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046 アインの夜

 アイン一行は森の泉に来ていた。その泉でアインは程よく割れた腹筋を晒しており、その真ん中に拳型のあざがついていた。言うまでもなくエレナのものだ。


「……痛っ。」

「きゅー(大丈夫)?」

「ああ、大丈夫だ。あんのガキぃ!!」


 兎が心配そうにアインを見ると、大丈夫と言いながらも殴られた時のことを思い出したのか、怒りにぎりぎりと歯ぎしりをした。


「わふっ(やっぱり強い)?」

「わふふっ(怖いなー)。」

「ああ、肉弾戦なら絶対に勝てないな。」


 腹に着いたあざを見て狼たちは若干引いた様子である。アインに安々と傷を付けるのは相当な実力者の証明であり、狼達でさえ相手取っても勝ちを拾えるものということだ。

 エレナが実力差なのはアインも認めており、絶対に近接戦闘を行うつもりはなかった。遠距離からじりじりと削りながら、嵌め殺す。それが唯一の勝ち筋で、今回の戦闘も上手くことが運んだに過ぎない。


「きゅー(アインでも)。」

「ぴーぴー(でも、今回は主の勝ち)。」

「ふっ、当然だな。あいつは動きが読みやすいからな。逃げるのは簡単だ。それに今日なら勝てただろうな。」


 兎は恐ろし気に身体を震わせたが、鳥とアインが安心させるように勝った事実を強調させるとその震えもすぐに止まった。


「わふっ(流石)。」

「わふふっ(これで安心)。」

「そうだな。もうここに用はない。明日には出発するぞ。」


 アインは夜空を見つめると決意を目に宿らせる。その側に四人の魔物が控えてその道を照らしていた。


「きゅー(ようやくなのね)。」

「ははは、お前は心待ちにしてたからな。」




「そうだ。一人仲間を増やそうと思ってな。」

「わふっ(誰―)?」

「わふふっ(どこー)?」

「今から行ってくる。」


 ゆったりとした時間を過ごす五人であったが、ふと思いついたようにアインが声をあげると狼たちがその場ですたっと立ち上がり、キラキラした目でアインを見つめる。


「ぴーぴー(一緒に行く)。」

「きゅー(私も)。」

「ああ、二人は頼う。ここは頼むな。」


 アインが立ち上がりどこかへと歩みを進めようとすると、鳥と兎も一緒に行動を開始する。すると、アインは狼たちに目を向けるとお留守番をお願いして、歩き出した。


「「わふっ(分かった)。」」

「きゅーきゅー(それでどんな奴なの)?」

「ゴブリンだ。」




 アインが目指す先には一体のゴブリンがいた。草むらに必死に身体を丸めて隠れようとしているが、残念ながら身体を隠しきれてはいない。見事人間による残党狩りを逃れられたが、アインからは逃れられなかった。


「ぎ、ぎぃ(だ、誰)?」

「よぉ、初めまして。俺はアインって言うんだ。」

「ぎぃ(アイン)。」


 アインはゴブリンの背に手を乗せると、そのゴブリンはびくりと身体を震わすと恐る恐るアインの方へと向いた。

 アインは友好的に笑みを浮かべて名乗るが、それをゴブリンは警戒した様子でいつでも逃げられるように身構えられており、アインの一挙一動を見つめている。


「くくく、心配しなくても、取って食ったりしねぇよ。」

「ぎぃぎぃ(では、何の用事で)。」

「お前らのトップは死んだ。」

「ぎゃっ!?」


 警戒心をむき出しにするゴブリンの姿を楽し気に見守るアインだが、突然ゴブリンに向かって残酷な事実を告げた。ぎょっとしたように目を開かせたゴブリンは一層の警戒心をあらわにしてアインを見ている。


「ほら、これが証拠だ。」

「ぎっ、ぎぃ(ば、馬鹿な)。」


 アインはゴブリンルーラーの頭を放り投げると、ゴブリンの側を頭が転がっていく。それを驚愕の表情で見守っていたゴブリンはアインを恐ろしい化け物を見るように恐怖に彩られた表情で声をあげた。


「くくく、悔しいか?悲しいか?それとも……嬉しいか?」

「……ぎぃ(嬉しいなど)。」

「ふっ、お前群れからいじめられていたんだろ?」

「……。」


 嬉しいという言葉にピクリと耳を動かしたゴブリンはその言葉だけを復唱して否定する。それは図星を突かれたかのようだった。

 その反応を見たアインは目を細めると口元を歪めるとゴブリンにそっと囁くように言葉を放った。


「ゴブリンのアルビノ種もしくは変異種か。珍しいからなぁ。」

「っ……!!」


 このゴブリンの身体は透き通るような白色をしており、アインが殺してきたゴブリン達とは体色が違っていた。それ故に他のゴブリンからいじめられており、大した抵抗も出来ずにやせ細っていた。


「くくく、いじめられていたんだろ。」

「ぎぃぎぃ(人の事情へとずけずけと)。」


 人の弱みに付け込み、心を引き込もうとするアインはまさに伝承上の悪魔のようで、踏み込まれたくない事情に遠慮を見せないアインをゴブリンは忌々しそうに睨みつけた。 


「はっ、それでお前らのトップを殺した俺だぜ、付いてくるか?」

「ぎっ……!?」

「ん?言ってなかったかぁ?俺についてこれば強くなれるぜ。誰にもいじめられることなくな。」


 そして、そのゴブリンルーラーを殺したのがアインという事実をゴブリンが効くと、睨みつけていた目を丸くして、その目を恐怖に染めた。


「ぎぃ……。」

「さぁ、選べ。来るか、来ないか。」

「ぎぃ(行く)。」


 群れを解体した元凶が抜け抜けとゴブリンを誘う。誘われたゴブリンは逡巡することなくアインの誘いに乗った。

 群れに特別の思いれはなく、むしろ苦しい思い出の方が多い。それを潰したアインはゴブリンにとっては悪い存在ではなく、さらにゴブリンをすぐ殺せるのに殺そうとしないのだ。生き残れるならばどの道を行くべきか、ゴブリンにとって言うまでもないことだ。


「くはははは。それでこそだ。契約だ。お前を強くしてやる。」

「ぎぃぎぃ(これからよろしく頼む)。」


 ゴブリンの目に紫色が宿り、二人はお互いに対面から握手を交わした。




「ってことで、こいつが新しい仲間だ。」

「「わふっ(よろしくー)。」」


 初めにゴブリンを出迎えたのは狼達である。人懐っこい性格の二人はすぐさまゴブリンを歓迎して、その周りをぐるぐると駆ける。


「ぎ、ぎぃ(よ、よろしく)。」

「きゅーきゅー(足、引っ張らないでよ)。」

「ぴーぴー(よろしく頼む)。」

「じゃあ、今日はもう休もう。」


 月明かりに照らされる泉の側でアイン一行は今日も穏やかな一日を終えようとしていた。彼らはこれからも穏やかな日々が続くことを信じて疑いもしなかった。


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