037 武器選び
戦いの日から三日が経った。完全に身体が回復したアドルは今日もまた訓練場へと赴いた。その足取りは少し重かったが、目は前を向いており、門をくぐる時にもためらいはなかった。
「教官。今日はよろしくお願いします。」
「アドル。身体はもう大丈夫なのか?」
アドルに対面して立っているダンテは心配そうにアドルの顔を覗き込むが、肝心のアドルはけろりとしており、ダンテの目からは戦いの結果が引きずっていないように見えた。
「はい。おかげ様で、もう問題ありません。」
「がははは。そうかよかったな。それじゃあ、武器庫に行こうか。」
「はいっ。」
アドルは両腕をぐるぐるとその場で回して、身体が完全に回復していることをアピールする。そんなアドルの様子にダンテは安心したのか大口をあげて笑いながら、アドルの肩をバンバンと二回上からたたいた。
「さて、先日の戦いぶりはよかったぞ。」
「ありがとうございます。」
「君はどうも受け身型の戦い方を好むみたいだな。目がいいのか、感覚が鋭いのか。はたまた性格なのか。相手をよく見てそれに合わせて動いている。」
武器庫に着いた二人はさっそくとばかりに本題に入る。ダンテはアドルの目を見て労いの言葉をかけると、武器庫にしまわれている武器を一つ一つ見回りながら、アドルの戦いに関して話していく。
「だが、攻撃が苦手ということはなく、相手の隙を見て攻めることも出来ている。攻防バランス型で受け身型寄りというのが正確か。」
「確かにあの日はカウンター狙いでしたけど……。」
あの日の戦いではアドルが基本的に受けに回っていて、アインが攻めであった。その構図は最後まで変わらず一貫としていた。それもアインとアドルのリーチの差に起因しており、また身体能力の差も加味してのことである。
つまり、それはアドルが自分の戦闘スタイルを相手に押し付けるのではなく、相手の戦闘スタイルに合わせて自分の戦い方を変えていたということで、受け身型の戦いを好むということだ。
特に攻撃型とか、守備型ではなくどちらも得意不得意としない器用さがあるから出来る戦い方である。
「まぁ、レンジの差もあったからそれも要因だろう。けど、あの戦い方は君に合っているような気がする。もしくはそういう戦い方を昔に見たことがあったのか。」
「あっ。」
「へぇ、昔に見たことがあるんだ。」
昔見た戦いとはヘレンとの闘いだ。あの時のヘレンはまさしく今回のように二人の攻撃を防ぎ、時には受け流し、攻撃さえしてみせた。まさにアドルの行動指針と一緒であり、そこに影響を受けているのは間違いない。
「うっ、なんだか嫌な感じですね。」
「がははは。正直だな。すまんすまん。」
「あー、いえ。」
ダンテは一つ一つアドルという人間の行動原理、行動指針をあげていく。アドルの言葉や反応からその正誤性を確かめているようで、アドルには自分の心を覗かれる気持ち悪さのようなものを感じた。
それを口に出すとダンテは大声をあげて嗤うと、身体の前で手を合わせると片目を瞑って頭を軽く下げる。にかりと笑いながら謝罪しているダンテを見ると、アドルはどうにも起こる気も起きずに許そうという気が起こる。
「それで武器の方だが結論を言うと曲刀がいいだろう。片手剣で特に斬撃に特化しているものが合っていると思う。」
「斬撃ですか。」
ダンテは収納されている武器の中から一本を取り出してアドルの前で掲げる。ダンテの持っている剣はシミターと呼ばれる剣で、分類として曲刀に値する。片刃しか付いていない剣はその剣先が湾曲しており、三日月形になっている。
「ああ、君は木刀を振るときに力任せに振るのでなく、刃を引くように木刀を振っていた。刃物は刃を引くときに切れるものだから、無意識でもそのように振れるのはいいことだ。」
「そうなんですね。」
ダンテは戦いの中でアドルが木刀をどう扱っていたかまでしっかりと見ていたようで、その剣の扱い方までアドルに説明している。
その説明を聞きアドルはぱちくりと目を瞬かせて一つ頷いた。
「だから、斬撃に特化している剣の方が君は好みそうだ。そして、斬撃に特化している片手剣と言うと曲刀が向いているだろう。」
「曲刀。シミターですか。」
「あとはシャムシールだとか、刀だとか。まぁ、それらのどれがいいかは実際に試してくれ。アーレンクロイツ商団はどの剣も取り扱っているからな。」
ダンテは今まさに持っている剣をアドルに手渡すと他の数種類の剣を取り出して、武器庫の外に向かって歩き出した。
「おおっ、ありがとうございます。」
「がははは。早速使ってみるか。」
「はいっ。」
二人が向かった先は訓練場の中でも武器や魔法の使用感を試す場である。そこの一画の壁に大小違う的が駆けられており、その横のエリアには藁で出来た案山子のような的が並んでいる。
「これがシミターですか?曲刀という割には湾曲していないような。」
「がははは。それは反りが抑えめのものだからな。この直剣、ブロードソードと比べると差は歴然だろう。」
改めてアドルは手渡されたシミターを観察するが、曲刀というには刃の反りが少なく見えて頭をひねっている。
すると、ダンテは手に持っていた一本片手剣の中でも両刃の直剣であるブロードソードを横に差し出すと、直剣の真っすぐな刀身と比べるとシミターの刃先が明らかに沿っているのがアドルの目にも映った。
「おおっ、確かに。これでも反っているんですね。」
「だろう。藁の的があるから切ってみるか。曲刀は刀身で薙いで斬るものだ。力任せに振り切るのでなく、切るものに刃を立てて引くように切る、だ。」
「こう、ですか?」
アドルは言われたとおりに刃を引くように意識して、藁を切りつける。だが、藁の的は完全には断ち切れず表面から3割程度しか切り裂けていなかった。
「上出来だな。後はイメージを固めて反復練習をするだけだな。」
「分かりました。」
しかし、ダンテの目から見て剣の扱い方は悪くなかったのか、特にこれと言って指摘はなく、反復練習を命じる。元々、無意識でも出来ていたことだ。意識してやれば上手くやれるのも道理だろう。
その後、ダンテが持ってきた数種類の剣をアドルは振るうが、そのいずれも藁の的を断ち斬ることは出来ずに終わった。
「それともう一つ教えておこう。確かナイフを持っていたよな。」
「これですか。」
アドルは右手に渦を浮かべるとそこからベルベットから渡されたナイフを取り出す。刃渡り30㎝ほどの刀身はいまだ使用されず、刃こぼれひとつない。刀身は太陽を反射してきらりと光っている。
「そうそう。基本的に戦闘用ではないが、緊急時はそれを使えば凌げるだろう。」
「はい。」
「そのナイフを戦闘に使う時は突き以外をしない方がいい。」
「えっ?」
ダンテの言葉に耳を疑ったアドルの口から間抜けな声が漏れ出た。手段が多ければ対応できる場面も多くなる。そう考えていたアドルとは正反対の言葉だったからだ。
「そのナイフを使う時は緊急時だといっただろう?そんなときに使い方を選択する時間なんてもったいない。だから最初から突くという意識でいるんだ。」
「なるほど。」
しかし、ダンテの続く言葉にアドルは目を大きく見開くと、納得したようにコクコクと首を縦に振った。
「どうせナイフは突くぐらいしかできないしな。相手に密着して突き刺して殺す。簡単だろう。技術もくそもいらない。ただ力の限り押し込むんだ。」
「確かに簡単ですね。」
「これだけ覚えておけばナイフの使い方は大丈夫だ。」
「分かりました。」




