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宿命の少年たち 〜因果に囚われ、殺し合う〜  作者: 如月
第二章 青年時代・アドル編
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013 VS山賊頭

 一方でエレナの方は早々に片が付いていた。というのも、元々接近戦闘においてエレナの方がアドルよりも数倍は強い。それを山賊二人で押さえようと言うのだから、無謀と言う他ない。

 アドルが一人へ反撃する頃にはもう二人を打ち倒しており、山賊頭のところまで接近していたのだった。


「ふふっ。遊びましょうか。」

「ちっ、情けねぇ。二人がかりで女の一人も仕留められないとは。」


 エレナはついに山賊頭と対峙した。軽い調子で歩くその姿は戦場には似合わないが、身に纏う闘気は本物である。

 知らずの内に山賊頭は冷や汗をかくも、その動揺を悟られないように山賊への悪態を一つ吐く。そして、戦況を見るように周りへと目線をやると、どこもかしこも山賊側が追い詰められている。


「ふぅ。いよいよか。かかってきな、嬢ちゃん。」

「ふふっ、いいわね。少しは楽しませて頂戴。」

「くくっ、なんともお高いデートだ。」


 山賊頭にもう油断はない。エレナを最大の敵と認識した山賊頭は背負う戦斧を構えてその身に魔力を漲らせる。

 よい集中力を纏う山賊頭にエレナは奥の底から湧き上がる闘争心のまま壮絶な笑みを浮かべる。その衝動のまま策も何もなく、ただ純粋に足を踏み出し接近していった。


「くっ……!!このっ!!」

「ふふっ。ふふふふ。」


 山賊頭が牽制のために振るった一撃はエレナの軽い身のこなしで躱される。どうにかエレナに接近されまいと小さく戦斧を振るう山賊頭だが、その一撃は軽く勢いに乗っているとは言いずらい。

 そんな攻撃ではエレナの足を止めるには至らず、エレナの間合いに山賊頭は易々と入り込んでしまう。

 間合いに入ったエレナは拳を固めて、山賊頭の腹目掛けて振るった。が、その拳は何と戦斧の柄にぶつかり、山賊頭はぶつかった衝撃でエレナの間合いからどうにか離脱したのだった。


「やるじゃない。」

「……お褒めに預かり光栄だね。」

「さぁ、まだまだこれからでしょ。一緒に踊りましょう。」


 二度目の衝突はすぐに起こった。エレナが山賊頭に踏み込むのは同じ。だが、山賊頭の攻撃に変化があった。小振りだった戦斧が大振りになっており、十分な威力を伴っていたのだ。

 この変化にはエレナも対応せざるを得ない。先ほどのように闇雲に突っ込むのではなく、より防御に意識を置いた戦いへと変化する。


「どうしたっ!!勢いが足りないんじゃないか?」

「リードが激しすぎてね。少し戸惑ってしまっただけだわ。」


 山賊頭に言われたからというわけではないだろうが、エレナの意識がわずかに攻撃へとふれる。その瞬間にどんとエレナの腹に衝撃が加わり、呻くエレナに山賊頭が追撃しようと戦斧を振り払う。

 が、衝撃が身体に残りつつもエレナは山賊頭の間合いから離れると、少し離れた位置でお腹を押さえた。つーと口の端から血が流れ出てきたエレナだが、痛みにあえぐよりも今の状況を楽しんでいるのか、よりテンションが上がる。


「くくく、諦めて楽になれよ。」

「ふふっ、ようやくこれからでしょう。」

「お前さんはいい女だからな。出来るだけ殺したくはないんだが。」


 山賊頭の作戦勝ちだろうか。防御から攻撃に意識が移る瞬間の一瞬の隙を見逃さずに戦斧を返して振るのではなく、振るった後のまま柄頭で腹を打ち付けたのだった。

 エレナは確かなダメージを負っているはずだが、まだまだ動きに支障はないようだ。ますます笑みを深めるエレナは元来から戦闘狂であるのだろう。

 山賊頭は本心から言っているのか、ただ軽口を叩きながらも油断なくエレナの一挙一動を観察しており、油断も慢心もしておらず、いい集中力を保っている。


「ふふふ。私を手に入れたければ、私を打ち倒すことね。」

「はぁ、手加減できるほど弱くないからな。」

「もう一度、お願いいたしますわ。」

「……いい女に頼まれては仕方ないな。」


 エレナはドレスの端を掴み見惚れるようなカーテシーを披露する。が、その顔に浮かぶのは獰猛な獣のような好戦的な笑みである。

 山賊頭が一つ息を吐くと、エレナは山賊頭に三度足を踏み出した。状況は同じで、エレナが突っ込み、山賊頭は間合いに入らないように大振りの攻撃を仕掛けていく。

 違うところがあるとすればエレナの意識だろうか。防御よりの思考はなく最初から攻撃よりの思考で踏み込み、攻め続けている。


「ふっ……!!」

「ふふっ……!!」


 山賊頭の戦斧が面白いように交わされるが、エレナにとっても決していいとは言えない状況だ。一度でも当たったら終わる状況で、踏み込み続けるのは相当なストレスを受け続けることだ。

 一方で、山賊頭も攻撃が当たらない状況が続き、焦れていく。焦らないように、慎重にと心では言い聞かせるが、本心ではどうにかしなければならないという焦りが収まらない。

 もはや、忍耐力の勝負。正確さの勝負といった様相になっていた。そして状況は動く。


「くっ……!!」


 まず、崩れたのは山賊頭であった。身体を動かすたびに湧き上がる汗、熱気と闘志によって頭が浮かされてわずかながら攻撃のリズムが変化してしまう。

 そのリズムの変化にエレナがすぐさま飛びつく。こうして、エレナと山賊頭の距離が一歩、されど一歩近づいた。

 ここで山賊頭が完全にリズムを崩していれば、勝負は付いていただろう。だが、流石と言うべきか、恐ろしい集中力でもって戦斧を巧みに扱い、リズムを早々に戻す。


「ぁっ……!!」


 今度に崩れるのはエレナであった。一歩前進したからだろう。その勢いのまま身体を前進させて、流れのままに勝利を焦ったのだ。

 だが、山賊頭はもうリズムを取り戻している。無理に前進しようとしたエレナの身体をちょうど返した戦斧がぶつかろうとして、しかしエレナはどうにか踏ん張り身体を後ろへと無理矢理引っ張る。

 喉元の先を通過した戦斧に冷や冷やするエレナがだ、エレナは完全にバランスを崩している。もう一度戻ってきた戦斧をさらにバランスを崩して避ける。


「っ……!!」


 エレナはバランスを崩したまま、粘り続ける。幾度も肌の少し先を通過する戦斧はいつ当たってもおかしくはない。

 山賊頭の攻撃は苛烈さを増し、粘り続けるエレナを仕留めようと速まり続ける。ついにはエレナの肌に一筋の線傷ができて、血が垂れ落ちてくる。

 山賊頭は目に見える成果に思わず表情に歓喜を浮かべると、さらに回転数を増した戦斧の斬撃でエレナに一つ、また一つと傷を付けていく。


「何だ……?」


 だが、次の瞬間に状況が一転してしまう。洞窟全体に鳴り響く異音と共に地面が揺れ動き、その異常な事態につい山賊頭は顔を上へ向けて、攻撃を止めてしまう。

 大きな隙を晒してしまう山賊頭にエレナは大きく踏み込んだ。そして、最大限に魔力を込めた拳で山賊頭の腹を打ち付けた。


「ぐぉ……!!」


 こうして、エレナと山賊頭の長くて短い攻防は呆気ない幕開けで終わったのだった。


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