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031 時を経て、12歳

 山の中腹にできた村を手ぶらで歩くのは12歳になったばかりの少年、アドルである。7歳の時とは違い整えらた髪は本来の銀色を美しく際立たせた。蒼の瞳はこの年にして確かな知性を感じさせ、勇敢な光を湛えていた。

 平民にしては質のいい服はアーレンクロイツ家の支給品である。彼がふらりと歩いていると二人の主婦が道端で会話をしており、その主婦の姿を確かめると美しく整った笑みを浮かべながら近づいていく。


「おはようございます!」

「……おはよう。」

「……おはよう。」


 アドルの元気な挨拶に二人の主婦は彼の方を奥に恐怖を宿しながらも挨拶を返した。7歳のころと比べると信じられない光景である。それもこれもアーレンクロイツ家の護衛見習いという立場のおかげだろう。


「あはは、今日もいい天気ですね~。」

「……そうね。」

「……ええ、明るいわね。」


 アドルの元気な話声とは裏腹に主婦二人は暗くどんよりとした気持ちを隠そうともせず、真っ当な返答をすることはない。会話にもならない会話にアドルは少しばかり落ち込んだ。


「あはは。では、僕は森に行ってきますね~。」


 アドルは泣くことはなかった。揺るぎない意志を持って森の中へと進んでいく。彼は信じていた。頑張れば報われると。そして今の現状でもだいぶ改善していると。




 アドルは慣れ親しんだ道を歩くように悠々と森の中を進んでいく。7歳のころは巨木に感じていた森の木々たちはいまだに高くはあるが、彼の成長した背もあるのか昔よりは小さく感じていた。


「よぉ、アドル。」

「アインか。何か用かい?」


 アドルは正面から向かってくるアインの様子に気がつくと足を止めて、正面から対峙した。そして、7歳の頃から変わらず二人の間には友情は芽生えることはなく、一人の人間同士として対面している。

 そんなアドルも7歳と比べると相応に成長していた。背はアドルより15㎝は高く、昔よりもよりがっつりとした筋肉質な身体を誇っている。


「そう邪険にするなよ。俺たちの仲だろ、な?」

「……ふっ。俺たちの仲、ね。確かに今までも僕たちは似た者同士だった。」

「ははは、だろ?」

「……否定はできないが、相も変らず魔物と一緒か?そういうところは一生相容れないな。」


 昔の話を思い出し、アドルはつい笑みを零してしまう。いつかに似た光景に、いつかに似た発言。どうにもおかしな状況に大笑いをしたくなるのを抑えて真面目な表情を浮かべる。

 そして、ナイフを渦の中から取り出すと、眼前に構えた。剣術のけの字もまだ知らないが、昔護衛の真似事をしていたからか、案外にも様になっていた。


「おいおい何をするつもりだ。それは、なんのつもりだ?」

「分からないかい?魔物は、人類の敵だよ。」

「何言ってやがる。こいつらは俺の仲間、……友達だ。」


 剣を構えたアドルにアインは恐ろしい怒気を放ち威圧する。が、アインとアドルの両名の間にはどこか笑いをこらえるような弛緩とした空気が漂っている。

 魔物もここ数年で大きく成長して、アインの怒気に合わせて魔力を身体から漲らせているが、闘う気は一切ないようで魔物たちは思い思いにリラックスしている。


「ふっ。魔物を仲間、友達とさえ言うか。……昔から変わらないな。孤独でない。」

「ああ、そうだろう。だから、お前も……。」

「やっぱり僕には必要ない。そんな馴れ合いは僕に必要がない。」


 7歳の時と同じ状況に同じ質問。アドルの出した答えは今ここでも変わらず、二人の道は近いようで遠い。重ならない道はすぐそこを通っているのにどうしようもなく重なることはない。


「……ははっ、そういうお前はさながら道化師ってところか?」

「ふっ、今の状況なら二人ともが道化師じゃないか?」

「くくく。」

「ははは。」

「「ホント、馬鹿みたいだな。」」


 二人はこの状況に耐え切れず吹き出してしまった。昔のことをネタに出来ることは喜ばしいことだが、それでも二人の仲が親しいものではないのだ。

 

「何二人で笑っているのよ。」

「やあ、エレナ。今日も可愛いね。少し昔のことを思い出したんだよ。」

「そうそう。エレナと会う前の二人の出来事をな。」

「へぇ、仲いいわね。」


 二人が大笑いをしているとエレナが二人の直ぐ側にやってきた。アドルとアインはエレナを歓迎するように手を広げると各々が口々に話す。大仰に手を広げる仕草からどうも先ほどからの演技臭いやり取りが抜けていないようだった。

 7歳の時よりも美しく成長したエレナは変わらず燃えるような赤の髪を頭の高いところで二つに結んでいる。ドレスは黒と赤で構成されており、少女の中に垣間見える大人の魅力を引き出していた。


「……あはは、明日は待望の日だからね。それでテンションが上がっているのかも。」

「くくく。よかったな。俺はここらで失礼させてもらうぞ。」

「……ええ、アイン。また会いましょう。」


 だが、二人の顔はぴしりと固まりその後で強張った笑みで動きが再開した。動揺を隠せない様子にエレナは顔を曇らせて、憂鬱な夢を思い出す。じわりとにじみ出る闇は三人ともの死角にあり、誰もが気が付かない。


「会うなんて簡単だろ。」

「……そうね。たまには家で……。何でもないわ。」

「ああ?そうか。じゃあな。」


 エレナは何かを言いたげな様子でいたが、結局それ以上語ることはなく、アインは首を傾げながら森の奥へと進んでいく。エレナはそんなアインの様子をぎゅっと胸も前で手を握りこんで見送った。


「じゃあエレナ、僕も少し森の中を散歩してくるよ。」

「私も付いて行っちゃダメかしら?」

「うん?珍しいね。いいよ。一緒に行こうか。」


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