#44 避難小屋会議 その1
後ろでは飛竜がゆっくりと降りてくる。
飛竜が飛ぶのは重力魔法と風魔法を使うらしい、とは200年前の知識で、その後の研究でどこまで解明されたのかは知らない。このあたりの『生活に関係ないニッチな情報』は、こんな遠くの田舎にはなかなか回ってこない。図鑑の飛竜の項目は大した内容では無かった。
広げた両翼が6メートルくらいあってもはためかせていないので、砂埃が舞うようなことは無い。
そして正面から近づいて来ていた馬群はスピードを落として止まろうとしている。
馬は6頭。乗っているのはみんな衛兵。。。。じゃないな、衛兵の黒っぽい制服に似ていて気づかなかったけど先頭はダスカーロ叔父さんだ。
ダスカーロ・クロケット。夏にはじいちゃんが引退して叔父さんが子爵を継ぐ。ただ俺が物心ついた頃には、じいちゃんが村を散歩してる間に叔父さんが村長としての実務をしてる記憶しかない。
少し距離を置いた所で止めた馬の手綱を取り巻きに任せて叔父さんと工場の守備隊、リカルド副長だけ徒歩でこちらに来る。この辺りの馬は飛竜に慣れないどころか、そもそも見たことも無いだろうから近づいたら暴れるかもしれないからな。
隣のウォックに
「なぁ、飛竜を近くで見ようぜ」
と話しかけると、ウォックは『猛烈に困っています』な顔で俺を見ている。そうだな、ウォックも飛竜をはじめて見たんだよな。『なんすか?あれ。美味しい?攻撃していいやつ?それともちょー怖えの?』とでも思っているのかな。
「あれは飛竜だ、人と仲良さそうだから大丈夫だよ」
「飛竜を見かけて追いかけたらお前と囚人がいた、どういう状況だ?」
叔父さんがしかめっ面で問いかけてきた。知らない人が見たら『甥を怒っている叔父の図』っぽいけど叔父さんは通常運転でこんな感じ。父さん曰く『叔父さんはユーゲンのことを気に入っているから父さんと同じように普通に話して問題ない』らしいけど、たまにしか会わないので少し緊張するのはしょうがない。
「工場に向かう途中、天木の下で休んでたら囚人服を着た2人に工場への道案内を頼まれました。うち1人が工場の研究員ジュリアさんの兄を名乗ったので、2人にはこの先の避難小屋で待ってもらって、その間にジュリアさんに確認しようと思って歩いていたところです。」
「宜しい。ユーゲンもついて来なさい。」
おや? 『子供は後ろで隠れていろ』くらい言われたらどうやってついていこうか、と思っていたから嬉しい誤算。ウォックに
「行こうぜ」
と言いながら歩き出すと飛竜から降りた乗員がこちらに話しかけてきた。
「私はシャムーコリ州、飛竜隊のヴァネッサ・ウォーケンです。あの2人のことでそちらの責任者と話したい。」
お、女性の飛竜隊員だ。飛竜隊は俺が所属していた200年前には男女比が半々くらいだったけど今はどうなのかな。
「私はタツミ領、ルボロ村の村長代理、ダスカーロ・クロケットだ。代理だが、この村の責任者だ。この先の小屋で話そう。後ろの2人とついてくるように。」
叔父さんの返事が偉そうだけど、飛竜隊が通達無く他領に入るのは禁じる協定があるそうなので、これでも穏便な対応なんだろう。俺とウォックは大人たちのやり取りをガン無視ですたすたと飛竜に近づく。8才の子供ははじめて見た飛竜に興味津々なのだ。振り向いた飛竜の手前で止まるとヴァネッサが笑顔で話しかけてきた。
「やあ少年、私はヴァネッサでこの子はラウラ。飛竜を見るのははじめて?」
「はい。ぼくはユーゲン、こっちのグリーンウルフはウォックです。」
ヴァネッサの雰囲気が貴族っぽいので自然と返事が『はい』と『ぼく』になった。俺って俗物。
飛竜、ラウラとの距離は2~3メートルってとこで、あえてこの間隔で止まった。今のちっちゃな自分からは巨大でデフォルメしたゴ○ラに見える。前世では伝統の怪獣映画の主役を見た時『飛竜の翼をとってスラッと縦に長くしてイボイボつけたみたいだな』って思った。
ラウラは俺よりウォックに興味があるらしく、相撲の立ち合いのように手の甲を地面につけ頭を下げてウォックと互いの鼻を近づけて匂いを嗅ぎあっている。しばらく見ていたらどちらも尻尾を振り出したので仲良く出来そうで良かった。ラウラの尻尾はデカいから砂埃が舞ってるけど。
次にラウラがちらっとこちらを見たので、左の拳をゆっくりと前に突き出した。
「おや?ユーゲン、良く知ってたな。」
ヴァネッサに感心されたこのポーズははじめて会った飛竜に敵意が無いことを知らせるためのもので、飛竜乗りには当たり前でも一般には広がっていないのかもしれない。
「飛竜に興味があったから、いろいろ調べてました。」
ってことにしておこう。
ラウラが満足そうに口角を上げたので、ウォック同様 俺も気に入ってもらえたらしい。
ラウラを迂回した囚人服の2人が近づいて来ると、ヴァネッサが深いため息を吐いてから「小屋に向かいましょう。ラウラ、ここで待ってて」とそれぞれに声を掛けた。
振り向くと叔父さんの片眉が一瞬あがったけど何に反応したのかはわからなかった。
叔父さんが先導して小屋に入ると『待って居ろ』と言われなかったので俺とウォックが続き、ガスティン、ボーリック、ヴァネッサの順で、最後にリカルド副長が入って扉を閉めた。
扉を閉める前のリカルド副長が、馬に乗ったままの隊員に「そのまま、そこで待て。」と声掛けしていた。
小屋に入ったメンツがみんな椅子に座ったところで、ウォックは床に伏せて大あくびかましてるけど、叔父さんでもヴァネッサでも無く予想外にガスティンがリカルド副長と俺を指さしながら第一声を発した。
「部下は入れずにそっちと子供を入れたのは、俺のことを話していい相手ってことだな? よし、こっちのもう一人、足枷付きはボーリック。陰謀に巻き込まれたそうだから主役はこいつだ、話を聞いてやれ。」
「ちょっと待て、ガスティン。ヴァネッサ・ウォーケンさん、あなた領空侵犯で撃ち落とされても、今ここで拘束されても文句は言えない状況なのは理解していますね? まずは弁明を。」
叔父さんがガスティンを止めたのはいいけど叔父さん、このイケおじマッチョと知り合い?だから外で片眉を上げたの?それは気になるが『陰謀』なんて物騒な話には関わりたくないから外でラウラと遊んでいたかった。
「はい、はじめに話し合いの場を設けていただき感謝します、クロケット様。我がシャムーコリ州に滞在していた重要人物が行方不明になりまして、彼が自分の意志で行きそうな場所を手分けして捜索しておりました。私の所属する飛竜三番隊は、タツミ領の北の玄関であるキーストラの街の北門の外で待機していました。今朝、三番隊隊長から『ルボロ村へ飛竜が飛ぶ許可が下りたから行け』と命令を受けて飛んで来たところ、その人物を発見して皆さまとも遭遇した次第です。ですので私自身は領空侵犯した自覚はありません。」
ヴァネッサ・ウォーケンの説明を聞いて叔父さんは頭を抱えたが、しばらくして再起動した叔父さんがやっと声を出した。
「ウォーケンさん、私は知らされていないので、どちらの不手際かは調べて報告します。
おいガスティン、お前の気まぐれでシャムーコリ州に迷惑を掛けただけでなく飛竜を見つけたのがここにいるリカルド副長で無かったら撃ち落としていたかも知れん。捜索してくれたシャムーコリ州の皆さんと、俺とリカルドに感謝しろ。」
ここまで連れてきた俺は?って聞きたかったけど我慢した。
「いやスマン、悪かった、反省してる。シャムーコリ公爵にもタツミ殿にも詫びを入れる。だからボーリックの冤罪調査に協力してくれんか?」
ガスティンさん、ずっと偉そうな態度だったけどホントに偉い人っぽいな。でもなんで偉い人が囚人服なんて着てるんだ?そう思ってたら叔父さんが眉間のしわを増やしてこちらを向いて、答えてくれた。
「この男がなぜ囚人服姿なのかは知らんが。。。。。
ガスティンはな、私の腐れ縁の同窓生で、残念なことに王族でもあるんだ。」




