014 山賊団の根城からの退避
一人逃走していた山賊頭の補佐役は何処に向かっていたのかと言うと、山賊団の根城にある宝物庫である。
元々、山賊団に加入したのはこの宝物庫にあるアイテムを入手するためであり、また魔術の実験のためであった。故にほぼほぼ壊滅状態になってしまった山賊団に用はなく、こうして宝物庫へと堂々とやって来たのだった。
「ふふふ。これが岩石竜の魔核。」
そのアイテムとは岩石竜の魔核。土属性のドラゴンその魔核である。豊富に含まれた土属性の魔力は魔術師にとって固唾の品であり、また黄色に揺らめく魔力が可視化されるほどの濃密な核は、そこらの宝石よりもよほどの価値が貴族によってつけられる。
これを手に入れるために無駄な雑用をやらされていた補佐役であり、本来下の存在である山賊頭などに使われるのは相当に腹を据えることだった。
「あいつらもこれで終わりだ。“クリエイトゴーレム”。」
岩石竜の魔核を核にした“クリエイトゴーレム”は魔核に含まれる魔力を最大限使い、そして補佐役は魔法の制御が出来なくなった。
暴走する魔力によって周辺の魔力を吸い込み始め、魔核の意志に従って仮初の身体を形成していく。どうにか魔法を制御しようと魔力を込めた補佐役は逆に魔力を強引に吸い込まれて、気を失った。
暴走した魔力によって洞窟全体が躍動する。そう、この揺れこそがエレナと山賊頭の決着を迎えさせたものだったのだ。
さらに揺れが大きくなっていく連れて、洞窟がガラガラと崩れていく。そして、その崩れた土を身体を成形して、ついに生前の形を取り戻した竜は虚ろな目をしながら、その生前の意思によって動き始めた。
「うわっ、皆逃げるよ。って、エレナ!!」
「ぐっ……大丈夫だわ。この男も連れて行きましょう。」
「血が出ているじゃないか。」
洞窟が崩れ始めるとアドル一行は慌てたように出口へと向かって足を進めようとする。そんな時、アドルがエレナの負傷に気が付き驚きに目を見張った。
あの殺しても死ななさそなエレナである。アドルより数段実力が上にも関わらず、山賊頭との戦闘で傷を負うとはアドルは想定の埒外であったのだ。
「ふふっ。平気よ。かはっ……。」
「全然平気そうじゃないけど!?」
「あら……?さっきまで痛みもなかったはずなのだけれど。」
エレナの平気という言葉とは裏腹に内臓を損傷していたのか、口から血反吐を吐き出した。それに伴いずきずきと負傷した箇所が痛み始めて、エレナの視界がふらつき始めた。
エレナは先ほどまで闘争心によりアドレナリンが分泌されており、痛みを感じていなかったのだ。戦闘に区切りがついてしまえば落ち着くのは当然で、痛みに関する正常な感覚を取り戻したのだった。
「プリマ。エレナを頼むよ。」
「“ハイヒール”。」
「ありがとう。助かったわ。」
エレナが今にも倒れそうなほどの負傷だったが、プリマの回復魔法がその身体を暖かく包み込むと、しばらくして痛みとともに負傷した傷が治療された。
治療も完全とは言えないが、無理をしなければ問題ない程度までは抑えられて、エレナの顔色も随分とよくなった。
「それより急ぎましょう。いつ崩落してもおかしくありません。」
「って、そうだったね。皆退避!!」
エレナの体調がよくなるのと反比例するように洞窟の振動はおさまることはなく、強くなる一方である。
エレナの回復を喜んでいた一行だが、それも束の間慌ただしく洞窟より退避を始めたのだった。
「何だ……あれ。」
「ドラゴンですね……。」
洞窟から退避したアドル一行の目には竜の姿が映る。その大ききは20m級。翼がないタイプのドラゴンであり、その身体は土で形成されているのもあり、ごつごつとしており一般的な竜の鱗とはまた別の質感をしていた。
見上げるような巨体を目にしたアドル一行は呆然としてしまい、身体を動かせないでいた。
「あっ、あっちには村が。」
「どうしますか?」
「どうするも、ここで倒すしかないよ。」
そんなアドル一行にドラゴンは気が付いていないのか、のしりのしりと、裏の方角へと歩みを進め始める。その歩みは相当に遅かったものの、着実に村へと近づいていく。
そんなドラゴンの様子に焦りの声をあげたアドルは無謀ともいえる、ドラゴン退治を提案したのだった。
「いいわね。ドラゴン退治。面白そうじゃない。」
「ふふふ。最高ですね。どこまで私の力が通用するか、楽しみです。」
アドルの提案に賛成するのはエレナとプリマである。目を爛々と光らせ、口元に笑みを浮かべさせる。
ドラゴンと言えば最強の魔物の一角。通常討伐しようとするなら国が総力をあげなければならない存在であり、かつ戦い方も攻城戦といったものだ。
ただの一パーティーに倒せるものではないのが普通なのだが、そんな常識は二人には通用しないのであった。
「お嬢様方は正気でしょうかぁ?」
「……言っても無駄。お嬢はいつもこう。」
一方でヘレンとライネは反対する言葉を口にする。エレナとプリマを見る二人は何処かその表情を引き攣らせている。
だが、その直後には覚悟が決まったように顔を引き締めた。二人ではプリマの意見を翻すことは不可能なのだ。いつもはプリマを振り回す側の二人と言えど、本質的にはプリマに従う者たちだ。
故に覚悟というよりもやけっぱちそうなのはご愛敬というものだろう。
「よしっ。皆ドラゴン討伐だよ!!」




