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025 VS魔装具士

「おいっ、本当によかったのか!?」

「仕方ないだろ。一番の戦力が無力化されて、目の前で女の子が攫われたんだぞ。」


 二人は質の良い白いドレスを着た少女を片手で抱える魔装具士の後姿を全力で追いかける。魔装具士との距離は一向に近づく気配はなく、付かず離れずの距離感を保っている。

 二人がお互いに全力疾走しながら魔装具士を追うことになったのは、それもこれも目の前でエレナが突然目を虚ろに立ち尽くし、そのすぐそばで身なりの良い少女が魔装具士によって誘拐されたためだ。


「ちっ、だがエレナの方にも付いていないと……。」

「……大丈夫。エレナはすぐに戻ってくる。」

「はぁ?何の根拠があって……。」

「あのエレナだ。敵の罠程度引きちぎってでもやってくる。」


 アドルの言葉はエレナが二人にどう思われているのかよくわかる発言であった。エレナはただの乙女であるのに失礼なものである。少しばかり好戦的で、少しばかり二人とよ強いだけのただの乙女なのだ。


「くくく、確かにな。あのエレナ、だからな。」




「ようこそ、いらっしゃいましたぁ。」

「どういうつもりだっ!!」

「どういうも何も……こういうことだよねぇ。」


 魔装具士は廃墟の中に入ると後を追うようにアドルも一人中に突撃していく。身なりのいい少女は腰ほどもある長い髪を頭ごと前にぐたりと垂らしながら、アドルが突撃までにかかった時間は相当に短いのにも関わらず、丁寧にロープで椅子に縛られている。

 その少女の首元にナイフを添えながら魔装具士はへらりと笑っている。


「っ……!!その子を放せ。」

「おやおやぁ?圧倒的に有利な状況を手放すわけないねぇ。」

「……。どうしたら解放してくれる。」

「んー、そうだなぁ、それよりもう一人は何処行ったのかなぁ?」


 少女が傷つけられる可能性に相応の危機感を抱くアドルは焦りに早口になりながら、魔装具士に対して真正面から対峙する。

 しかし、アドルに怒りの目を正面からぶつけられても魔装具士の相好を崩すにはほど遠く、とぼけた飄々とした態度で対面している。ぽんぽんとナイフの平で少女の肩を叩きながら首を傾げるさまは一層の恐怖をアドルに植え付ける。


「……エレナの方に残した。」

「おや、そうなんだぁ。じゃあ、どんっ。」

「なっ……!!」

「くっ、ばれてる。行くぞっ!!」


 突如、魔装具士は廃墟の天井へ手を向けるとその手からは火球が放たれ、天井にぶつかると爆発し轟音を立てて瓦礫が降り注ぐ。天井に乗っていたアインも急になくなった足場に対応しきれず、その身を宙に投げ出された。

 アドルは驚きの声をあげるがすぐさま状況に反応して、少女の方へと駆け始める。それを見たアインも宙でバランスを取り、臨戦態勢をとる。


「これはぁ、どういうことかなぁ?」

「女の子は助ける!!」

「おうっ、こいつは任せろっ!!」

「へへへ。今の子は怖いなぁ。」


 アドルは少女のいる場所に辿り着くと、落ちてきた瓦礫が少女のところに運よく落ちていないようで、ほっと一息ついた。

 アインは地面で綺麗に受け身をとるとすぐに魔装具士へと接敵し、右こぶしを繰り出す。が、軽々と左手で防がれると、左手、右手、それに両脚で流れるように打撃を叩きこんでいく。

 しかし、魔装具士はその全てを左手と身のこなしだけで捌ききってしまう。あまりの実力差にアインの額には知らず知らずの内に汗がたらりと一筋垂れる。


「無事だっ!!」

「こいつっ……!!」

「その子かばいながら戦うのかい?無謀だねぇ。」

「ぐっ……く、そっ……。」


 アドルは少女を確保したことをアインに報告するが、そのアインはそれどころではない。自身が攻撃しているのに一向に打撃は当たる気配はせず、片手だけで対処されるという事態に追い込まれていく。

 アインを追い込んでいる魔装具士は依然余裕を崩さず、へらへらと闘いの場に相応しくない笑みを浮かべるばかりである。


「期待外れ。へへへ、そっちの子はどうだい?」


 魔装具士が左手を振るうとアインの身体は嘘みたいに吹き飛んでいき、アドルの目の前までゴロゴロと転がっていく。アドルはちょうど目の前で止まったアインの様子を心配そうに見るが、一瞥だけして魔装具士の方へと駆けていく。


「くっ……。おりゃぁあああ!!」


 アドルの速度の乗った拳は魔装具士にとってはまだまだ話にもならず、アインと同様に左手で軽々と止められる。次々と繰り出される攻撃もそのいずれも有効打にならず、伸びた腕を引っ張り上げられてアドルの身体が宙を舞う。


「まだまだ粗いねぇ。お腹に当てるよぉ。」

「は……。っ……!!」


 ぱっと腕を放されてアドルの宙を舞った身体は重力に従って落下していく。その下で待ち構えていた魔装具士は拳を握りしめると、アドルのお腹を攻撃すると宣言する。

 アドルの身体は自然とお腹を守ろうと、その身に宿る魔力がお腹へと集中する。流れるように滑らかに集まった魔力は魔装具士が繰り出した拳の力を確かに軽減したが、それを軽々と貫通して地面へと身体を倒れ伏した。


「アドル……!!」

「うんうん。今のはよかったねぇ。でも、お腹以外のところを攻撃されていたらどうしていたんだい?」

「くっ……!!」


 魔力は自然とお腹に集まりそこの防御力をあげたが、その分他の部位の防御力は下がっていた。その状態で攻撃を受けていたら当然無事では済まなかっただろう。

 そんな風に忠告を告げる魔装具士だが意地の悪いことに、魔力を集めていなかったらアドルを一撃で沈めていたであろうほどの攻撃であった。


「へへへ、おいでよ。」

「この野郎っ……!!」


 魔装具士はアインに手で掛かって来いと表現して挑発する。挑発を受けてアインは魔装具士の方へと駆けていき、左方面に急に進路を変える。魔装具士の目線はアインの方を追っていく。

 左側に60度程度移動したアインはその身を再度魔装具士の方へと向けて駆け寄っていく、魔装具士はアインを迎撃しようと左手を軽く構えると、右足に攻撃を受けてびくりと身体を数瞬だけ止めた。


「おっ、と。危ない危ない。」

「全然効いてないじゃないか!!」

「こいつっ!!」


 アドルは完璧なタイミングで死角の右側から魔装具士に足払いをかけたのにも関わらず、態勢さえ崩すことが出来ず、数瞬しか動きが止まられなかった事実につい戦闘中にも関わらす悪態を吐いてしまう。

 アインはアドルの作った数瞬という時間に攻撃を放ったにもかかわらず、魔装具士によるアインの目にも見えない速度で攻撃を止められて、確実に敵わないことを悟った。


「少し楽しくなって来たねぇ。」

「余裕かましていられるのも今のうちだぜ。」

「おや、まだ魔装具も、魔道具も使ってないんだがねぇ。」

「はっ……ははっ、化け物が……!!」


 へらりとした表情を好戦的な表情に変えて魔装具士は一つ呟く。が、その次の瞬間にはへらりとした表情に戻っており、その姿がアインの心をざわつかす。

 アインの自身を鼓舞するように放たれた強気な言葉は魔装具士による絶望的な言葉を引き出させてしまい、アインはついに顔を引き攣らせて、じりと後方へとすり足してしまった。


「おやおや、化け物と呼ばれる君に化け物と言われるとは、人生何があるものか分からないねぇ。」

「アドル!!時間を稼ぐっ!!その子を連れて離れろっ!!」

「でも……。」


 アインは勇気を持って、後方へとすり足した分とさらにもう一歩足を踏み出した。彼は過去最大に燃え滾る魔力の波動を感じて、ここで尽きることもこの時点で覚悟していた。


「こいつには二人がかりでも勝てない。そいつを庇いながらなんて、到底不可能だ。」

「くっ……。分かった。」

「へへへ、さて、ここで君たちには残念なお知らせだよぉ。」

「なっ、嘘だろ?」


 アインと魔装具士の視線が交差する。アインは魔装具士の目線から何を感じ取ったのか、燃え滾っていた魔力も萎んで、呆然自失してしまう。死人のように顔が青白くなり、身体もすこし震えている。


「おやぁ、気づいたのかい?噂もあながち嘘じゃないかもねぇ。」

「アドル……。」

「アイン……?」

「魔道具を使っていないと言ったけど、それは一部嘘だったよ。ごめんねっ。」


 魔装具士は頭上を指さすと、二人の視線は自然と誘導される。そこは魔装具士によって開けられた大穴があり、青空を隠すように薄く緑色の光で膜が張られているのが見える。


「この建物は結界に覆われているんだよねぇ。」

「嘘、だろ?」

「アドル、覚悟を決めるしかない。」


 ボスからは逃げられない。古今東西この理は変わらない。圧倒的な戦闘力の違い、絶体絶命の状況でさらに二人には絶望が降り注ぐ。


「さぁ、第二ラウンドの開始だねぇ。」

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