008 フルパーティー
プリマの依頼を受けた翌日。街の門へと集合したアドル、エレナ、プリマ、ヘレン、ライネの5人のアドル一行は顔を見合わせて対面していた。
絶世の美女と言ってもよい少女が二人に身目の良い少年が一人。年をくってぼろぼろの服を身に纏ったおじさんとその同じ年代だけど見た目は幼女という異色のパーティーである。
「改めて王都までよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「アドル様。言葉遣いは崩していもいいですよ。私達は仲間なのですから。」
「しかし……。」
プリマは貴族家の生まれながらアドルに普段の口調でよいと許可を出す。なんとも貴族家らしくないことだが、犯罪者を雇うぐらいだ。今更、そんなこと気にするプリマではない。
それでもアドルの、世間一般の常識からすると躊躇うようなことである。困ったように眉を下げて辺りを見渡すアドルであった。
「あら、私に反抗するおつもりですか?」
「いえっ、って卑怯じゃないか?」
「ふふふ。そちらの方が私は嬉しいです。」
「そうですか。」
しかし、プリマの次の言葉でアドルは口調を崩す他ない。もはや口調を崩せと言うのと同義の命令である。
そもそも口調を崩してもいいというのは気遣いの類のはずが、その意図とは外れて強制されることになっており、アドルはプリマの言葉とやり口に諦める以外の選択肢はなかった。
「アドル。プリマを真剣に相手するだけ無駄よ。それより、早く行きましょう。」
「エレナはいつも酷いです。アドル様もそう思いませんか?」
「えっ、いや……。」
エレナの言葉を受けてプリマは悲しそうな表情を作って、そっと顔を伏せた。
するとアドルは困ったような表情を浮かべながらも、プリマの言葉に頷くのは憚られて口どもってしまう。
「ふーん。アドルは何か思うところがあると。」
「いやっ、そんなことないよ。」
そんなアドルの様子を無表情でエレナは見やり、色のない声音でぽつりと一言。
ただ単に怒った声音で言われるよりもよほど怖いその言葉にアドルは顔を引き攣らせて、慌てて全身を使い否定をする。
「では、私の言葉は違うと、そういうことでしょうか。」
「えっ、えぇ?」
すると今度はプリマが怒ったような声で言葉を発する。
プリマが怒ると首が飛びかねない。物理的な命の危機というまた違った恐怖にアドルはさらに顔を引きつらせる。
「ふふ。ほらね。真剣に相手をするだけ無駄じゃない。」
「ふふふ。エレナはいじわるですね。」
「……もう好きにしてくれよ。どっちもどっちだよ。」
そのアドルの表情を好きなだけ鑑賞した二人はふと笑い始めると、口々に相手のことを指摘する。
二人の言葉を受けてアドルは出発前にもかかわらず、どっと疲れたような表情を浮かべた。そして、投げやりに言葉を放り、肩を竦めたのだった。
「少年。強く生きるのだ。」
「ヘレンさん。それは何のキャラですか。」
ヘレンが慰めるようにアドルの肩に手を置く。その後、遠くを見つめながら少し何故か決め顔をしながらアドルへと言葉を告げた。
幼少期の頃に聞いた妙に間延びした声とは違うもので、アドルはピクリと眉を跳ねさせると不思議そうな表情を顔に浮かべる。
「へへっ、プリマ様の相手は任せましたよぉ。」
「お嬢を喜ばせられるのは少年だけ。よろしく。」
「それ二人が相手したくないだけでは?」
「「そ、そんなことない、ヨ?」」
アドルの言葉を無視してヘレンが言葉を続けると、ライネもまたアドルの肩に手を伸ばそうとして、届かず腕に手を添えた。その様子をぷぷっとヘレンが笑い、ライネに膝を蹴られている。
そんな二人のやり取りを見てアドルが核心の一言を漏らすと、ぎくりと二人の身体が止まりわざとらしいほど動揺した声で否定するのだった。
「……ヘレン?ライネ?」
「何でもございませんよぉ。」
「うんうん、素晴らしいご主人様で嬉しい限り。」
「流石はご主人様だぁ。」
「わっしょい、わっしょい。」
「ふざけてますね?後でお仕置きです。」
プリマの低い声が辺りに響くと、二人は揃ってびしっと姿勢を正した。そして、プリマのことを揃いも揃ってよいしょしだした。
が、あまりにもふざけた持ち上げ方である。わっしょいとは何だ。当然プリマも額に青筋を立てて二人に罰を命ずる。
「えぇ~。ライネのせいだぁ。」
「む。ヘレンのせい。」
「「何をぉ。」」
「二人ともやめなさい。」
お互いに責を擦り付け合う二人は大人としてなんとも恥ずかしいものだが、これでいて仲が悪くないのだ。むしろいいからこそ子供の様なじゃれ合いをしているのかもしれない。
「そちらの二人は仲が良いのね。いいことじゃない。」
「この二人にも困ったものです。」
「ふふ。プリマを困らせるなんて、あなたたちやるわね。」
プリマが人に振り回される光景を見てエレナは面白そうに笑みを浮かべた。常にプリマは人を振り回す側であるので、こういったプリマを見るのが新鮮であったのだ。
「へへっ、それが特技でっせ。」
「ふふん、得意技。」
「……ね?」
「ふふ。面白い子たちね。」
エレナのお褒めの言葉に二人は鼻をこれでもかというくらい伸ばして、胸を張った。同じポーズで胸を張るものだから、プリマは呆れ果ててものを言う気も失せて、助けを求めるようにエレナを見たのだった。
「そろそろ王都へ向かおうか。」
「ええ、アドルの言う通りだわ。楽しい旅のはじまりよ。」
「ふふふ。ようやく第一歩を進めますね。」
「へへっ、ここからは早いですよぉ。」
「むふ。私の旅が今始まる。」
「さて、出発だよ。」
フルパーティが勢ぞろいしていよいよ本格的な旅立ちである。
アドル一行が歩みを進める中、アドルの体の中で妖精が薄っすらと目を開いた。パーティー最後のメンバー妖精のアールヴである。
であるが、その紹介をすることもなく一行は意気揚々と門をくぐる。
「あれ?僕のこと忘れてない?」
忘れ去られたどこぞの森の妖精がひっそりと涙を流していたのを、アドル一行は終ぞ気づくことはなかった。
頑張れ妖精アールヴ。負けるな妖精アールヴ。きっとその内出番が来る、はず。




