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018 父子喧嘩

 執務室より足早で逃げだしたアドルはその足を自然と訓練場の方へと向けた。途中すれ違う人々は皆仕立てのよい給仕服を着ており、この商家の金回りがよいことが伺えた。


「アドル様でございますか。」

「え?あっ、お久しぶりです。」

「この度は魔物災害より村を守っていただきありがとうございます。」


 アドルは後方から急にかかった声にびくりと肩を震わせて振り返った。そこに居たのは執事服である。相も変らず精錬とされた魔力は美しく、流麗なものだからその場にいるかどうかさえ魔力では判別できない。


「イエ、結局一体だけしか追い払えませんでした。村には五体は来ていたという話でしたよね。」

「ほほほ。十分でございます。もう一体村に来ていたら、それだけ被害も大きくなっていたでしょう。」

「そうでしょうか……。」


 事実五体ばかりの黒蜥蜴でさえも数軒ほどの家が燃やされているのである。もう一体増えれば被害が拡大した可能性は高いであろう。そればかりか人的被害さえ出かねない。そもそも仮定の話などしても仕方がない、結果うまくいったなら万事良いのだ。


「ほほほ。気になるのでしたら、次は全て打ち倒せるくらいに強くなればよいのです。」

「ははは。確かに、そうですね。」

「今回の一件でアドル様は大きくご成長なされたでしょう。魔力操作も格段と上手くなっております。後三か月もすれば魔法を扱う下地が出来るでしょう。その時を楽しみに待っております。」


 たしかにアドルの魔力操作は黒蜥蜴との対決から格段に上手くなった。生死がかかった闘いを経たことで人としての器が大きく成長した。また最後に無理矢理発動した魔法の影響もあるだろう。


「はい。その時はよろしくお願いします。」

「ほほほ。くれぐれも焦らぬように頑張ってください。」

「はい。」




「アドル!?」

「父さん……。」

「お前はまた邪魔しに来たのか!?」


 訓練場の前でアドルは自身の父親と対峙していた。それは一般の父と子の空気感ではあり得ないものであった。アドルを見た瞬間に父は目をかっぴらき、荒い口調で大声をあげ始める。

 アドルはその父の様子を見て早くなる鼓動を押さえつけ、微かに顔を下げる。


「父さん、別に……。」

「お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃだ!!」

「父さん……。」

「ようやく恵まれた転機もこうやってお前が潰しに来たんだろ!!」


 父はアドルを一方的にまくし立てて攻め続ける。怒りに肩を震わせて、充血した瞳は子を見るものでは決してない。その転機というものもアドルの存在あってこそなのは父の知るところではない。


「違うって……。」

「くそっ、どれほど邪魔をすればいいんだ。この右腕だって!!」

「っ……!!」

「はは、は。お前なんて、お前なんていなかったらいいんだ。」

「っ……。」


 父の本来あるはずの右腕は肩から無くなっている。左腕でないはずの右腕を抱えるようにする父の姿は誰から見ても痛々しいものであった。そして、その右腕がない原因もたしかにアドルのせいなのである。

 アドルが思わず顔をあげると唇を嚙みしめて、全身を怒りに震わせる父の姿があった。決して意見が交わることがないのが瞳に宿る拒絶の色から伺い知れた。


「そうしたら右腕を失うことも、エレーゼから笑みが失われることも、そんな事なかったのに。」

「っ……母さんが、母さんが泣いているのはお前も悪いだろっ!!」

「はっ、何もかもお前がいなかったら起こらなかったことだ。すべてお前が悪いんだ。」


 アドルはあまりにも他責思考過ぎる父に苛立ちを抑えることが出来ず、きっと睨みつけると懸命に怒鳴りつける。が、肝心の父はアドルを責めることしか頭になく、会話になりはしない。


「……。呆れた。」

「は?」

「だから、呆れたって。他人に責任を押し付けることしかできない奴に何を話しても無駄だなって。」

「このっ!!」


 激情に駆られた父の左拳は何にも遮られることはなく、アドルの頬へと突き立てられる。が、たかが一般人の拳では魔力で保護されたアドルに痛みを感じさせることはない。そればかりか、殴りつけた拳の方が痛みを感じる始末である。


「全然痛くない。信念も、責任も、覚悟もない奴の拳なんて痛くも痒くもない。」

「ぐっ……。」


 アドルの肉体に心にも、父の拳は言葉は届くことがない。何も感じないならそこには何もないのと等しい。痛む拳を抱える父はそんなアドルを見て、同様に視線を揺らした。


「……僕が悪いのは確かだ。」

「は、はは。そうだろ。この化け物め。」

「でも、それと同じくらいお前も悪い。このろくでなしめ。」

「……。」

「……。」


 アドルは自身の過失を認めた。それに便乗するように笑い声をあげてアドルを罵る父の姿はもう大人には見えない。どうしようもないただのろくでなしでしかなく、父という看板も意味を成してはいない。


「はっ、クソガキが。お前が悪いに決まっているだろ。話にならねぇ。」

「同感だね。無駄な時間を過ごした。」


 お互いにもう交わることはない。アドルは曲がることはないだろう。もし変化が訪れるとしたら、アドルの父次第である。アドルの父という看板を取り戻し、確かに役割をこなすことが出来ればその時に満ちは交わるだろう。


「ちっ、ふんっ。二度と帰ってくるな。」

「ああ、そうかい。分かったよ。母さんの胸に縋ってあやしてもらいな、父さん。」

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