#42 ルボロ村のユーゲン
ほぼ1年ぶりの投稿ですが、前話より少し時間と場所がずれています。
ベサイブや造船村であれやこれやが起こる数か月前。
ここは港町ベサイブから西へ、徒歩なら2日くらいのルボロ村。
と言っても俺が居るのは海に面した村を見下ろせる、山を少し登ったところ。
山の上には採石場があり、そこへ向かう道から少し外れるとこの広場が見える。
広場は一辺が200メートルくらいのほぼ正方形で、中心から村側に寄ったところに1本だけ大木が聳える。村では「天木」と呼ばれる大手企業グループのコマーシャルに登場しそうな大木の木陰で座り、両足を前に投げ出して後ろに手をつき一休み中。
編み上げブーツの上にジーンズの裾を被せ、ジーンズの上には脛あてと膝あて、長袖シャツに革ジャンとグローブといった出で立ちで、外したゴーグルは2つの水筒と木の根に立てかけた。
『広場』は天然芝を整えたサッカー場の様で、村を向いた一方は開けているが三方は桜の木に囲われていて、今はもうほぼ散ってしまったので誰もいないが先日まで花見で賑わっていた。
雲はしばらく眺めていないとわからないくらいゆっくりと形を変えて、海も穏やかに見える。海の手前、村の中心部はミニチュアのよう。煙突から煙が上がる家も少ないな。これだけ暖かければストーブを使う家もほとんどないだろ。
一緒に来た緑狼<グリーンウルフ>のウォックは、天木の反対側で寝転んでいる。
広場に先に到着して寝転んでいたウォックのほっぺたをつまんでぷにっと引っ張りながら
「お前は速いな」
と遊んでいたら、ジトッと残念な子を見る目で俺を数秒見てから反対側に行ってしまった。
グリーンウルフは村の多くの家で飼われていて、家の守りや狩りのお供など古くから共存しているらしい。2年くらいで成獣と成り、15~25年くらいは活動出来て寿命は20~30年だそうだ。
体高は1メートルくらいで全身の毛色は深い緑、熟成した茶葉くらい濃い色が多いが個体によって多少の濃淡があったり目の上や足先が白かったり黒かったりする。
あっちの世界にも、その前の土地にもグリーンウルフは居なかった。
ウォックは10才で俺が8才、ウォックが生まれてすぐ家に来たから俺がこの村で生まれてからずっと一緒だ。巨大だったウォックの目線に最近やっと追いついてきた。
全身が深い緑の毛に覆われているのは他と変わらないが、ソフトモヒカンの様に少し長い部分が陽にあたると青く見えるのと、他の多くは鋭い目つきなのにウォックはたれ目。なのでゴキゲンで耳を垂らして口角を上げて目が垂れている顔はとても幸せそうで和む。今は大木に隠れて姿は見えないけど近くにいると安心する。
こうしてぼーっとしていると、いろいろと思いだすことがある。
俺は数年前に高熱で寝込んだ。
起きたら前世と前々世を思い出していた。記憶の限りでは3度目の人生、ってことだ。
前々世はおよそ200年前。
今のエイバラーン王国建国の頃で、王国北西部のシャムーコリ州にある小さな村で生まれ育った。
当時は世界規模で魔獣が増えて『人類の危機』とも言える状態の中で、なんとか生き延びて憧れの『飛竜部隊』の一員として魔獣を狩っていた。弓や魔法の腕もそこそこに、それなりには活躍したと思う。
20才を過ぎた頃、風のうわさで『勇者召喚』を聞いた。
俺はまだ若かったからガムシャラだったが、年かさの先輩方は疲れ切った顔に少しの余裕が戻った。
しばらくすると『勇者の活躍で今の王都のあたりでは魔獣が減っている』との情報。
『東の砂漠あたりはダメらしい』とか、『北の帝国は滅んだかも』など真偽の定かではない話に混ざり『勇者がこの森に応援に来る』と言われ始めた。俺たちの部隊は故郷の村や州都から離れ王都との間の『魔の森』と呼ばれる地域で活動していたが、人も飛竜も限界が近く『この森は放棄しよう』と訴える隊員も出てきていたので勇者のうわさは空気を変えた。
なんとか踏みとどまり勇者一行と合流。
勇者の火力は圧倒的で、随行者たちも空を飛ぶ俺たちとの連携にもすぐに慣れて『これなら森の制圧からシャムーコリの州都方面にも予想より早く向かえそうですね』なんて会話も。
緩んだつもりは無かったが、勇者の随行者の一人である聖女ファビオラに
『森から帰ったら幼馴染と結婚するので祝福を』なんてお願いをして快諾された翌日、ファビオラを庇って魔獣の体当たりをくらったところで意識を失った。
その後、この世界とは違う、魔獣も居なければ魔法も無い『日本』と言う国で生まれ、過ごした。
物心がついた頃から少しずつ飛竜部隊のことなどを思い出し始め、生まれ変わりの自覚や違う世界での常識のすり合わせに苦労した。余計なことを言って『おかしい子』と思われないよう、口数は減った。
アニメを観たり物語を読んでいたらふと気づいた。
『ああ、前世でのモブな俺は自らフラグを立てたのか』と。
それでも無駄死にでは無かったと思いたい。
『影の階級社会』の中でもがきながらも仕事を覚え、体力の限界をつかんでいたつもりになっていた30才で、夜中に仕事の区切りがついて寝ようと思ったところ以降の記憶はない。
たぶん、過労死だな。限界を超えたらしい。
そして今。
200年前には存在しなかった『タツミ領のルボロ村』でユーゲン・クロケットとして平和に生きている、まだ8年だけど。
父さんはルボロ村を治めるクロケット子爵の三男で俺はその次男だから、父さんまでは『子爵家の親族扱い』で、俺は『子供のうちは貴族の親族扱いで、18才の誕生日にクロケット家を外れて平民となるがクロケットは名乗って良い。親子関係も変わらない。』と言うちょっとややこしい立ち位置なのだ。
立ち位置がそうなだけで、村の生活自体は時間も人も緩やかで事件も無い。隣村で一昨日、グリーンウルフの子供が生まれたのが村の最新ニュースだ。そんな緩々な村での暮らし。
そうは言っても領内には罰金で済まない犯罪者の強制労働地はいくつかあって、上の採石場もその一つ。
送られる犯罪者のほとんどは、海の玄関である港町ベサイブか陸の玄関『キーストラの街』から来るらしい。囚人には足枷がつけられ、体力自慢には相応の重りが、魔法が使える者には使えなくする魔道具が付属するとか。
更に公表していない脱走対策はいくつかあるので安心してください、と周知されている。
「おい!こぞう!」
人の気配には気付いていたけど、すっとぼけていたら怒鳴られた。
左手100メートルくらい先の、広場の入り口当たりを見ると真っ赤なツナギを着たおっさんが2人。
あのツナギ、囚人服じゃん。安心できないじゃんか。




