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#40 服と生地

造船村に戻ってからは、午前中のうちに砂浜で遊んで午後は自由に過ごすことが多くなった。


自由に、と言っても剣や魔法の練習をしたり本を読んだり兄上と地下書庫に潜ったり。

あっという間に1カ月くらいたったけど、ジャンゴとマーヤの2匹はヨタヨタしていたのがかなりしっかりと走れるようになった。ユージとシェイラもほぼ毎日来てくれる。雨の多い時期も超えつつあって、昼間は少し暑くなってきた。


「ディーシャの服はディーシャの国の衣装なのよね?布がいっぱい重なっててキレイなんだけどそろそろ暑くないの?大丈夫?」


昼食後のラウンジでシェイラからの質問が飛んだ。

なんとなく同じことを思っていたんだけど、男のぼくから聞きづらいことを聞いてくれた。文化の違いってどう聞いたらいいかわからなかったんだよね。


「ナーグドラ王国の貴族ではあたりまえのデザインなのよね。少しずつズレて重なった薄い布が透けてグラデーションがかかるんだけど、ベースのワンピースも熱は籠らないし重なった布は薄いから重くないし暑くないのよね。それにナーグドラ王国はどこに行っても一年中ここよりもっと暑いから、今くらいなら全然大丈夫。」


ディーシャに言われてみんな驚いた。


「もっと暑いの?一年中?」


「そうよ。だからベサイブに到着した時には少し寒いくらいだったわ。船の中で聞いてはいたんだけどね。」


それから日傘はあるけどナーグドラ王国では貴族が従者に持たせるもので、ナーバダ家では帽子を好んで日傘はほとんど使わないとか、風魔法と水魔法が得意な人は平民でも高給で貴族に雇われるとかあちらの暑さ対策を教えてもらった。


「水をとても細かくしてそよ風に乗せる魔法はベルヴェルートが時々使ってますね。ベルンハルトは見たこと無い?」


母上に言われてちょっと考えてみた。


「記憶に無いので今度会ったら聞いてみます。」


「わたしはタツミ領のみなさんの着ている物に装飾が少ないと思いました。エイバラーン王国の王都から来ていたみなさんの服はすごくキラキラしていたのですけど。」


そうなんだよね。タツミ領の服は平民もシンプルで『古い記憶』に近いんだけど、コバックス侯爵は首、手首、足首にヒラヒラした布がいっぱいついて、ジャケットはそのヒラヒラを目立たせたいのか手首まで届かない短めの袖に首回りも襟がないノーカラーってやつ?だった。そのジャケットもスパンコールって言うのかな?なんか装飾がついてたな。


「エイバラーン王国では、元々コバックス侯爵が着ていた服が男性の正装なのよ。ジャケットの装飾はここ10年くらいの流行らしいのですけどね。タツミ領は初代の開拓から始まったから貴族の正装も動きやすさを重視したデザインだし、軍服や平民の服も初代が夫婦でデザインしたものが元になっているらしいわ。」


「勇者様がお二人でデザインされたのですか?!」


母上の解説にディーシャが食いついた。そう言えば、ディーシャがベサイブに着いた日に勇者物語が愛読書だってこそっと言ってたな。


「あれ?ケンドリック公爵とマルティーノはこちらのデザインでしたね。。。」


「南部の貴族は行動派が多いし初代の頃からタツミ領との行き来もあってタツミのデザインが定着しているわね。冬服も違いがあって面白いわよ。」


初代様は先頭に立って魔獣を狩っていたらしいからなぁ。動きやすさ重視で、元の貴族服が『動かないことこそが貴族』みたいなところがあるけどその逆を行って王にも認めさせたおかげでぼくは『ヒラヒラ』を着なくて済んでいるんだよね。


「服と言えば、そろそろ商人が来るから皆で選ぶといいわよ。」


母上は商人を呼んでいたらしい。

以前、見本で選んだ夏服以外に部屋着とか水着とか、追加でいろいろ持ってきてくれるように頼んでいたそうだ。うちの家族だけでなく、ディーシャやユニカさん、シーラさん、ユージとシェイラの分まで。きっと女性陣は夕食前まで選ぶだろうな。


メイドが準備が整ったと呼びに来たので、男女で分かれて別々の部屋に向かった。

ユージと二人なのでそれほど時間は掛からないだろうなと思っていたら、ノックされた扉が開いて兄上と母上、商人のトマスさんが入って来た。

。。。前言撤回。これは時間がかかるな。


ユージは服を選ぶのは好きだ。だけどぼくが面倒くさがりであまり時間をかけないので、ユージはぼくに合わせて時間をかけないよう気を使っていた。そう、ぼくはそれに気づいていて君に甘えていたのだ。すまぬ、ユージ。

母上は、ぼくがまだ小さいからか可愛らしい服をぼくに着せたがるんだよね。着たくない服は断固拒否したからいいんだけど。


今回は、服よりも見本の生地に興味があるんだよ。


「トマスさん、コットンは触り心地が良くなってるけどリネン生地はずっと変わらずにザラザラしたままだね。」


「おっしゃる通りです。職人も頑張ってはいるのですが。ここに来る前に柔らかいリネン生地が出来たのですが、強度不足で職人は製品化できないと。見本はお持ちしたのでどうぞご確認ください。」


ぼくの指摘にトマスさんが試作品の見本を取り出した。

トマスさんは生糸から服飾を取り扱う商会の跡取りで、今はより良い生地を職人さんたちと開発することに注力している。トマスさんのところのコットンは元々全国的に評判がいいんだ。それを更に良くしつつ、『貴族に売れるリネン生地』の開発が今の目標らしい。


「ホントだ。この見本はシャリシャリした触り心地だけど硬かったりちくちく刺さる感じが無いね。強度が足りないんだ。残念だね。」


母上や兄上、ユージも見本の生地を触ってみて「ホントだ」とか「これはいいね」とか言ってる。


今は自分が着る服よりも、トマスさんの研究の方が気になるんだよね。


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