021 休暇
アドル一行が話し合いをした日の翌日。マフィアとの戦いは置いておき、アドル一行は数日程休暇として時間を取っていた。
そして、今日は休暇の一日目。早速、アドルとエレナは楽しみにしていた王都の観光をするために街へ繰り出したのだった。
宿の中には何故かたんこぶを作ったヘレンとライネがいたが、特にこれと言ってアドルとエレナには関係ないだろう。
「おおっ、やっぱり賑わいが凄いね。」
「ふふっ、これでこそ王都ね。」
王都の一角。商業地区では凄まじい人の波で絶えず溢れていた。見渡す限りの人、人、人。めまいがするほどの人間の数だが、二人にはそれも楽しいようで揃って喜びの声をあげていた。
そんな二人が最初に向かった先は武器や防具が並んでいる鍛冶屋である。色気も何もないが、この二人だとそれもまたらしい。
「これ見てよ。」
「う~、カッコいいわね!!」
「ね!!買おうかなぁ。」
金属らしい光沢が出た無骨な片手剣。その刃は均等に美しく成形されており、歪がほぼほぼない。無骨故に剣の出来だけに注目が行き、その品質の良さにアドル達は目を輝かせた。
特殊な効果もないただの剣だが、戦闘をするときに作りの良さと言うのがよほど信頼が出来る。目を輝かせて購入を迷う姿はただの子供の様で、きちんと休暇を楽しめているようだ。
「坊主たち、なんだ?デートか?」
「デートではないけど……。」
そんなときに無粋な男が二人へと話しかけた。お世辞にも小奇麗とは言えない男だが、なんとも言えない気迫が全身から立ち昇っている。
鎧に付いた数多の傷が歴戦の戦士であることを証明しており、アドルは警戒心を見せながら、エレナを背に庇った。
「おじさんは誰かしら?」
「おじっ……!!お兄さん、だろ?」
エレナのおじさんという言葉に男の気迫は霧散する。戦士のようだった風貌が、今ではただのだらしないだけの男に見えて、アドルはどこか釈然としないながらもじとりとした目線を男へと向けた。
動揺した男はエレナに乞う様な目線を向けており、それだけでどれほど動揺しているのか目に見える。猫なで声でお兄さんなどという男には威厳の一つも見えはしない。
「ふふっ、若い二人を揶揄うのはおじさんの楽しみ方じゃないかしら?」
「くっ……。」
「ははは、お前の負けだな。悪いな嬢ちゃん。こいつ最近振られたばかりなんだ、これに。」
若い二人を取って揶揄うのは同年代でもままあることだと思うが、男はその言葉に胸を打たれたように心臓を抑えた。
そんな男の後ろから、別の男が顔を出してアドルとエレナに笑いかける。こちらは気のいいおっちゃんのようで、男よりも年をくっているが、意外と言っていいのか髪など身だしなみが整っており、いい雰囲気を身に纏っている。
が、本質的にはガサツなのだろう。アドルとエレナの二人を揶揄った男と同じように、もう一人の男を揶揄い始める。これという言葉と共に左手の小指を立てており、その言葉にもう一方の男は気恥ずげに頭を抱えた。
「ちょっ、やめてくれよ。」
「あらっ、そうでしたの。」
「くっ……。お、覚えてろよ~。」
三人にによによとした表情で見られた男は捨て台詞を吐き捨てて、退店していったのだった。
「うちのが悪かったな。」
「いえ、特に問題はありません。」
「ははは、別に敬語じゃなくていいぞ。ただの気のいいおっちゃんだと思ってくれ。」
男が走り去った後、残った男が改めて二人へと謝罪した。
それにアドルは気にしていないと告げるが、男は頭をポリポリと搔きながら先の件を気にしているようだった。
「では、お言葉に甘えて。」
「ふっ、まだ固いがいいだろう。……そうだ、何か飯を奢るがどうする?」
「いや、驕ってもらうのは悪いから。」
多少相好を崩したアドルであるが、男からみたらまだ固く見えたのだろう。少し笑みを浮かばせながらも、懐かし気に目を細めて詫びに関しての提案をした。
「そうか……。では、一つだけ情報を。最近、王都の東で特殊な魔物に出会った。赤い毛並みを持つ恐ろしく強い狼でな、討伐は出来たが他にも多くの赤い毛並みを持つ狼を引き連れてやがった。ここから東に行くときは十分気を付けろよ。」
「分かった。情報ありがとう。」
「いんや、詫びだからな。坊主、嬢ちゃんも元気でな。」
王都の東。それはアドル達が通ってきた方の反対方向である。そこで見つけたという狼との対決は厳しいものだったようで、男は険しい表情を顔に浮かべて二人へと語って聞かせた。
そして、語り終わると二人に背を向けて退店していったのだった。
「……アドル。」
「ああ、アインかもしれないな。……でも、複数の赤い狼って言うのが気になる。」
「ええ、一匹しか連れていなかったものね。」
誰もいなくなった店内で二人は先ほどの話を精査する。気になるのは赤い狼という言葉。決別の日。その日にアインが連れていた魔物は赤の狼、黒白の狼、ピンク色の兎と水色の鳥。それと白いゴブリンである。
赤い毛並みと言うのがアイン一行の魔物たちと合致しており、さらに特殊で恐ろしく強いということからも可能性として高く浮上している。
「……とりあえず今日は観光しようか。」
「……そうね。王都での件も終わっていないうちに考えることではないわね。」
「よし、楽しむぞ~。」
「「お~。」」
一度、アインの件を忘れることに決めた二人はそのまま観光へと戻った。




