017 VS岩石竜3
「くそっ……。これじゃあ、キリがないよ。」
アドルは悪態を吐く。それもそのはず未だに強大な魔力を纏うドラゴンに明らかなダメージを負わせることが出来ておらず、そればかりか一方的に三人の魔力が削られて行ってしまっている。
今のまま進めばアドル達の方が先にガス欠するのは間違えなく、さらに岩の嵐がもう一度やってこればたちまち戦闘不能に追い込まれるのだ。
「ヘレン!!熾天使の盾はまだあるのかしら?」
「ないねぇ。あれは一つしかないよ。ただ、もう一度だけ岩の嵐を潜り抜ける手段はあるよぉ。」
「へぇ、いいじゃない。それならまだ耐えられるわね。」
岩の嵐という脅威に対抗できないことには戦いにもならない。故にエレナはヘレンへと問いかけたのであったが、その問いによい回答が帰ってきたため、三人の目に僅かながら活力が蘇ってくる。
とはいえ、岩の嵐だけでなく、岩の雨。岩の矢、岩の槍など当たったら致命傷を負いかねない魔法が幾度も飛び交っているため、気の抜けるものではなかった。
「……。」
「また、何か来るよ!!」
感情のないはずのドラゴンだが、どこか苛立たし気に口を開けるとその瞬間に新たなる魔法が発動する。“アースシェイク”。土属性の上級魔法。効果範囲内の地面に震度六程度の揺れが引き起こされるものだ。
その効果範囲はドラゴンを中心として半径約1㎞。強大な竜の魔力を持ってして行使される上級魔法はその効果を最大限発揮して、その効果範囲内にいるアドル達は立つこともままならない。
「これは厄介ね。」
「上から降ってきますよぉ。気を付けてくださいねぇ。」
立つこともままならない揺れの中、さらに三人に脅威となる攻撃が襲い掛かる。上空に作り出された岩の針が三人目掛けて降り注いできたのであった。
どうにか地面は這って魔法から避ける三人だが、腕や身体に土の破片が降り注ぎ、小さいながらもダメージが積み重なっていく。振動が止まった時には少なくない傷を負っていたのであった。
「ぐっ……。いつっ……。」
「山賊頭が起きた!?」
「おめぇらは……。って、ドラゴン!?」
アドル達が立ち上がると、その時にドラゴンの反対側から男の呻く声と共に地面をする音がした。その方向には山賊頭がおり、山賊頭が起きたことを気が付いたアドルが驚きの声をあげた。
その声に山賊頭が反応し顔を向けると、そこにいるのはアドル一行の三人とドラゴンである。
「あなたも戦いなさい。」
「なんで俺が……。」
「戦えば山賊の罪も多少はましになるわ。」
エレナは山賊頭をドラゴン戦へと誘う。エレナの言葉に山賊頭はドラゴンと戦うなど真っ平なため、顔をしかめる。が、次のエレナの言葉に考え込むように口元に手を当てた。
しかしながら、山賊頭に考えるほどの余裕は与えられなかった。それはドラゴンの攻撃が再開し、同時に山賊頭へもドラゴンが標準を合わせたためだ。
もはや戦う以外に道は残っていない。
「仕方ねぇなぁ。どうすればいい!!」
「少しでもダメージを加えてくれ!!」
「分かった!!“大旋斧”。」
山賊頭は諦めたように岩の矢を避けながらも、アドル達の方へと向かいながら怒鳴る。その声に呼応してアドルも同じくらいの大きさで怒鳴り返した。
すると、山賊頭はアドルの指示に従って自身の手に持つ戦斧を思い切り振りかぶって、ドラゴンの足へと叩きつけた。
「よしっ、これで少しは削るスピードも上がる。」
「へへっ、早く魔核を探り当ててくれるとよいですけどねぇ。」
それから四人の猛攻が始まったが、戦況はいまだに変わらない。魔力を削る速度は約20%程度上昇しているものの、それでもドラゴンからしたら微々たる魔力消費である。
そして、ついに二度目である岩の嵐攻撃がやってきた。
「ヘレン、頼んだよ!!」
「お任せくだせぇ。一度きりの幸福、二度起こる不幸。スプリットライブラ。」
轟々と音を立てながら近づく岩の嵐にヘレンは単身飛び込んでいく。そして、懐から一つ天秤の魔装具を取り出すとそのまま岩の嵐にぶつかるのだった。
すると、不思議なことに岩の嵐はぴたりと消え去ってしまい、その後には天秤の魔装具を持つヘレンが残ったのだった。
「えぇ……?」
「何が起こったのかしら。」
「へへっ、不幸を先送りにしたにすぎませんよぉ。これからの日々が恐ろしくて堪らないですねぇ。」
消えた岩の嵐を見たアドルとエレナは目を点にして首を傾げた。それにヘレンは手で鼻を擦って答えた。
岩の嵐によって受ける被害を消し去るのが一度きりの幸福で。それを分割して未来に不幸を受け渡すのが二度起こる不幸。被害を分割して先送りにし、今の被害をなくすのが魔装具スプリットライブラの効果である。
限りなく無敵に思えるこの魔装具であるが、不幸を解消しないうちに再使用すれば、分割するはずの被害を一度にその瞬間受けてしまうのだ。戦闘中に一度しか扱えず、戦闘後にダメージを負うこの魔装具は以外にも、使い勝手が悪い。
「よしっ、このまま一気に攻勢に出よう。」
「そうね。岩の嵐もずっと先でしょうしね。」
「これで終わりにして欲しいですねぇ。」
「ははは、無茶苦茶な奴らだ。山賊なんてやるもんじゃないな。」
こうして岩の嵐による被害を回避したアドル一行と山賊頭はまたドラゴンの足目掛けて攻撃を再開したのだった。




