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#4 早朝のさんぽ

ディーシャたちが来てから1週間。


早々に、子供3人の間では敬語と敬称はやめた。

「友だちならいいよね」で押し切られた。


本来の目的である船の売買についての打ち合わせが続いている。

母上たち女性陣は、お茶会やショッピングで楽しんでいる。


ぼくはどちらも1日ずつ参加した。


船の売買は少し複雑だった。

友好国とはいえ、軍用艦にもなる高性能の大型船をそのまま売るのはマズいんだそうな。

安全を損なわず、バリスタなどの備え付けの武器を減らすか射程距離を落とすか。


「武器を減らしても増設できるんでしょ?」


ぼくが浅はかだった。

手持ち武器程度の大きさならともかく、大型武器を下手に増設すると重量バランスが崩れてひっくり返ったり。台座の設置方法にも必要な技術があったり。それらのノウハウがあってこその、タツミ領の大型船らしい。


そして、それらもろもろの調整は、エドワード・グッドラン副艦長がナーバダ公爵家と交渉して、

父上がここエイバラーン王国の王や隣国のトラキラギア連合国と話し合っていたらしい。

だから父上は、この2年 出かけてばかりいたんだな。

。。。ちゃんと働いていたのに誤解してた。ごめんよ、父上。




朝食後、ラウンジでお茶を飲んでいるとディーシャがたずねてきた。


「今朝もどこかにいってたの?」


「散歩だよ。午前中に特別な予定がなくて天気が良ければ、街を歩いてるんだ。

 昼間で人通りが多い場所は警護が必要だから。

 ぼくが「ちょっと行ってみたい」だけで警備隊員を何人も連れまわすのは申し訳なくて。

 早朝なら、警備隊のデカーンだけについてきてもらえれば歩けるから。」



なんて会話の翌朝。

デカーンの横にディーシャお付きのユニカさんが後ろ手を組んで待機していた。


「さあ、行きましょう!」


ノリノリのディーシャを先頭に4人で歩き出す。

特に目的地も無く歩くだけ。

でもディーシャはとても楽しそうだ。


「昨日、馬車で通った道なのに、違う道みたいで楽しいよ」


ひょっとしたら普段のディーシャはこの散歩のように「気ままに街をただ歩く」ことも出来ないのかも。そう思ったけど楽しんでるところに水をさせないので聞けないな。


と、思っていたら、ユニカさんが近づいて一言、


「ありがとうございます。お嬢様が毎日楽しそうなので」


ユニカさんも嬉しそう。


「楽しんでもらえて良かったです」


なんて返しているうちにもディーシャはずんずんと進んでいくが、その先に知った顔を見つけた。


「おはようございます、レオニードさん」


「やあ、ベルンハルト」


ほうきと塵取りを持ち、店の前の道路を掃除しているレオニードさん。

細身の体で伸長は180cmくらい、肌は透き通るように白く、黒髪を後ろで束ねて

ちょっとヨレたワイシャツの上にベストを着ている。

こけた頬に無精髭が浮いて眠そうなところまでがいつもの風貌。


「今日はデートかい?」


ぼくの横に立つディーシャを見ながらからかってくるレオニードさんをスルーして、と、一瞬

考えたけど恩人を雑に扱うのもマズいので


「ディーシャ、こちら そこのバーでマスターしてて、ぼくの先生でもあるレオニードさん」


一応、紹介してみた。


「初めまして、ディーシャ・ナーバダです。」


「やあ、初めまして。レオニード・ニルソンです。先生なんて、はじめて呼ばれたけどね」


そう言ってレオニードさんは笑った。


「ベル、寄っていくかい?」


一部の親しいひとは、ぼくのことをベルと呼ぶ。


ディーシャはお店に入ってみたそうなワクワク顔で、護衛のユニカさんは一瞬警戒した表情を浮かべ、ぼくの護衛のデカーンはいつもの無表情。


「ユニカさん、大丈夫ですよ。レオニードさんはぼくが保証します」


ぼくの言葉とそれにうなずくデカーンを見て、ユニカさんもうなずいた。

異国の、小さな窓しかなく薄暗いバーに貴族の護衛として警戒するのは当然かも。

そんな状況で8才のぼくを信用してもらえたのは、ちょっと嬉しい。


建物は、1階がバーと倉庫で2階にレオニードさんがひとりで住んでいる。

バーに入るとレオニードさんが照明を明るく調整した。

驚いているユニカさんによると、ナーグドラ王国には照明の魔道具はあるけどそれに調光機能は無いらしく、うちの屋敷やゲストハウスでは見たけど、街の店舗にまであるとは思わなかったそうだ。


ぼくが背の高い椅子にいつものように飛び乗ると、レオニードさんは4人にグレープフルーツジュースを出してくれた。


「このグレープフルーツだけでなく、お酒や葉巻もナーグドラ王国産のものをいくつか置いていて、お客さんには好評ですよ」


レオニードさんからナーグドラ王国の話が出て、自国の物が喜ばれていることにディーシャとユニカさんは嬉しそうだ。

ユニカさんによると、ナーグドラ王国ではもともと食べられていなかったグレープフルーツ。

エイバラーン王国の商人に「食べれそうだね」と言われてから流通がはじまったそうな。


「その「食べれそう」はわたしが言ったんだ。だからナーグドラ王国の商人に感謝されて、優先的に、安く売ってもらっているよ」


レオニードさんが他にもナーグドラ王国での体験談を話してくれる。

ぼくははじめて聞くこともあって楽しいし、ディーシャは商人たちの駆け引きの話が面白かったみたい。



「ところでレオニードさんは何の先生なんですか?」


「んー、たとえばさっきまでのナーグドラ王国での話とか教えてくれるし。

 父上やエドワード副艦長とは違った人たちと会っていたりで、2人とは違う話をしてくれる。

 あとは魔法と魔術の先生。」


「魔法と魔術が最後かよ」


ディーシャの質問にぼくが答えるとレオニードさんに突っ込まれた。

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