026 作戦開始
日が沈み辺りが暗くなってきたころ、数日程の休暇を終えたアドル一行の面々は今日という日を待っていたかのように燃え上がっていた。
特にアドルとエレナの気合の入用は凄まじく、メラメラと燃える炎が背に見えるようだった。
「ふふふ、今日はついに作戦決行の日ですね。」
「ええ、ついに来たわね。この日を楽しみにしていたわ。」
いつものことながら戦闘ということになるとエレナの盛り上がりようは違う。誰よりも戦闘を楽しみにしているのが常で、まさしく戦闘狂というのがふさわしいだろう。
だが、今日という日に限ってはエレナと比べても遜色ない、それよりも盛り上がっているかもしれないアドルがいた。
「うん。早いところ潰さないとね。」
「あら?アドルが珍しくやる気じゃない。どうしたのかしら?」
「ん、ああ。……やっぱり悪い奴は倒しておかないとね。」
いつになく盛り上がるアドルにエレナは不思議そうな表情を浮かべながら、アドルへと目線をやる。
そのアドルはちらりとプリマへと目線を向ける。そこには花のピアスを付けた姿があり、自然とアドルのやる気が際限なく心の底から湧き上がってくる。
「ふふっ、そうね。」
「なんだが私たちの方が気合が入っていないようですね。」
「へへっ、エレナの嬢ちゃんには毎回叶いませんからねぇ。」
「私は事前準備が仕事だから。」
アドルとエレナの気合の入り方とは反対にプリマとヘレン、ライネの三人はいささか気合という面では劣っているのは確かであった。
特に宿願が叶いそうなのにアドルとエレナの二人に気合で負けているヘレンとライネであるのだから、なんとも言い難いものだ。
「ふふふ、ライネはそうですね。……ヘレン。」
「へぇへぇ、やる気を出しますよぉ。それにしても、アドルが珍しくもやる気になっていますからねぇ。何かあったんですかねぇ。」
「んんっ、やる気があるのはいいことです。」
窘められるヘレンは仕返しとばかりにアドルとプリマの両名の顔を何度も見比べて、その後揶揄う様な意地の悪い笑みをプリマへと向けた。
そのヘレンからプリマはそっと視線を外しながら、ヘレンへの追及を取りやめた。その様子が何かあったと言っているようなもので、ヘレンからは面白く映ってしまっているのはプリマは気づいていない。
「さて、アドルとエレナ、ヘレンの三名はデッドリィファミリーにそれぞれ突入してください。場所はヘレンが知っていますので、案内はよろしくお願いします。」
「へへっ、お任せくだせぇ。」
「私とライネは宿屋で待機します。証拠が手に入り次第、子爵家を潰す算段を付けますので、それまでお願いします。作戦開始です。」
「「「「おお~!!」」」」
「お二人ともお願いしますねぇ。」
それぞれ襲撃ポイントに付いたアドルとエレナは時間が来るのを今か今かと待ちながら、静かにその場で佇んでいる。
しばらくして二人を襲撃ポイントへと届けたヘレンが自身も所定の位置に付くと、筒形の魔道具を取り出した。そして、それを上に向けて魔力を流し込むとどんと空に火の花が咲き誇り、ヘレンはそのまま筒をデッドリィファミリーの本拠地へと向けた。
「なんだっ!!」
「どこのどいつだ!!」
「へへっ、どかんと一発ぶちかましますかぁ。」
再度ヘレンが魔道具に魔力を流すと火の花は寸分変わらず本拠地へとぶつかり、ドカンと大きな音と共に壁を一面爆発させてしまった。
「て、敵襲!!敵襲だ~!!」
「はは、ようやくこの時が来た。お前らもこれで終わりだな。」
「てめぇか!!うちの組に手ぇ出して無事で済むと思ってんのか!!」
「へへっ、無駄な口上を言う前にやることがあるのではありませんかぁ?」
爆発した本拠地の壁へと悠々と歩むヘレン一人。そのヘレンに向かって構成員が吠えて牽制のために魔法を放つが、その攻撃は掠ることなくヘレンの横を通り過ぎていく。
ヘレンは吠える構成員におかしそうに笑い声をあげながら、懐から禍々しい気配を放つ魔装具の剣を取り出して、それを構成員の方へと向けた。
「このっ!!てめぇらこいつを殺せぇ!!」
「へへっ、単細胞な奴らでっせ。相棒、今日からまた頼んだぁ。」
怒り狂った構成員の掛け声に呼応して三人の構成員がヘレンへと突っ込んでいく。それを軽々と避けながら構成員を去り際に斬っていく。
斬られた構成員はその切り口から黒い靄を剣に吸い取られながら、命を散らす。
「「「グワーッ!!」」」
「あっ、あれは!?」
「おやぁ、もう知っているやつがいますかぁ。」
「生き残りが居やがったか。」
構成員三人が仲良く地面に伏せると指令担当の構成員が驚いたような表情を浮かべながら、ヘレンの持つ剣を指さしながらがくがくと身体を震わせ始める。
恐怖に身体を震わせながらも指令担当の構成員は気丈にもヘレンを睨みつけ、隙なく剣を構えた。
「ええ、最後の生き残りですよぉ。」
「忌々しい裏切り者どもめ。」
「へへっ、裏切り者はあなた達でしょうにねぇ。」
お互いに憎々し気に睨み合いながら、二人はそのまま膠着状態になった。どちらも構成員が集まることを望んだ結果の膠着状態である。




