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宿命の少年たち 〜因果に囚われ、殺し合う〜  作者: 如月
第二章 青年時代・アドル編
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001 アドルという青年

 アドルとアイン一行の決別の日から早くも3年が経っていた。

 アドルの年齢ももう15になり、この世界においては成人として扱われる。年相応に伸びた身長は今では170を超えた。銀色の髪をたなびかせながら立つその姿は端整な顔立ちも相まり、どこかの王子のようだ。


「……もう、15なのね。」


 感慨深そうにつぶやくのはアドルの母である。あの日より二人の仲はぎくしゃくしたものでなく、多少距離感は残りつつも一応は“家族“の範疇に収まっている。

 ここに父の存在もあればよりアドルの望む“家族”に近づくものだが、しかしその機会は永遠に失われてしまった。

 あの日のゴブリンによる惨状はアドルにとってはまだほんの少し前のことであり、眠るたびに父が嬲り殺される夢を見るものだ。乗り越えられるとしたら、ゴブリンという種を打ち倒すその時だけだろう。


「ははは、ようやく大人になったって感じだよ。」

「……ごめんね。」


 儚げに笑うアドルは誰が見ても見惚れるほど魅力的であったが、その母の目には映らない。自責の念に囚われて、過去に縛り続けられているアドルの母は12歳の頃のアドルの姿をずっと見つめている。

 謝っても心の重しが軽くなることはなく、そればかりかじくりじくりと呪いのように心を蝕んでいく。


「いや、別に謝ってもらうこともないよ。」

「……ごめんなさい。」


 暗い表情を浮かべる母の姿にアドルは能面のような顔を浮かべる。本来であれば成人になり、祝ってもいい日である。それなのにそこまで育った息子を誇ることなく、突き放してきた年数がアドルの母を蝕むのだ。

 そんな母の姿を3年間ずっと見てきたアドルはずっとから笑いを浮かべるしかなく、まさに形だけの“家族”ごっこだ。


「……こっちこそ、ごめんだよ。」

「……え?」


 意外なアドルの言葉に母は顔をあげる。しかし、その目はやはりアドルの目と合うことはなく、目を合わせるのを怖がるように宙をぼんやりと眺めている。


「ははは。こんな親不孝な息子でごめん。もし生まれたのが僕じゃなかったら、父さんも死ななくて済んだ。」

「そんなっ……!!そんなこと、言わないで。」

「ははは、意地悪だったね。僕は……もう行くよ。」


 母はアドルの言葉に驚愕の表情を浮かべて、アドルと目を合わせた。アドルの目には特に恨みなどの負の感情は宿っておらず、また正の感情さえもが全くない。果てしない虚無を垣間見た母は叫ぶ声を途中で止めた。

 アドルはそっと母から目を反らすと、から笑いを浮かべた。そして、母の横を抜けると扉に手をかける。


「うん……。」

「これまで育ててくれてありがとう。」


 最後だからだろうか。アドルの口からはするりと言葉が漏れ出ていた。アドルにとっても予想外だったのか、アドル自身も驚きを顔に張り付けている。

 当然、アドルの母はそれよりも驚いていた。アドルを10年真っ当に育ててはいないのだ。それも幼少期という一番重要とさえいえる時期を、である。そんな母がお礼を言われる資格などあるはずはなく、しかし、その言葉が耳に届いたのだ。


「うぅうう……。もっと早く受け入れて、いれば……。」

「……ははは。」


 見かけだけの“家族”ごっこは終わった。望む“家族”の関係を得られず、最後まで乾ききった笑みしか浮かべられなかったアドルだが、最期の最期、どこか悲し気な色を浮かべながらも、笑みを浮かべたのだ。




 森の中、幼少期より慣れ親しんでいるアドルは木の枝などの障害物があろうとも、走る速度を落とすことはない。

 幼少期より障害物があろうとあまり関係のなかったアドルだが、身長も高くなり頭の良い位置に枝が来ることもしばしば。そんな中で走る速度を落とさないのは相当にすごいことで、さらに足も速くなっているため例の広場にすぐに辿り着く。


「……。」


 黒い渦の見た目は変わらずである。しかし、その中に入る量は桁違いに増えている。その量、おおよそ幼少期の頃の3倍は下らないだろう。単純に60㎏以上の荷物を嵩張らず、重さを感じずに運ぶことが出来るのだ。

 刀が一本1㎏程度なので60本は持てるということだ。当然、60本も刀だけを入れているわけではないが、渦の中からアドルは一本の剣を取り出した。

 長さ約70㎝ほどで赤い刀身が特徴的な直剣である。標準的な長さの直剣はアドルにとっても使いやすく、訓練の際にも多用していた。これはアーレンクロイツ家の現商団長、ベルベットより報酬として渡されたものだ。


「ふっ……!!」


 アドルが直剣を一振りすると、剣の軌道に沿うように赤い燐光が追従する。なんとこの直剣、攻撃時に火属性が付与される摩訶不思議な剣なのである。こういった魔法剣に近いものは効果であるのに報酬として渡すベルベットはそれだけ、アドルに期待しているのだろう。

 それにしては相も変わらず、エレナが関わると馬鹿になりアドルをそのたび困らせたものだ。

 そんな話はさておき、魔法剣に近いというのはそのままの通りで、これは魔法剣ではないのだ。特殊な金属を用いて作られたただの剣である。摩訶不思議な能力を備えていても、本物の魔法剣にはほど遠い。

 では、何が魔法剣かと言うと、魔法・魔術が込められた剣である。剣それ単体で魔法を行使できれば魔法剣である。この剣は特に魔法を行使できるわけではなく、ただの効果付きの剣に過ぎないのだ。それでも十二分に高価なものだが。


「何度見ても綺麗だな。」


 剣の刀身を見て頬を緩ませるアドルの姿は怪しいというべきか、少年心にあふれていると言ってあげるべきか。何にしても本来であればお目にもかかれない高価なものが手に入れば、このように浮かれたくなるのも分かるだろう。


「アドル。」


 そんなアドルの後ろから彼を呼ぶ凛とした声が森に響いた。


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