025 休暇5
「……ランベルト様、お久しぶりでございます。」
煌びやかな服装の男はランベルトという。この男こそがバランティ子爵の息子でプリマの婚約者たる男である。
この男は見栄えは悪くなく、外面は良いため貴族の子女からそこそこの人気を得ていた。そんな彼が増長するのは簡単でプリマに出会った時も、天狗になった鼻で上から目線に婚約者になれなどと口にしていた。
「ふん。その男は誰だ?」
「私の護衛でございます。」
「護衛ね。それにしても若い気がするが。」
ランベルトはぎろりとアドルに視線を一つやり、プリマに不機嫌そうな表情で問いかけた。
その様子に惚れ惚れするほどの綺麗な愛想笑いを浮かべたプリマが答えを返しており、そのプリマを見てアドルは恐ろし気に身を引いた。
「そうでしょうか。そうおっしゃるランベルト様の隣にいる方はどなたでしょうか?」
「ん?ああ、友人だよ。友人。」
「まぁ、そうでしたか。それにしては距離感が近くて、私てっきり。」
ランベルトは隣にいた令嬢の腰に手を回しており、単なる友達などとはどうしても見えないものだ。
そして、実際にもランベルトと令嬢は単なる友達ではなく、火遊びを共に楽しむ禄でもない関係であった。
仮にも目の前に婚約者がいるのに手を腰に回したままを堂々としているのだから、ランベルトはどれほどの恥知らずなのだろうか。当の令嬢もプリマに勝ったとでも言うようにランベルトへさらにしなだれかかっているのだから、始末に負えない。
「はっはっはっ。嫉妬か?」
「……ええ、婚約者ですから。」
「ふん。それなら少しくらい身体を許してくれても良いと思うがな。」
「婚前ですので、神様がお許しになりません。」
ランベルトは好色な目を隠すこともなく、プリマの胸、腰、尻を順に眺めて、しまいには腰に回していない方の手をプリマの身体へと伸ばしていく。
それをプリマは不快そうな表情一つ浮かべず軽やかに流している。
「はっ、そっちも護衛とお楽しみはするなよ。」
「もちろんでございます。」
「身体はいいが、つまらん女だな。もう行く。」
プリマは下品な言葉にも、心無い言葉にも終ぞ何らかの表情を浮かべることなく、綺麗なまでの愛想笑いでその場を乗り切ったのだった。
「ええ、行ってらっしゃいませ。」
「ふん。」
ランベルトは去っていく時もプリマの肢体を眺めるのに忙しかったようで、プリマの目に目線を合わせることなく令嬢の腰に手を回しながら街へと消えていった。
「……プリマ、大丈夫?」
「……大丈夫も何も、俄然盛り上がりますわ。とエレナはいいそうですね。」
アドルの心配げな表情にプリマは冗談めかした言葉を口にして答えるが、言った後に唇を痛いほど嚙みしめてランベルトの去った方へと目線を向けていた。
「ははは、確かに言いそう。さっきのが?」
「ええ、バランティ子爵のランベルト。私の婚約者です。」
「あれは確かに嫌になるね。」
「そうです。あの愚物と婚約者というだけで、気分が悪くなります。」
浮気、好色な目、下品な物言い。そのどれもがプリマの気に入るものではなく、愚物と称するほどランベルトを嫌っている原因であった。その他にも過去に様々な因縁があって、潰そうとまでなったのだった。
「ははは。」
「それもあと少しの辛抱ですので、あなた達には期待していますよ。」
「うん。任せておいて。」
「もう少し散策は続ける?」
「そうですね。あれが最後で散策を止めるのも締まりが悪いですので、もう少しだけ散策しましょうか。」
「うん。今日の思い出からあれは消しちゃおうよ。」
「ふふふ、そうですね。」
ランベルトが去った後、微妙な空気が二人の間に流れており、アドルはプリマと目を合わせるとこの後の予定を尋ねた。
プリマもまた微妙な空気感が流れてたまま帰るのは嫌なようで、アドルのあれなどという不敬な発言に自然な笑みを浮かべると、二人は並んで歩みだした。
「アクセサリーですか。」
「ここは……興味あるの?」
「ふふふ、そうですね。私も着飾るのは楽しいものですよ。」
昨日も来たアクセサリーショップ。エレナとの買い物を思い出し、アドルは若干ながら気まずげであるが、プリマはその様子に気が付かない。
アドルは意を決したように扉を開けると、プリマと共に店へと入っていく。
「アドルに贈り物でもしてもらいましょうか。」
「ええ?プリマが気に入るか分からないよ。」
「大丈夫です。気に入らなかったら、もう一度選びなおしですから。」
「……そこは選んでくれたものなら、何でも嬉しいという場面では?」
プリマはアドルにプレゼントをもらう前提のようで、アドルもまたそれに否とは言わない。が、質のいいものを見ているだろう貴族の娘相手ともなると、少々ばかり緊張をするようだ。
そんなアドルの緊張を解くためか、プリマの冗談にアドルはジト目を返しながら二度目となる商品を眺めていく。
「ふふふ、気に入らないものを貰っても仕方ないです。一緒に見るならお互いに気に入った物にしましょう。」
「……道理だけどね。」
「プリマはいいものあった?」
「特にはないですね。アドルはどうでしょうか?」
「え、それを聞いた後だと出しづらいんだけど。」
店の中を散策すること数十分。アドルの問いかけにプリマは品々を見ながらも、どうやらピンと来ていないようだ。
そんなプリマの言葉を聞かされたアドルは一応候補はあるようだが、非常に言いにくそうに困ったような表情を浮かべている。
「ふふふ、大丈夫ですよ。ダメだったらバッサリ切りますから。」
「大丈夫じゃないじゃん!?」
「ふふふ、さぁ品を見せてください。」
大丈夫などといいながらもアドルの品を切るつもり満々のプリマにアドルは思わずツッコミを入れる。
そのアドルを軽くスルーしながらプリマは目を輝かせて、どんな品が出てくるか楽しみに待っているようだった。
「あー、これとかどうかな。」
「花のピアス?」
「うん。プリマって見た目が華やかだし、花が似合うかなと。」
「ふーん。」
アドルが連れてきた場所には花のピアスが一つ。ピンクがかった白色のピアスは可愛らしく、プリマの水色の髪にも大きく違和感を与えることなく馴染むだろう。
「……どうかな?」
「いいのではないでしょうか。」
「ははは、よかったよ。」
「……どうですか?」
アドルは緊張した様子でプリマへと問いかけるとよい反応を返され、その言葉にアほっとしたように微笑みを浮かべた。
アドルの言葉を聞きながらもプリマの目線は花のピアスに注がれており、そのピアスを手に取るとそのまま自身の耳へと当ててみせた。
「え?……ああ、似合っている。」
「……。」
どう、という言葉に何とか言葉を返すアドルだが、プリマはまだ満足していないようだ。じっとアドルの目を見つめながら、ピアスをその耳に押し当て続けている。
「か、可愛いよ。」
「んふふ、んっ。……購入してきますね。」
アドルが気恥ずげに目線を反らしながらもぽつりと呟くと、プリマは一瞬にへらと頬を緩ませたが、次の瞬間にはいつもの微笑みの表情に戻っており、それを誤魔化すようにアドルへと背を向けて歩いていこうとする。
が、よく見ると耳が朱に染まり耳もぴくぴくと動いているのが分かる。それが恥ずかしさからか、嬉しさからかはプリマのみぞが知ることである。
「いや、僕が払うから。」
「あら、そうでしたね。お願いします。」
早足で会計に向かおうとするプリマをアドルはすぐに止めて、花のピアスを受け取るとそのままお金を払った。
花のピアスが入った紙袋を受け取ったプリマはそれを大事そうに胸に抱きかかえると、二人はそのまま宿へと戻ったのだった。




