026 VS魔装具士2
「アドル……俺が合わせる。好きに動け。」
「分かった。アイン頼んだよ。」
「おう。」
絶望的な状況に二人の間にあるわだかまりは一時的に解け、積極的な共闘という手段がなされる。お互いがお互いを意識しているからこそ、見えているものもある。そこには相手の実力に対しての確かな信頼があった。
「君たち、一緒に戦ったことはないんだよねぇ。連携なんて出来るのかなぁ?」
「はっ、任せておけ。お前のその顔に拳を叩きこんでやるからな。」
「へへへ、それは楽しみだなぁ。さぁ、かかっておいで。」
挑戦的な笑顔を浮かべるアインんお言葉にへらりとした笑みを浮かべながらも、どことなく嬉しそうに魔装具士は戦闘態勢をとった。
「アイン、行くよっ!!」
「ああ!!」
アドルが駆けだすとアインはその後ろを共に駆ける。アドルが右側に回り込む様な動きをすると、見事に揃ったタイミングで左側へと身体を駆けさせていく。
二人の視線がばちりと正面から合うと二人は同時に魔装具士の方へと急転換する。二人に挟まれる形になった魔装具士はその場を動くことなく、二人の出方を待っているようだ。
「はぁああ!!」
「おらっ!!」
「連携、ちゃんと出来てるねぇ。」
魔装具士を挟み込んでアドルとアインがぴたりとタイミングを合わせて初撃を繰り出す。軽々と魔装具士は受け止めるが、続けて繰り出される絶妙にタイミングのずれた攻撃は魔装具士の対応を微妙にずらしていき、魔装具士はやりづらそうに捌いている。
「へへへ。いいね、いいねぇ。」
「くっ……。」
「強ぇええ……!!」
二人は手、足、投石などあらゆる手段で飽和的に攻撃を仕掛けていくが、魔装具士にはまともに攻撃を一度もくらわせられない。まともな攻撃だけでなく、攻撃を掠ることさえまともに出来てはいない。
だからだろうか、まるで遊びみたいに笑いながら攻撃に対応している魔装具士を二人はその実力を素直に受け止めて、徐々にだが認めてきていた。
「反撃、解禁するねぇ。」
「はっ……!!」
「まじっ……?」
魔装具士の言葉に二人は僅かに動揺をしてしまい攻撃のリズムが大きく崩れてしまう。その隙を見逃す魔装具士ではなかったが、その動揺を付く攻撃をすることはなく、二人が後方へと飛びのくのを見送った。
「ほらっ、かかっておいでよ。」
「こいつっ……!!」
「いくぞっ!!」
余裕綽々で向かえる魔装具士の様子に二人はイラつきを覚えたが、しっかりと目線を合わせ合い攻撃のタイミングをそろえる。アドルの攻撃が右手で防がれると反撃の隙を与えないように、反対からアインが攻撃をする。
そのアインの攻撃が防がれると今度は反対からアドルが攻撃を加えてと、交互に時にリズムを変えながら攻撃するも魔装具士の防御を一向に崩せず、アインが逆に伸びた腕を掴まれるとアドルの方へと投げられる。
「ぐっ……!!」
「っ……!!」
「さっきからワンパターンだねぇ。」
身体が折り重なるようにぶつかり合い、二人はうめき声をあげて地面を転がる。地面に転がった二人はすぐさま態勢を整えようと身体を飛び上がらせると、魔装具士によって右の掌を向けられており、びくりと身体が止まった。
つまらなさそうに冷めた目で二人のことを見る魔装具士は相も変わらずへらりと笑っているが、その冷たい目だけは先ほどと異なり、恐ろしいまでの冷たさを放っている。
「……。」
「……。」
「防御も飽きてきちゃったし、魔道具の力も見せてあげるねぇ。」
魔装具士の冷え切った眼の冷たさに身体を固めた二人は返す言葉もなく、立ち尽くしている。死を向けられる恐怖に動けと叫ぶ心とは反対に身体はいうことを聞かず、その場に硬直している。
そんな二人の様子を見つめながら、魔装具士は右指にはまる五つの指輪の一つに魔力を込める。すると火球が掌に作られて、二人に向かって飛んでいく。
「くっ……!!」
「うおっ……!?」
火球を辛うじて避けた二人はべたりとその背に冷や汗をかき、次弾が装填された魔装具士の右手を見ると慌てて弧を描くように左右に分かれて駆けだした。
ぼっという音と共に火球は飛んでいき、アドルのいた場所を通過すると火球は急に方向を曲げてアドルを追い始めた。自分を追う火球に気が付いたアドルはぎょっとした表情を浮かべて、虚空から石を取り出し投石する。
「なっ……!?」
しかし、石は火球に当たった瞬間溶けてなくなり、火球は速度を落とすことなくアドルの背を追っていく。アドルは火球の変わらない様子にどうしようもない絶望を感じた。
「助けてあげましょうか?」
「は?」
「おまえ……起きたのか!?」
「助けてあげましょうか?」
突然廃墟の中に凛とした透き通るような少女の声が響いた。二人の視線が少女の方へと向くと、少女はもう一度同じ内容を話す。
困惑するように二人はお互いの視線を合わせて頷き合うと同時に口を開いた。
「助けろ!!……は?」
「いらない!!君は……え?」
「……どちらですか?」
アインが助けるよう言い、アドルが少女の身を案じる。お互いの意見が完璧に合うと思っていた二人は全く違うことを言う相方と目を合わせて、理解できないものを見るような目で見た。
正反対の意見を言われた少女は戸惑うように二人を交互に見る。そしてこてりと可愛らしく首を傾げると、当然の疑問を口にした。
「分かっているな。」
「もちろん。」
ばちりと目が合う二人はどちらともなく頷き合い、息を吸った。そして、またも同時に口を開いた。
「助けてくれ!!……え?」
「大人しくしておけ!!……は?」
「……。コントでしょうか?」
またも全く違うことを言う相方に二人は揃って落胆するように首を振った。そして、こいつダメだなとばかりに視線を合わせるとため息を吐き合った。
そんな光景を見ていた少女は二人のやり取りをコント呼ばわりして、戦闘中とは似つかわしくないやり取りをしている。
「コントじゃないよ!!危機的状況だから、そんな事している余裕はないよ!!」
「もういいから、助けろ!!」
「分かりました。“マナシールド”、“フィジカルブースト”、“リジェネ”。」
あまりにもあまりな言葉にアドルは叫ぶが、二度も繰り返された同じようなやり取りを見ると、説得力がない。が、今も彼は確かに火球に追われている最中であった。
アインによる助けを求める要請に少女は二人を対象に魔法を発動する。少女の放った魔法の光は二人を包み込み、溶け込むように消えた。発動した魔法効果は順に魔法耐性の向上と身体能力の向上そして、持続的に体力を回復する魔法である。
「補助魔法!?」
「こんなもの使えるのか!?」
「さぁ、あの男を打ち倒して見せてください。」
若干、蚊帳の外気味になっていた魔装具士は三つの闘志と恨みの籠った目で見つめられて、背中に冷や汗を一つ流す。しかし、この程度では余裕な状況は変わらないと思いなおし、へらりと笑顔を作る。
その傍目でアドルは自身の魔力を拳に集めて負ってくる火球をぶん殴る。爆発の後に残ったのは焦げ一つ付いていないアドルの肉体だけである。
「おまけもしましょう。”フィジカルダウン”、”アジリティダウン”、”ストロングダウン”、”ガードダウン”。」
が、少女から放たれた紫色の魔法の光が魔装具士の身体に纏わりつくようにして消えると、若干引きつった顔を魔装具士が浮かべて相好を崩した。
「ちょっとぉ、酷いんじゃないですかねぇ。」
「これならっ……!!」
「アドル、行くぞっ!!」
二人に挟み込まれて打撃を加えられる魔装具士は徐々にだが防御する手が間に合わず、攻撃が掠り始める。攻撃が掠り始めると二人はさらに調子を良くして、鋭い攻撃が増えていく。
魔装具士が有効打となる攻撃を丁寧に受けているとどうしてもかすり傷が増えていき、蓄積するダメージで動きが悪くなる。
「へへへ。流石にきついですねぇ。“心頭滅却”、“ヒール”。」
「は……?」
「ここで、回復……?」
魔装具士により戦況は振出しに戻った。気術による状態変化の常態化。さらに回復魔法。この二つを用いたことで振出しどころか、より悪くなったが正しいだろう。
回復魔法が使えるという情報は盛り上がっていた二人の心を軽く折り、戦意を砕くには十分すぎた。
「へへへ。さらに“ハック”、“ハック”、“ハック”。」
「は……ははは。なんだ、これ。」
「無理だ。どうあがいても勝てない。」
ハック。強化状態の解除。魔装具士がやったことと言えばただお互いの状態をゼロに戻しただけである。しかし、一筋の希望が簡単に掻き消されてしまった二人はもう立ち上がることはできない。
「ここで折れたら、何が残る。僕は負けない!!」
だが、それでもアドルは立ち上がる。今は戦友のアインの分まで虚勢でも、虚栄でも、何でも立ち上がる。ここで折れてしまったら、アドルの人生は何一つ残らないから。
「くくく、そうだな。俺も、最期まで付き合うぜ!!」
アドルに釣られるようにアインも投資を漲らせる。残り少ない魔力を燃やし、魔装具士を見据える。
「お待たせしましたわ!!私が助けに……って、あ~プリマ!!」
「エレナ様。お久しぶりです。」
「あ~、これプリマの企みですの。」
最後の激突が始まる、なんて時に間の抜けた声が廃墟を包み込んだ。
意気揚々とした声で突撃してきたエレナは少女の姿を見つけると知り合いだったようで、少女の名前を親し気に呼んだ。そして、プリマと呼ばれる少女も親し気にエレナを呼ぶと、闘志を燃え上がらせていた二人はぽかんと口を開いて事態の推移を見守る。
「ええ、そうです。最後まで素晴らしかったです。」
「そこの男もプリマのですわね?」
「ええ、最近拾いました。中々使える男です。ヘレン=ローザ―と名付けました。」
どこか上機嫌で浮かれるようなプリマの声は魔装具士のことをヘレン=ローザ―と呼んだ。その意味は野良。おおよそ人に名づけるものでないが、王都のスラムなんて場所にいた男であるから、そう呼ばれても仕方がないのかもしれない。
「毎度のことながら、悪趣味ですわね。」
「そうですか?そのままつけただけですが。」
「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?」
展開に付いていけないアドルは話を止めにかかり、そんなアドルに全員の視線が集中した。エレナはそんなアドルの肩に優しく手を置いた。
「アドル。また後で説明してあげるわ。それでは、私達はお暇させていただきますわ。」




