#6 ゲストハウス
タツミの本邸と庭園を挟んだ南側にあるゲストハウス。
我々、ナーバダ公爵家とニール・ヴィーバラ公爵一行はここで寝泊まりしている。
ゲスト用の大きな寝室が5つ、個別に浴室やトイレ、ドレッサーと荷室までついている。
ゲストの従者用に小さな寝室が15室あるが、こちらは2つの共同大浴場等がある。
20~30人に対応するキッチンや大きさの違うラウンジが5室と食堂が3室。
これより規模が小さいゲストハウスがあと2棟あるそうだ。
今夜はタツミ家と行き来することなく、このゲストハウスで夕食を済ませてディーシャを寝かせてから
妻とラウンジで、あらためて今朝の散歩についてユニカから聞いていた。
「それはすごいな」
物を動かす魔法は、わが国では5年ほど前に王都でマルガン男爵の弟、ダーシャ・マルガンが発表して話題になったが未だ、ダーシャ以外は使えていないらしい。わたしが驚いていると
「ディーシャ様とわたしは、ベルンハルト様から秘密にしてくれと言われ了承しました。
ですので夕食の席でディーシャ様はそこだけ省いてお二人にお伝えしていましたが
わたしは約束を破りました」
ユニカはとても悔しそうだ。
ベルンハルト様よりディーシャとの約束を破った、との思いが強いのかもしれないな。
「ユニカ、伝えてくれてありがとう。
ニールと離れ、わたしたちが二人だけになる最速のタイミングで報告してくれたんだ。
キミはナーバダ家に仕える者として正しいことをしているよ。
これをわたしたちが誰かに話すことは無い。
娘の、ディーシャにとってはじめての友人が優秀な魔法使いと知れて嬉しい、それだけだ。
な?プリヤ」
わたしが振ると妻が続いた。
「そうですよ、ユニカ。
あなたがディーシャを大切にしてくれているのは良くわかっています。
いつも感謝していますよ」
「ありがとうございます、アレックス様、プリヤ様」
マズい、ユニカが泣きそうだ。話を少しでも逸らせなければ。
「それにしても優秀なバーのマスターがベルンハルト様の先生とか、予想外が過ぎるな」
「はい。
時々難しい言葉も使っていましたが、ディーシャ様とベルンハルト様に伝わるように説明していました。お二人とも8才とは思えないほど利発なので、お二人は新しい知識を楽しんで、バーのマスターのレオニードさんもお二人が吸収する様子を見るのが楽しそうでした。
レオニードさんは、バーの営業を終えてから友人と朝まで呑むことが多いそうで、さすがに陽が昇ると友人を帰し、店と店の前の道を掃除してから寝るそうですが、道の掃除中にベルンハルト様とよく会うそうです」
「ははは、そうか。
仕事終わりに酒を飲んで、寝る前に先生をしてくれたのだな。
レオニード殿は商人でもあり、我が領にも来ていると言っていたな。
冗談ではなく本当のことなら、グレープフルーツを商品にしてくれた恩人でもある。
礼をしなければな。
これから領に来たら優遇するよう手配しよう。」
数年前まで、海外との取引は西の砂漠の更に西、トラキアギア連合国が年に1度だけ春の一番海が穏やかな時期にやってきていた。
ある時、「隣のエイバラーン王国も来たいらしいが連れてきてもいいか」とトラキラギア連合国の代表から聞かれたので、そんな遠くから来れたとしても大した取引にはならないだろ、と話半分に思い「いいよ」と生返事しておいた。
その翌年。
トラキラギア連合国の商船が、見たこともない巨大戦艦を5隻引き連れて現れた。
戦争でも仕掛けられたかと大騒ぎになったが、
沖に巨大戦艦を残したトラキラギア連合国の商船が接岸し
去年も話した代表が「去年、許可取ったからエイバラーン王国の船を連れてきたよ」と。
自領だけでなく、廻りの貴族までぞろぞろと様子を見に来たので
しかたなくわたしが代表して巨大船に乗り込んだ。
巨大船は揺れずに安定している。
これも巨大なバリスタがいくつも備わっているが、これのおかげで大きな海の魔獣に対抗できてここまで来れるようになったとか。
倉庫には冷蔵室や冷凍室まであって、とんでもない物量の商品が詰め込まれていた。
「5隻共に同じ状況で、買ってくれるならあるだけ売る。買わなくてもいい。今回は挨拶だから」と。
たまたまコメも麦も豊作で、文字通り売るほど余っていた。
エイバラーン王国の代表数人に近隣の街を含めて視察してもらうと綿が上質らしい。
トラキラギア連合国からは言われたことがなかったが。
今回と次回の取引について、かなり長い日数をかけて調整した。
その中で「失敗で取引出来なくてもいいから載せられるだけ持っていけ」と領主から指示されたと。
以来、貿易は成功していて更に増やすためにこちらで船を買うことになった。
家族サービスできた上に、娘の大きな成長に繋がっている。
良いこと続き過ぎて、逆に怖い。
「ユニカ、これからも頼むぞ」