合を優先してしまう。」
「……あなたにとって私たちの一族は必要ないものだったということですね。」
「それは違うよ。私も悲しかったさ。でも、大多数の人間、ひいては組織を守るためだよ。」
最大幸福の最大多数。組織全体の幸福を増加させようといかにも立派なことを言っているものだ。だが、これを言っているのがマフィアのボスなのだから、笑うものも笑えない。
そして、現にヘレンの一族をすべて滅ぼして組織を守ったなどと宣うものだから始末にも負えない。
「それで滅ぼされてしまっては世話がないんですよ!!」
「はっはっはっ。まぁ、そうだろうね。だが、もう過去の話だろう。今更蒸し返してどうしようというんだい?」
「……やはりあなたは生かしておけないですねぇ。」
最大幸福の最大多数を謳うのはいいが、そのために不幸な目に遭わされる側としてはたまったものではない。
ヘレンの怒りの声はボスには一切響くものではない。過去に妄執した愚か者程度の認識だろう。ヘレンを見るボスにはいかなる感情も宿っておらず、どうでもよさげであった。
「ようやくやる気になったかい。ヘレン=ローザー?」
「……。」
「野良犬のくせに貴族のお嬢さんに飼われるのは心地よかったかね?」
ヘレン=ローザーと呼ばれることを何故知っているのか。貴族のお嬢さんというくらいだから、プリマのことも知っているのだろう。
ヘレンは様々な聞きたいことを飲み込み剣を構えた。
「はっはっはっ。まぁ、楽しんでくれたまえ。お前たち、頼んだ。」
「「「はっ!!」」」
「三人で止められると思わないことですねぇ。」
黒装束を身に纏った三人衆がヘレンへと襲い掛かった。




