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いずれ勇者・魔王と呼ばれる少年たち  作者: 如月
第一章 少年時代
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005 アインの家

 村長宅の最も近い位置にアインの家はあった。それは村長宅と比べて家の大きさも広さも遜色なく、村で有数の地位を要しているのが分かる。アインの家の明かりは他の家に比べても光量が多く、財力を象徴していた。

 その財力の源と言えば彼の家業によるものだ。彼の家業は二つ。地主と商売である。彼の家は村以外にも複数の家を持ち、それを人に貸し与えていた。また、貸し与えるだけでなく、店として家を改装したり、農地として人に分け与えるなどもしていた。

 その家業はどちらかと言えば村長の仕事に近いものであり、競合することもあったが何事もなく国から認可を貰い受け、正式なものとして活動していた。


「……。」

「……帰ってきたのか。」

「はっ、悪いかよ。」

「……。」


 アインは父の執務室の扉を開くと無言で父の前に立った。そんなアインを一瞥して父は言葉を吐くとアインも応じる。そんなアインに対して目は口ほどに物をいうとはよく言ったもので、アインの父には嫌悪の表情が見え隠れしていた。


「ふんっ。それで、今日はうまくいったのか?」

「ああ、おかげさまで、な。」

「くくく、おかげさま、ねぇ。」

「本心だろう。」

「だろうな。」


 アインの問いに父の目には浮かべていた嫌悪はなく、ガラス玉のような無機質な目がアインを見ていた。感情を伝えない目はおおよそ、人に、子供に向けるものではないがアインは慣れたもので態度を崩すことなく会話を続ける。

 父の無機質な目からはそれが本当に本心かは分からないが、アインはそれでも父の言葉を真っ向から同意してみせる。


「それで望みは何だ?」

「アドルのことを知っているか。」

「ああ、もう一人の化け物か。もちろん知っている。」

「もう一人、ね。子供の前で酷いんじゃないか、親父殿?」


 父の化け物呼ばわりにアインは一つ眉を跳ねるが、不機嫌になることはなく朝にアベルがしたのと同じように、おどけたようにへらりと軽薄に笑って肩を竦めた。自身がアベルと同じ行動を、同じ日にとるおかしさにかえって、機嫌をよくさえした。


「お前はそんな玉ではないだろう。それで、アドルとかいうのがどうした?」

「ああ、その父親を雇って欲しい。」

「……。……んー。」

「どうした?」


 アインの父は渋るように唸り声をあげる。彼は心の底から困惑しているようで、無機質な目を理解できないものを見るように変え、アインに向けていた。アインはそんな父の様子に断られる可能性を考え、続きを促す。


「メリットがないな、と。」

「だから先に提示しただろう。」

「はぁ、継続して雇うには今回の件はメリットが少ない。」

「……。ちっ、今回のが幾つ必要だ?」


 アインの父のメリットがないという言葉は彼の合理的な性格から出た言葉だろう。彼からしてあまりにも意図が分からず、必要性が薄い事象は彼の興味を失せさせ、断る方法へと思考をシフトさせていく。

 そんな父の様子にアインは嫌そうにメリットを言うが、父からはため息と共に一蹴される。父のアインを見る呆れた様な瞳はダメな子供を見るようで、対等な人間とは見なされてはいないのだろう。


「最低でも3。5つもあれば確実だろうな。」

「5か。」

「まぁ、腐ってもお前は俺の子だ。3でいい。」

「そこは俺の子だから今回は0でいい。って言うところじゃないか?」


 アインのもたらした利益は人間一人を一生雇うのの、4分の1から6分の1程度の価値は父に認められていたが、しかし要求に対してはあまりに不足していた。父はそんなアインに俺の子だからと譲歩する姿勢を見せた。

 アインはそんな父の譲歩に乗っかるように0なんていう法外な提案をした。


「くくく。面白い冗談を言うな。」

「親父殿こそ。」

「……。分かった。0でいいが、偶に手を貸せよ。」


 今までになく楽し気に笑うアインの父はここで3の利益を捨てても、それ以上の利益は簡単に取り返せると踏んだのだろう。アインの提案を受け入れた。


「ああ、勿論だ。よろしくな。」

「……。ああ、よろしく。」

「……。」

「……。」


 アインの父は握手を求めるアインの手を嫌悪感の宿る目で見つめながら、恐る恐る自分の手を近づけていく。そんな父の様子をアインは悠々とした態度で向かえる。握手をしあった二人は数秒視線を交わしたが、すぐに目と手を離した。




「そうだ。今度別の街で顔つなぎをするから、お前も来い。そこにアドルの父も連れて行こう。」

「……。分かった。」

「……アドルとか言うのも連れて行ってやろうか?」

「あ?それはどういうつもりだ?」


 父はアインに思い出したように言付けをした。アインは面倒くさそうにしながらもアドルの父のことを出されて、了承する他なかった。しかし、次に続いたアドルに関する言葉を聞き流すことは出来ず、剣吞な雰囲気を漂わせて父を睨みつける。


「脅しではない。お前には悪だくみが通用しないからな。」

「嘘をつくなよ。」

「嘘ではない。本当だ。悪だくみも手段の一つだが露見するか、潰されれば意味がない。かえって不利になることもある。」

「そうかよ。で、どういうつもりだ?」


 圧を一身に身を受けるアインの父は平然とした態度を保つが、その実いつもより少し早口になっており、内心の動揺を抑えきれてはいなかった。その父の様子と言葉に一理あると考えたアインは続きを促すように圧を軽めた。


「お前のご機嫌取りといったところか。お前は今回大きな利益をもたらしたからな。機嫌さえ取れば利益になるなら、ご機嫌取りぐらいするさ。」

「……。枷をはめられると思うなよ?」

「当然だ。お前がそんな玉でないのは、この私が一番知っている。」


 アインに真摯に向き合うように、本当のことを語るアインの父に釘を刺しながらも、アインは納得したように圧を解いた。だが、アインは父がこれできっと終わりでないのは分かっていた。いずれアドルを介して何かしらの企みをするであろうは、何も聞かずとも分かっていることだ。


「ふんっ、今は信じておいてやろう。」

「くくく。信じておいてくれ。」

「……じゃあな。」

「ああ、よい夢を。」

「ふっ。」


 アインはよい夢をという父に何の冗談だろうかと思いながらも、それが本心な気がして笑みがこぼれてしまう。それは嬉しさとか、楽しいとかの正の感情から来るものでなく、おかしな状況から来るバカバカしさからでた笑みである。

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