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024 観光

 三人は宿の宿泊の手続きをするとすぐさま宿を飛び出て、街の散策を開始した。終始楽しそうにあたりを見渡すアドルは村にいる時よりも遥かに楽しそうで、そんな様子を見ているエレナも心が躍るようだった。

 アインも心なしか普段の様子よりも柔らかい雰囲気を纏っており、存外楽しんでいるようであった。


「ここがおすすめだわ」

「なにここ?」

「屋台だわ。焼き鳥が売っているのよ。ここのソースが絶品で一番のオススメだわ。」


 エレナが紹介したのは露店商の一つ。ここらで商売を始めて30年の大ベテランが務める焼き鳥屋である。30年という長い年月親しまれているだけあって、その味は保証されておりがやがやと人でにぎわっている。


「へぇ、手で掴んで食べるんだ。」

「おっ、確かに上手いな。」

「でしょう。ここはいつもいい仕事をするわ。」

「お前、お嬢様だろ……。」


 全てが初めての経験のアドルにとっては何もかもが楽しく映り、周りをきょろきょろ見渡してはどうやって食べているのだとか、どんな人が食べているのかだとかを観察している。

 どうやら何度も来ているらしいエレナに呆れたように言葉を漏らすアインであるが、ちゃっかりとその手には新たに購入するべくお金が握られており、気に入ったようであった。


「ふふん。いいじゃない。市場調査もうちの家の立派な仕事だわ。」

「くくく。物はいいようだな。」




「これは、クリーム煮。」


 アドルは思わずある露店商の前で立ち止まった。最近あった忌々しい出来事を思い出し、少し眉間にしわが寄る。しかし、思考を切り替えるように頭を振ると、露店商の方に歩いていく。


「あら、いいものに目を付けましたわね。ここのも美味しいわよ。」

「食い物ばかりじゃねぇか。」

「衣食住の食。人にとって重要なものでしょう。」

「すげぇ堂々としてるな……。」


 アインはエレナのあまりに堂々とした態度に呆れを通り越して、関心さえしてしまったようだ。アインの心底ではこいつすげぇと尊敬する気持ちさえ湧いてきて、ふと我に返りやはり呆れ果ててしまった。


「おじさん、これもらえますか?」

「お、おじさっ……。お、俺ってそんな……。」

「あらあら、まだ若いわよ。お兄さん私に一つください。」

「ほ、本当か?最近髪が……。」


 自分の子供位の年齢の少年におじさんと呼ばれたことがよほどショックだったのか、目を白黒させてお玉を呆然と握っている。エレナのお兄さんという言葉に顔をあげたが、しきりに髪を気にしていることから完全には振り切れていないようだ。


「ほらお兄さんのクリーム煮、おいしそうで待ちきれないわ。」

「あ、ああ。毎度。お嬢さんの安くしておくよ。」

「あら、ありがとう。はい。」

「ありがとう。」


 最後は笑顔で安くした露店商の男は髪の毛を気にしながら、髪、髪と未だに呟いており、傍目から見たらただの不審者である。


「目上の人にはお兄さん、お姉さん呼びでいいのよ。そうしたら喜んで安くしてくれるわ。」

「そうなんだね。覚えておくよ。」

「ふふふ。そうしてちょうだい。」

「変なことばかり教えられているんだな……。」




「これは?」


 アドルの問いかける先には赤の絨毯の上に指輪やネックレス、腕輪などのアクセサリーとその横に杖や水晶、金属製の筒など訳も分からないものが並んでいる。その中心にはターバンを頭に巻き、薄汚れただらんとした服を着た男が座っている。

 手にはパイプタバコを持っており先端からぷかぷかと煙が漏れ出て、男の周辺を白く靄がかかったように覆っている。


「魔装具、魔道具の露天商ね。」

「魔装具?魔道具?」

「魔装具は魔法の力が宿っていて身に着けるだけ様々な効果を得られるもの。」

「そして、魔道具は魔力を込めさえすれば魔法を使える道具さ。おひとつどうだい?」


 魔装具とは魔力の伝導率の良い金属と特殊な魔物素材で作られたものであり、表面に描かれた紋様や魔物素材の特性によって様々な効果を発揮する装備である。アクセサリーだけでなく強力な武器も存在しており、家宝として保有している貴族家も少なくない。

 魔道具は同じく特殊な素材を用いて作成されたもので、魔力を流すことによって魔法効果を発揮する。利点として本来持っていない属性の魔法でも使用することが出来る。が、消費魔力と威力が釣り合っていないため、使用感はピンからキリまでである。


「……鑑定書は付いているのかしら。」

「おや、鑑定書をご存じとは。しかし、残念ながら鑑定書が付いているのは一部だけだよ。王都の鑑定所は高いからねぇ。」

「あまり信用なりませんわね。」


 鑑定書とはその名の通りに魔装具、魔道具などの性能を記した証明書で基本的に購入したときに付いてくるが、鑑定書を紛失する者も少なくなく、その場合の信用は低くなる。王都にある鑑定所で鑑定書を貰えれば、信用も取り戻せる。


「あたたた。お嬢ちゃん酷いなぁ。これでも目利きには自慢があってねぇ。」

「魔装具は身に着けるだけで効果を発揮する。でも、呪いの魔装具、呪装具もあるのよね。」


 魔装具は様々な効果を与える。それは決していい効果だけを与えてくれるものではないのだ。他人に害意をもって作成された魔装具などは最悪で、つけるだけで命が危ぶまれることもある。そのための鑑定書である。


「あれま、全部知っているのかぁ。商家のお嬢さんかなぁ?んー、どこだったかなぁ、ここら辺で商いしてるのはぁ……。」

「……。最初から知っているってわけね。」


 へらりと笑っている男は相好を崩すことなくすっとぼけた様子でトントンと頭に人差し指を幾度も当てる。間延びした声は対面するものをイラつかせて、冷静さを失わせるだろう。プカプカと煙を吐き出し続けるパイプタバコを持っている点も最悪だ。

 対には我慢の限界に達したようでエレナは臨戦態勢へと突入する。全身を纏う赤い光は敵意を持って男にぶつけられる。


「へへへ。待ってくれよぉ、嬢ちゃん。君と争うつもりはないってぇ。」

「なら、怪しい言動は慎んだらどうかしら?」

「本当に君と争うつもりはないってぇ。そう、君とは、ね。」


 だが、男には関係ない。エレナの敵意など意に返す必要はなくへらへらと変わりなく笑い続けるだけである。絶対に勝てる余裕を持っているのか、それとも他の理由があるのか。


「は?アドル……!?アイン……!?」

「嬢ちゃんも、じゃあねぇ。」

「待ちなさいっ。」


 果たして、勝負をすることなく勝っていただけである。いつの間にか男の全身を覆っていた煙はぱっと遠く透き通るように搔き消えて、エレナの目の前からは初めから何もなかったかのようにすべてが消えてしまっていた。


「はっ……!?何もない?いや、これは……。」


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