024 休暇4
二人が向かった先は商業地区でも高級店が立ち並ぶエリアである。高級店が並ぶエリアには貴族用のエリアと小金持ち用のエリアの二つがあるが、二人が来ていたのは小金持ち用のエリアである。
プリマは上位貴族に名を連ねる子女であるが、アドルは一般庶民であり、貴族の店にあるものを買えるほどの財力は残念ながらない。
プリマの財布を使えば貴族用のエリアでも買い物は簡単に出来るが、アドルの望むことではなかった。
「エレナとも来ましたか?」
「いや、エレナと行ったのはもう少し南の方だったよ。それがどうかしたの?」
「いえ、別に何でもありません。……ただ、二日連続で同じところを回るのは、アドルもつまらないのではないですか。」
プリマからの不意にかけられた問いにアドルは南の方を指しながら答えた。
商業地区は一般エリアが南門の直ぐ側に位置して、そこから弧を描くように北西へと伸びている。北西に行くにつれて小金持ちエリア、貴族エリアと高級店へと変わっていく。
貴族エリアの終点が西門の近くで、王城に近い場所になっている。
「そんなことないよ。プリマと回れるなら、それだけでも楽しそうだし。」
「口説いているんですか?」
「くどっ……別に口説いているわけではないよ!!」
「口説く気もないとはまた失礼ですね。」
プリマの一言はアドルにクリーンヒットして、アドルは慌てて否定をする。
その姿にプリマは頬を膨らませてみせて、そっぽを向いた。プリマがちらりと片目でアドルの様子を見ているのがアドルの目にも入り、アドルは頭痛でもしたように頭に手を置く。
「……また、揶揄ってる?」
「ふふふ、反応が良いですので、つい。」
「ついで揶揄わないでよ!!」
二人は軽いジャブを交わしながらも、目的地へと辿り着いた。
そこは魔物の素材が並ぶ店である。色気もないところだが魔装具の補充も兼ねて最初にここに来たのであった。
「あの時の戦いで使ったものを補充できるの?」
「いえ、あれは特別製ですので現段階では補充できません。」
あの時の戦いとはもちろん岩石竜との戦闘である。その時に用いたのが熾天使の盾であり、一つ限りの特別な品であった。
あれほど強力な効果を持つ魔装具はそのお値段も一般人には手が出せるものではなく、簡単に作れるものでもなかった。
「ですが、あれの効力の低いものであればヘレンが作成できます。」
「ヘレンが作ってるの!?」
「……言っていませんでしたか?」
魔装具は魔物素材があれば個人でも作成は可能である。ヘレンもまたその一人であった。が、その手の作成を専門としている職人には敵わず、品質もいくらか落ちるのは確かであった。
「聞いていないよ!!あのふざけた人が……。」
「ふふふ。ふざけていても優秀なのは確かですから。でなければ、とうの昔に切っています。」
「は、ははは。」
ヘレンの意外な特技にアドルは驚きに目を見張った。その後に続く言葉はいつもアドルがヘレンをどう思っているか分かるセリフだが、普段がああなのだからさもありなん。
プリマが微笑みながら縁切りについて言及すると、アドルは曖昧な表情を浮かばせながらその件に触れることはなかった。
「さて、いくつか欲しい魔核とそれと相性のいい魔物素材を購入します。」
「うん。手分けして探すんだよね。」
「はい。数が数ですので、魔物素材の方は手分けして探さないと日が暮れてしまいます。魔核の方は店主に言えば裏から持ってきてくれるはずです。」
「分かった。半分は任せて。」
二人は手分けして魔物素材を探し出し、そして購入した。
「これでおしまいですね。」
「うん。この後の予定は何かあるの?」
「そうですね。特に予定はありませんので、もしよかったら王都を散策しますか?」
魔物素材を買い込んだ後、回復薬等の消耗品を購入し終わった二人の今日やるべきことは終わったようだ。
例によってアドルの黒い渦にしまわれた購入品たちにより二人は身軽であり、この後の時間も支障なく楽しめる準備は出来ている。
「なら、そこら辺を散策しようか。」
「ええ、私も知らない店が多いので楽しみです。」
「え?プリマも知らないの?」
今まで店の位置を案内していたプリマであるが、本人が言うには知らない店が多いようだ。商業地区というだけあり店舗数は数百とあるのは確かだが、これまで道案内で迷ったりしなかったプリマである。
そのプリマの言葉にアドルはきょとんと首を傾げて、不思議そうに問いかける。
「はい。私が普段使いするのはもう少し北の方ですので。」
「ははは、そう言えばプリマはお嬢様だったね。」
「そう言えばも何も、私は歴とした貴族の娘です。」
北の方というと貴族エリアであり、確かにプリマは名家、辺境伯の娘である。それを鑑みるに貴族エリアを普段使いしているのはそれらしいことだろう。
「ははは、そうだけど。一緒に旅をしているのが信じられないくらいだね。」
「ふふふ。確かにそうですね。私も本来なら旅をできる立場ではありませんしね。」
「そう考えると、よく許されたね。」
一般的な常識からすると、貴族の娘が旅に出ることなど本来稀なことで、それもここまで少数での行動など信じがたいことである。
旅に出るとすると貴族家の私兵団が護衛をしながらの移動になるため、百人単位での移動なんてこともあり得るくらいなのだ。
「……。」
「え、何その沈黙?」
「何でもありません。」
アドルの言葉に沈黙でもって答えるプリマにアドルは顔を引きつらせて、プリマの顔を凝視する。
プリマはそんなアドルの様子を涼しい顔で受け流しており、その清々しい態度にアドルはさらに顔を引きつらせた。
「まさか……。」
「プリマじゃねぇか。」
アドルの続く言葉を遮り、二人の前方から煌びやかな服を纏った男が話しかけてきた。




