#41 音
「おい、起きろ。」
ん?だれ?今何時?まだ真っ暗じゃん。
「起きたか?ベルンハルト。とりあえず体を起こせ。」
んー、まだ寝ぼけてるけどとりあえず上体を起こして後ろに立てかけた枕に背中を当てた。話しかけてくる声の主は見えないな。
「面倒くさいことになるから小さな声で話せ。君と話がしたいんだ。」
まだ頭がぼーっとして冴えないけど、人は見えないし気配もない。でも声は聞こえる。なんだか全方位からすごく小さな声が聞こえているような感覚。その声も言葉ははっきり理解できるけど男性か女性かわからない加工されたような感じだ。
「まずは名前を教えて欲しいかな。」
下手に動けないし余計なことは話したくない。
「ああ、失礼。仕事では『音』と呼ばれているよ。」
「聞いたこと無いな。夜中に、ひとの寝室に勝手に入って来た理由も知りたいな。」
知らない名前だな。他所の諜報員とかフリーの殺し屋とかかな。少しずつ考えられる程度には頭が起きてきたかな。
「北部ではそこそこ有名なんだけどね。あっちで仕事してたから。こういうかたちで会いに来たのはね、自己紹介とこれから話す頼み事には話が早いと思ったからなんだよ。」
「まだよくわからないけど、とりあえず話してみてよ。」
ぼくの命を奪いに来たのならとっととやってるよね。それとも聞きたいことでもあるのかな。我ながら冷静だな。自分の命が軽いってことは無いよな。まあ、聞いてみようか。
「私はね、北部の貴族が嫌いなんだよ。だから北部の貴族同士で足を引っ張りあうような仕事を受けてきたんだ、今まではね。もちろん面と向かって『北部貴族であるあなたたちが嫌いです』なんて言ったことはないよ。それが今回、ある北部貴族から『タツミ家の誰でもいいから仕留めてこい。』って依頼があったんだ。」
相手はそこで言葉を止めた。こちらの様子をうかがってるのかな。よくわからん。
「それで?」
先を促してみた。
「南部の貴族は今まであまりかかわらなかったからね、好きでも嫌いでも無いんだ。しかも依頼主は『その仕事が終わったら王都で一仕事してもらう』って言ったんだよ。私は北部貴族が嫌いなだけで、それ以外の貴族や平民や、ましてや国の混乱なんてゴメンなんだ。この仕事を受けないって手もあったけど、そうすると別の誰かが受けるだろ?もし成功したら、その大小はわからないけど南部や王都は混乱すると思うんだ。それは私が望まない事なんだよ。」
「そうなんだ。」
また止まったから相槌を打ってみた。今のところは穏便に話は進んでるな。何かを仕掛けられたら対処できるかな。枕の裏に短刀はあるな。ぼくが使える中で、有効な魔法はあるかな。誰にも気づかれずにここに来ているような相手に対応できるかはわからないけど話の内容と並行して考えよう。
「だから仕事を受けた。期間は半年。今日、ここに来るまで半分の3カ月かかったよ。残りの3カ月の間に依頼主を止めたいんだよね。」
「ぼくにそんな力はないよ。頼む相手が違うと思うんだけど。」
「そうかもね。誰に話すのがいいかタツミ家を調べたんだ。領主か嫡子は『知らん』って私を始末する可能性が高そうだ。ベルヴェルートさんが良さそうだんたんだけど、なかなか捕まらない。それでこの方法なら、ここに来て何もしなかったことが貸しになるかと思ってね。君と君の母親と兄の3人だったら君が一番冷静に話を聞いてくれそうだったから。」
「あなたは個人だから止められないってこと?」
「いや、組織だけど一枚岩ではないんだ。私と同じ考えの者たちと、混乱が好きな者たちで分かれるね。混乱派をおとなしくさせて依頼主を止めるのは、私たち穏健派だけでは厳しいから協力して欲しいんだ。協力してもらえなければ私たちは消えるだけ。」
話が本当なら、この人に害意はなさそうだけど。
「あなたたちが消えたら次は混乱派が来るってこと?」
「そうなるね。」
「ぼくが決められる事ではないから明日、家族に話してみるけど。返事はどうすればいい?」
これ以上、詳しい話は聞かない方がいい気がする。
「ケンドリック州の州都にトントン亭って食堂がある。そこの店主に『音に会いたい』って言ってくれ。ああ、店主は組織と関係ないからね。1カ月以内にリアクションが無い場合も、私たちは消えるよ。」
「寝ぼけて忘れるかもしれないから、机の上のメモに書いといてよ。」
「わかった。やっぱりお前は噂通りの面白いヤツだな。」
なんだ、噂って。ぼくはちょっと変わってるかもしれないけど面白いって言われる程ではないと思うんだけどな。
「どこで聞いたの?」
「いろいろさ。具体的には言えないな、私に繋がるヒントになるからね。」
「そう。あと、ここに入った方法と、この『声』はどうしているかを教えてよ。」
「ここには空を飛んで来たんだよ。『声』については今は教えられないな。私と君と、今後の協力関係が築けるかどうかによるね。」
「なんだ、残念。」
本気で残念だ。魔法か魔道具だと思うけど。
「やっぱり面白いな。想像して君なりに研究しておいてよ。じゃあね。」
周囲から魔力に包まれていた感覚が消えた。すると窓が開いたのでそちらを見ると、黒い影がバルコニーから上に登って行った。
「ホントに空を飛んで来たのかな。」
窓を閉めて帰って欲しかったな。しょうがないのでベッドを降りて自分で窓を閉めた。
どうせ今騒いでも捕まえられないだろうな。それが良い案とも思えないし。
さて、明日は忙しくなるな。どの順番で行動しようかな。考えることが多すぎて寝られそうにないな。
まずは家族の無事を確認するか。




