022 休暇2
アドルとエレナ二人の休暇はまだまだ続く。
王都の中央には王国が誇る王城があった。そこは一般人には入門出来ないものだが、外から見るだけでも雄大なもので王国の観光名所の一つであった。
その王城の側までやってきていた。
「わぁ、遠くから見た時にも思ったけれど、近くで見るとすごく大きいね。」
「ええ、こんなに大きな建物は初めて見たわ。それに思ったよりも綺麗で美しいわね。」
アドルとエレナは見上げるほど巨大な城をぽかんと揃って口をあけながら、各々の感想を口にする。
この王城は王国内のどの建物よりも大きく、それでいて左右対称に規則正しく並んだ各白い塔が大変美しく、王国が有する建築技術の高さと権威を遺憾なく見せつけていた。
「壁も高いし、どうやって建てたのだろうね?」
「どうやったら攻め落とせるのかしら。」
「ちょっ、なんてこと言ってるの!?」
そんな王城に対してのエレナの発言だ。これに慌てたのは他ならぬアドルでエレナを信じられないものを見るような目で見て、周りに聞こえていないものかと首を振った。
幸いにも周りにいた人々には声が届かなかったようで、アドルとエレナに視線を向ける人間はいなかった。
「え?何か変なこと言ったかしら?」
「変でしょ!!反逆罪で取っ捕まるよ?」
「あら、私が簡単に捕まるわけないじゃない。」
国を相手にとんでもないことを言うエレナであるが、事実としてそれが実行てきてしまいそうなのが怖いところである。
「そういう問題ではなくて……。はぁ、いいや。とりあえず、次のところ行こうか。」
「ええ、そうね。次は噴水だったかしら?」
「うん。白の噴水広場だってさ。」
白の噴水広場はその名の通りに大理石を用いて作ったために白くなった噴水である。大理石というだけでも一般人には目にしがたいもので、その造形美もあってかここまた人気の観光名所となっていた。
「うわっ、人多いね。」
「ふふっ、そうね。流石は観光地なだけあるわね。」
アドルとエレナの目には人の群れが飛び込んでくる。特に若い世代の男女が多く、騒々しくも活気に満ち溢れていた。
もはや噴水も見えないほどの人の波なのだが、その雰囲気でさえ王国の若者には楽しいものなのだろう。
「あっ、何か店あるみたい。」
「本当ね。何が売っているのかしら?」
そんな広場の近くには屋台が立ち並んでいる。王国の法律上、噴水の広場そのものには店を開くことが出来ないが、広場から一歩でも出れば屋台が立ち並ぶ屋台街とでも言うべきエリアが広がっていた。
「ポップコーンだって。」
「へぇ……食べながら歩けるからなのね。」
「なるほど。通りで皆カップを持っているのか。」
その中でも一際人気なのはポップコーンの店だった。手軽に美味しく、歩きながらでも食べられる。そんなポップコーンは観光地にやってきた若者にはちょうどいい食べ物なのであった。
「……それにしても、なんだかここは私達には場違いね。」
「ははは、恋人ばかりだからね。」
「ふふっ、次のところ行きましょうか。」
「そうだね。」
二人が来たのは朝にも来た商業地区である。王都をここまで一周してきたような形である。実際には王都を一周するには相応に時間が必要で、店と観光地が立ち並ぶエリアを横断してきただけだが。
「アクセサリーか。そう言えば、エレナはあまり着けていないね。」
「そうね。戦う時に邪魔になることが多いから、あまり着けないようにしているわ。」
「ああ、エレナの戦い方だとそうなるかもね。」
ふとアドルが視線を店にやるとそこにはアクセサリーショップがあり、店外にも見えるように宝石付きの高そうなアクセサリーが並んでいる。
そんな店に誘われるように二人は入店すると、アクセサリーを鑑賞しながらも話を続けて店内を練り歩く。
「あら、誰が野蛮ですって?」
「そんなこと一言も言っていないよね!?」
「ふふっ、冗談よ。」
一言も言っていない言葉で難癖をつけられたアドルは思わずエレナの方へと顔を向けて、ツッコミを入れた。
そのアドルの驚きぶりに満足したようにエレナは微笑みを浮かべて、冗談と口にすると立ち止まったアドルを置いて先を歩いていく。
「全く質が悪いよ。」
「アドルが揶揄いがいがあるのがいけないのよ。」
「それ、理由になってないよね。」
アドルはエレナを追いかけながらも苦言を呈するも、エレナからは真っ当に返答は得られない。
アドルはジト目になりながらエレナに付いていくと、エレナが一つのアクセサリーの前で足を止めた。
「これ、綺麗ね。」
「ん、ああ。確かにエレナに似合いそう。」
「お二人様、ご希望のものはございますか?」
二人の前にあるのはシルバ―のペンダント。それにガーネットが取り付けられたものだった。シルバーチェーンに取り付けられたガーネットはその深い赤色をより際立たせている。
アクセサリーショップの店員は二人が立ち止まったところを目ざとく見つけ、すぐに駆けつけてくる。
「これ、いくらですか?」
「そちらは銀貨45枚となります。」
「なら買います。」
「アドル……?」
店員が話しかけてくると、アドルはすぐさまエレナが見つめていたペンダントの値段を聞き、即座に購入を決めた。
そんなアドルにエレナはびっくりしたような表情で見つめるが、手際のいいことでもうアドルはお金を払い終えてしまっていた。
「はい、エレナ。いつものお礼に。」
「……ふふっ、ありがとう。嬉しいわ。」
「んん、まぁ、偶にはね。」
アドルが購入したペンダントはエレナに手渡されて、少しの沈黙の後エレナは心の底から零れ落ちたような魅力的な笑みを浮かべて、大切そうにペンダントを受け取ったのだった。
アドルはと言うと、そのエレナの魅力的な笑みにやられて気恥ずげに目線を反らしながらも、こちらもまた嬉しそうに微笑みを浮かべていたのだった。
「大切にするわ。本当にありがとう。」
「あはは。」
アドルとエレナの二人での休暇はこうして甘酸っぱい空気を纏わせながらも終わったのだった。




